八月の歌

 

佐々木 眞

 

 

いやさか、いやさか
葉月になれば、
ものみなすべてが、帰ってくる。
みんな、みんな、帰ってくる。

朝から高らかに鳴き誇るのは、クマゼミ、ミンミン、アブラゼミ
負けじと声を合わせるのは、ニイニイ、ヒグラシ、ツクツクボウシ
みんな、みんな、帰ってきたんだ。
去年のやつらが、帰ってきたんだ。

滑川には毎度お馴染みのカモのカップルに加えて、
大亀のドン太と息子のドン太郎、
久しぶりに青鷺のザミュエルも姿を見せて
みんな、みんな、ブルームーンを見上げています。

いやさか、いやさか
葉月になれば、
ものみなすべてが、帰ってくる。
みんな、みんな、帰ってくる。

八月二日の夜七時
三つの連続台風で由比ヶ浜に流された、と諦めていたら
オオウナギのウナジロウが、帰ってきたんだ。
懐かしい故郷の川に、帰ってきたんだ。

「おいウナジロウ、小町の鰻獲り名人の爺さんの手から逃れて、よく戻ってきたな」
と声を掛けると、
天然ウナギのウナジロウは、夜の滑川でくねくね、くねくね泳ぎながら、
いつものように軽やかにジャンプしてみせたんだ。

いやさか、いやさか
葉月になれば、
ものみなすべてが、帰ってくる。
みんな、みんな、帰ってくる。

もうすぐお盆
耕君の弟の健ちゃんも、
久しぶりにおうちに、帰ってくるでしょう。
亡くなったおじいちゃんやおばあちゃんも、
手に手をとって、帰ってくることでしょう。

いやさか、いやさか
葉月になれば、
ものみなすべてが、帰ってくる。
みんな、みんな、帰ってくる。

 

 

 

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