佐々木 眞
もうええわ、わたしおとうちゃんとこいきたいわというて母身罷りき 蝶人
祖父、小太郎は、「主イエスよ」といいながら琵琶湖ホテルで亡くなった。
祖母、静子は、急を知らせるベルを押しながら亡くなった。
父、精三郎は、お向かいの堤さんに頼まれた反物を運びながら、駅前の病院で亡くなった。
母、愛子は、寒い冬の夜、自宅で風呂上りに櫛梳りながら亡くなった。
愛犬ムクは、自分を山で拾ってくれた私の次男に、「WANG!」と叫んで亡くなった。
さて恐らく、次は私の番だ。
私は、どんな風にして死んでいくのだろう?
それを思えば、そら恐ろしい。ほんまに恐ろしい。
私は最後の審判にかけられたら、いったいどんなところへ行くんだろう?
人殺しこそやってないけど、人さまには口が裂けても言えないこともやってきた私。
天国になんか、到底行けそうにない。
絶対に行けそうにない。
では地獄か? 地獄に落とされるのか?
地獄の沸騰した釜の中で、生きたままグツグツ煮られて、閻魔さんだか大天使ミカエルだかに、ヤットコで、えいやっと舌を引っこ抜かれるのか?
それを思えば、そら恐ろしい。ほんまに恐ろしい。
ほんまに恐ろしいが、ちょいと面白くもある。
ワクワクするところもある。
あっちへ行ったら、お母ちゃんやお父ちゃんやおじいちゃんやおばあちゃんやムクに、ほんまに会えるんやろうか?
先に亡くなったお母ちゃんは、またお父ちゃんと一緒に下駄の鼻緒をすげているんやろうか?
おじいちゃんやおばあちゃんは、中庭の奥の八畳の間で、「十年連用日記」をつけたり、裁縫をしたりしているんやろうか?
ムクはムクゲの根方で、朝寝して宵寝するまで昼寝して、時々起きてWANGWANG吠えているんやろうか?
そこへ私が「ただ今」なんて、もにょもにょ言いながら姿を現すと、
みんなびっくりしたような顔をして、
「なんや、まこちゃんやないか。よう戻ったなあ!」
と、口々に声を上げるんやろうか?
ムクはWANGWANG鳴きながら、私に飛びついてくるんやろか?
そうだと、いいな。
そうだと、いいな。
ああ、ほんまにそうなら、ええな。