れいきゅう車

 

塔島ひろみ

 
 

海へ向って颯爽と走る
スピードをあげたい が それはできない
静かに すべるように 厳かに走るのが私の 決まりだから
あっ桜だ ほらもう桜が咲いている
語りかけるが その長い、箱に入った物体にはもう
耳はあっても聴覚がない 口はあっても声はない
もう桜だってわからない だから燃やしてしまうんだ 
死体を畏れ、敬い みんな手を合せる 頭を下げる
それだけど 焼いてしまうんだ
900度の高熱で45分
こなごなの 灰にするんだ 人間は
だから私が運んでいるのは 人間の形をしたゴミなんだ

白い壁に沿って 桜が咲いている
壁には窓があって 花柄のカーテンが中途半端に閉まっている
ほんの1メートルぐらいの小さな桜は
ちょうどその窓の高さで花をつけている
窓からクマが覗いている
目があるが ボタンでできているから何も見えない
クマには なにも見えていない
だから
こうやって置いてきぼりになったのだ
もう誰も迎えにはこないのだ
そこは空家だ

空家のとなりは◯◯自動車の営業所で
屋上で男がタバコを吸っている
男はこれかられいきゅう車に乗って出発する
生きているけど 毎日れいきゅう車に乗っている
れいきゅう車を掃除し みがくのも男の仕事である
出るまえに 
屋上で一息ついて 空を見ていた
男の口から煙が空にのぼっていく
男は運転の前 いつも 
こうして 空と友だちになるのだ

月曜日のゴミ運搬車
子どもが叫びながら追っかけていく
捨てないで 捨てないで 捨てないで
捨てないで 捨てないで 捨てないでって 追っかけていく

車は夢の島を目指し
泣きながら走った

 
 

(3月某日、奥戸2丁目◯◯自動車前で)

 

 

 

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