蛞蝓(ナメクジ゙)の、通り雨── Silver Road

 

今井義行

 

 

Light Up 真夜中にトイレに起きた時
押し入れの前 半畳ほどの 湿気の強い いぐさの上に
家族か 仲間か 分らない
蛞蝓(ナメクジ)が 5匹 はねをのばしていた
≪おおっ くつろいでおりますなあ≫
という 勝手なわたしの イメージ
≪手足がなくても はね、ってある≫

何処に 家を構えたものやら
新築パーティーか 懇親会か
いぐさの上に 楽し気に這い回ったような 銀のぬめり、Silver Road

通り雨が 真夜中にあったような 幾筋ものかがやく路、Silver Road

(Praise Song)※1
Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・

綺麗なお茶を飲もうと想って飲んだ 宇治茶が 就寝中に小便にかわり
≪さあ、放尿だ──!≫と
きめた 矢先の 出来事だ

Light Up 光のもと 蛞蝓(ナメクジ)が一斉にうねり
きゅうっと まるまったりして それが けなげで
一匹ずつ ティッシュで包んだが 潰せない─・・・・

植物を喰い 寄生虫を持つと いうことで
害虫の ひとつとして 指定されてるけど
殻のない 巻貝じゃないの 殺したくない

にゅうっ、と つのが 旋回してる

Light Up 光の風に 触角だけを頼りにして 出来事を知る

蜚蠊(ゴキブリ) は 逃げ足が速いからいいさ
さすが 億単位の年月を生き抜いてきた輩
お元気で!! と エールを送ってれば ОK

なんだか 生まれかたって 不公平だよね
なんだか とっても 心に霧雨が ふるよ

うちから すずらん通りを辿って 7、8分
総武線・平井駅 北口 駅前の公園の植込みの辺に 朝、
いつも 一匹の茶トラの 地域猫がいてさ

或るご婦人を中心に ご飯をもらっててね
片耳に 桜の花びらの形の 切込みがある
猫さんで それが地域猫の印なんですって

「かにかまぼこ」が大好物のようなんです
急ぎつつ写真を撮るけど食うか寝てるかで
なかなか 仲よしには なれないんですね

ご婦人に「名前はなんていうんですか」と
きいたところ 「わたしはねミィちゃんよ
他の人は知らないけど」・・・・ふうん。それで わたしは、

貫禄ある地域猫の茶トラを「さくら」と呼ぶことにしました
かなり老齢かもしれず毛並みに艶がなくあまり動き回らない
雨の日にはグレーの毛布を頭巾のように被せてもらい夜には
見かけることはない行方は分からないけど護られてはいます

わたしもご飯をあげたくて西友で値下げ品
「かにかまぼこ」を買っておいたけど休日
小腹がすいておやつに自分で食べちゃった

写真を撮るのが趣味になり 空や道や花や
ひとや動物をこのんで 撮るようになって
わざわざ猫や雀がいそうな道を巡ってます

だから、他人から見たら
町内をよく ふらふらしてる おっさんかも しれないです

雨の降る寒い日にグレーの毛布に覆われた
まるい塊が 植込みの奥にぽつんと「いた」
≪あれ、さくらじゃないか 雨が滲みて≫

その日、連れて帰りたくなったけど でも
この猫は皆の「ねこ」 地域猫の「さくら」
車に轢かれる野良猫より幸せなんだろうと

わたしは踵を返してアパートに向かい出し
ぼうっと横断歩道で信号待ちをしていたら
バイクが水滴散らし路上に銀の轍を残した

(Praise Song)
Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・
路上に銀の轍を残していった
Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・

Light Up また 或る真夜中に トイレに起きた時のこと
やはり また おるのですわ
光のもと 蛞蝓(ナメクジ)族が それは楽し気に
はねをのばしていたのが
急転直下 一斉にうねり

きゅうっと まるまったりするのもいれば
パーティー会場が 突如
≪戦場≫と化したもんで
てらてらしたぬめりを畳に残しながら蠕動運動を始めたり──、
でも その移動の遅さときたら
特筆ものなんですよねえ

捕まえてティッシュに包もうとするわたしの手の動きに
比べたら もう
圧倒的に 不利、そのもの なんだ
どんなに頑張っても敗けちゃうんだ

わたしは たまたま 別の生き物に 生まれて来ただけで
判断一つで どうにでもできちゃう
ティッシュで包んだとしてもそれは
彼らを燃やせるゴミに出す事だった

手足はない、口はきけない彼らとは
顔を合わせ対話というものが無理だ
ただ一方的に やられてしまうのさ

けれども、

わたしがいつも座っているパソコン
前のクッションの間近に銀のぬめり
が 生々しく 残っていたのを見つけ、

蛞蝓(ナメクジ)って丸まったり銀の
路を残したりしながらその動きを
ことば化してるんじゃないかなあ

って、考え込んで しまったわけ。

もしかして─・・・・なかよしになろうと 交渉にきたのでは!?
蛞蝓(ナメクジ゙)って お利口なんだよ
わたしの就寝中を 選んで 現れる
誰にも何にも 迷惑をかけていない

≪いつまでも いても いいよ──≫
蛞蝓(ナメクジ)の 世界観、知りたい
Silver Roadは きれいな通り雨だよ

(Praise Song)
Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・
わたしが蛞蝓(ナメクジ) なら戦場で真っ先に死ぬね
Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・
だって、生まれてからずっと かけっこビリだもの

蝸牛(カタツムリ)は殻があるそれで
子どもたちの 手のひらの 人気者
地域猫「さくら」も町内平和の徴 ※2
ところがだよ──・・・・・
蛞蝓(ナメクジ)って冷暗湿地を徘徊
するだけで元朝青龍並みのヒール
あいされる者とあいされない者がいるってことは
皆でそれを産んじゃうって事だな

蛞蝓(ナメクジ)は わたしがもう何回も焼却炉に送り込み
生きたまんまで どういう手も打てず 死んでいったんだ
そう、・・・・・・・・・・・・・・「ガス室」送りにすごく似ている

Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・

幾筋ものかがやく路、──・・・・・それって きれいな
通り雨に 過ぎなかったと いうのにね、──・・・・・

 

 

※1手拍子を伴う、ゴスペルの冒頭のセクション。アフリカ黒人は
空0≪家畜≫として輸入されたと聞く。「自分で自分の肩をたたくような/
空0マクシム 菅原克己より」を、そんなとき思い出す。

※2「さくら」は、その後、すがたを消しました。

 

 

 

真っ白

 

たかはしけいすけ

 

 

役者でもないのに
舞台で頭の中が真っ白になり
セリフが出てこない
なんて夢を
見たことがある

ある高名な詩人は
自分の詩集を開くと
ことごとく真っ白だった
なんて夢を
見たのだそうだ

詩を書いていて
書いても
書いても
真っ白
なんて夢は
まだ
見ていない

修業が足りんな

役者のほうが
向いていたかもしれない

夢の中のぼくは
舞台を動きまわり
真っ白な頭の中から
とにかく何か言葉をひねり出して
喋り続けた

そんな夢は
久しく見ていない

現では
詩が
書き出されもせず
真っ白のまま

 

 

*第二連 詩人=鈴木志郎康さん
空0浜風文庫に発表の詩「びっくり仰天、ありがとうっす。」のエピソード