お葬式ごっこ

 

村岡由梨

 
 

ねえ、ママさん。
今日わたし、ネズミの死骸を見つけたんだ。
だから、ビニール手袋を買って、
それをはめて、死骸を持って、
神社の木の根元に穴を掘って埋めたんだ。
パパさんは
「バイキンがついてるかもしれないから、気を付けなさい」
って少し嫌がってたけど。

それからお花屋さんへ行って、
「死んだネズミにお供えする小さな花束を下さい」
って言ったら、店員さんは少しびっくりしたような顔をしたけど、
かすみ草と1本の赤いガーベラで、小さな花束を作ってくれた。
その花束を、ネズミを埋めた木の根元に供えました。
死んだネズミの口元が、
猫のサクラの口元に少し似ていたよ。

大好きなサクラを愛おしそうに撫でながら、眠は言う。
「うちにいる3匹の猫を搔っ捌く夢を見たの。
猫は肉食動物なのに、草食動物みたいに消化器がいっぱいあった。
ふふふ、可笑しいでしょ?」と屈託なく笑っている。

何かを失ったことってある?
何かを悲しいと思ったことある?
もし今サクラが死んでしまったら、どう思う?
私が矢継ぎ早にそう聞くと、眠は朗らかに笑いながら言った。
「サクラが死んだことなんてないんだから、わからないよ!」

ねえ、ママさん、
もし今ママさんが死んだら、私に悲しんで欲しい?
いたずらっぽく笑って、眠が言う。
私は少し考えて、無理に悲しまなくていいよ、と答えた。
私の嘘つき。

でもね、時々眠のことがわからなくなるよ。
眠の心の中にある、暗くて黒い冷たい渦に飲み込まれるような気がして
心の芯からゾッとするの。
そしてどうしようもなく惹かれるの。
ねえ、本当の親子ごっこをしようよ。
あなたは、私の想像なんてはるかに超えている。
本当に賢い人だね。

私が、そう言うと
眠は「ほめないで」と気色ばんで反論する。
ほめられたくない。
ほめられると、心が冷たくなる。
わたしを全力で否定して欲しい。
わたしが大嘘つきだって、認めてほしい。

わたしは、わたしの本質を本当に理解して、
わたしを否定してくれる人が欲しいの。

ママさんは、全然わかってない。
ママさんは、全然わかっていない。
わかったような気でいないで。
わかったような詩も書かないで。

 

 

 

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