さっき
バッハの
ヴァイオリンソナタ3番を 聴いていたら
ぼくの窓辺に
燕たちがやってきたんだ
燕たちが
5羽もやってきたんだ
誰の曲を聴けばいいんだろう
宇宙船を呼ぶには
ぼくの窓辺に宇宙船を呼ぶには
誰の曲を聴けばいいんだろう
さっき
バッハの
ヴァイオリンソナタ3番を 聴いていたら
ぼくの窓辺に
燕たちがやってきたんだ
燕たちが
5羽もやってきたんだ
誰の曲を聴けばいいんだろう
宇宙船を呼ぶには
ぼくの窓辺に宇宙船を呼ぶには
誰の曲を聴けばいいんだろう
真近に
感じて
いた
祖母を感じていた
着物を着て窓辺に
たって
いた
いつもとおりをみていた
灰色の瞳をしていた
息子を沖縄の遠い戦闘で失っていた
祖母の匂いがした
祖母の匂いがした
空にひばりがないていた
空にひばりがないて
ひとりの
夏に
みていたな
いつもみていたな
雲をみていたな
雲は遠い
雲は
遠いヒト
遠い遠いヒト
みていたな
いつもみていたな
雄物川の
川面に
うつっていたな
ながれていったな
ながれていったな
ひとりの夏に
ながれていったな
日野の
駅で
雪を見ていました
ゆっくり
ゆれながら
降りてきました
日野の駅で
朝まで見ていました
きみはいまどうしているの
雪がふっていました
雪はふっていました
雪が降りてくるのを見ていました
雪はゆれながら降りてきました
夏の
午後
走っていった
白い道を走っていった
誰も乗っていなかったのか
砂埃をあげて
四角い
空白を過ぎていった
走っていった
わたしは見ていた
わたしはいつも見ていた
砂埃をあげて白い道を過ぎていった
空白を見ていた
空白を
溢れかえる
光の
むこうに
わびしい暮らしがあり
そこに
仄かな
ひかりがある
仄かなひかりのなかに
過ぎ去る者が
いた
ことばを求めて
燕は
飛んでいる
あの飛行はより少ないことばから生まれている
燕は
首を捻りながら電線の上でつぶやいた
アサ
雨が降っていて
西の山は
白く
霞んでいて
空との境界が溶けていた
霞んでいく
風景のなかで奇妙なわたしが佇っていた
境界は溶けていた
わたしはわたしの幽霊だった
わたしは幽霊となって
境界のない風景のなかに佇っていた
何度聴いたろうか
今朝から
マリア・ユーディナの
平均律クラヴィーア曲集 第1巻第22番を
何度聴いたろうか
十分ということが
ない
きみに
会うためには
十分ということはない
くり返しうち寄せてくる
波はくり返しうち寄せてくる
いつか
マナイタの
うえに
それは
ありました
ヒナタ
なのか
マナイタ
なのか
台所のマナイタの朝の光に輝やいていました
四角い光の塊となって
ヒナタなのか
マナイタなのか
朝の
ヒナタの
マナイタの
輝やいていました
輝やいていました
使える
ものがありません
利用する
ことができません
服を
ぬいで
素手と
なって
裸足で
歩いて
風にふかれて
飛ぶ燕たちをみあげていた
使われるものであることのうちに
息をはき
息をすい
息をはきました