芦田みゆき
部屋の窓をすべて鎖で縛った
無数の青い矢があたしに向かって
その一瞬確かに見た三次元の肉体が
黒いラシャ紙に焼きついて丸まった
マッチ売りの少女が戸を叩く
外は何世紀昔だろう
あたしは
探されていることを意識しながら
息を潜めたが
青い矢に成り変わったあたしは
向かう的をやはり探さなくてはいけない
マッチ売りの少女が獣に跨って
戸を突き破ってきた
不規則に燃え上がるマッチの火は
唯の炎に過ぎず
黒いラシャ紙が少女の体を裂いた
―『記憶の夏』昭森社―