彼方

 

爽生ハム

 

 

呼応する緑のススに
手のひらが触れる
手の熱が吸いこむ
音読を
ひとつひとつ
球体として丸めこんでいく

声をかけられ
ひとつひとつ
彼はトゲトゲしい
彼女は冷んやりする
この人は八百屋かな
あの人は未亡人なのか

などと
時を忘れ
不在な噛み心地は生まれる
反応が順応に見えるくらい
今この形の緑のススを
受け容れる

球体の容器が
わたしの内で鳴りはじめ
隠し事みたいな養分をつめていく
そのさま
実に愛おしく
その愛おしさを
緑のススに返そうとする

それは
球体の一室となり
わたしの頭上まで浮きあがり
その場で吹いた
風に乗り
自由に失意に暮れはじめる

返そうとするトゲトゲしさを
彼女は冷んやりと弾く
ああ
あなたが未亡人でしたか
しかもあなたはもう向こう岸

じゃあやっぱりわたしが
八百屋でしたか
どうりで顔が泥だらけだ

泥だらけを
水が流したから
わたしは綺麗

わたしは汚れていた
それだけしかわからない
彼方はどうですか?

 

 

 

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