希望と潤いの郵便局、  くく、く、、、、く、

駿河昌樹

 

 

また(みずから)風景となるために

位置を

ずらそうとするのか 草が

 

 

立ちあがってきている、遠い河…

でも

身をかわし、

逃げて、

 

宴のさなかの小平サン、

 

 

わずかひと茎を

より危険な圏域に傾がせるように

馥郁たる運転手の娘 の の

その肌より

流れ落ちようとして落ちずに垂れる

 

 

サンマ焼きはじめ…

酸漿ほどの大きさと

アカルミの

魂…

 

 

(みんな、そう言われちゃうのか…

(みんな、か…

 

 

七色の(光の加減で)変わる

虹鱒と玉虫の縁戚らしくもみえる中、途、半、端、な、

生、物、よ、

 

 

思い出を…大事にし過ぎる人だねェ…、

そんなこと、

言われたって…

まるでキャラメル箱みたいに、…

 

身をかわし、

逃げて、

 

 

婚礼だ!巌と軟体老婆の

また黄変した乾燥水と

ペン先でちくちく色づけられた

胎児の爪の甘皮のあたりに昇っていく丸い月との

 

 

トージョー、トージョー、と

聞こえもするがコージョー、コージョーかも

しれぬ ホージョー、ホージョーかも

しれぬ

谷もないのに

谷川サン、

とぽ、とぽ、とぽ、と、命の汁の垂れる音

とぽ、とぽ、

とぽ、…

 

 

また(みずから)風景となるために

位置を

流れ落ちようとして落ちずに垂れる

馥郁たる運転手の娘 の の

わずかひと茎を

 

柏原!

 

 

草が

 

 

ずらそうとするのか 草が

記憶されるためではないのに

(数あるうちの殊にその)半島に

朱色のペンキを塗りたくる流れ星が

ひよひよ

 

 

まるで洗濯頸椎のように

なめらかに岩川を進む 放逐の珊瑚 三島四島五島と

舐めまくって

 

 

都市生活者と目覚し時計界のカルテルが生温かいバナナを王の

透明膣にくっぴくっぴ くぴくぴ

舐めさせまくって(白髪のスマホめ、

(六界のどこに逃げた?

(うまい埃をさらに

 

 

耳に詰め込もうとして

 

 

敬礼してるでしョ?

誰にむかってか、まるで死後のように、黒ずんできた指震わせて、

(さみしいところだよねぇ、

(さみしいところだよねぇ、

(きしきし、音がするが、なぁんの音、あれ?

(きしきし、きしきし、…世界が

(ぜぇんぶ、

(きしきし、きしきし、…

 

 

暮れ方の大学の廊下のようで、ほの明かりが林のむこうに見える…

(…マタ、ヒトリデ、狂ッテイクヨウダ、

(ダアレモ、他ニハ生マレテサエイナイノニ…、

 

 

…河童!

 

 

でも

身をかわし、

逃げて、

 

 

…落ち着いてきたポトスの茎、くくく、く、、、、く、

 

わがまゝに、

春を鬻いで、股ぐらにドラえもん、

 

 

くくく、    く、

 

 

河童!

おゥとも、河童!

 

 

希望と潤いの郵便局に

表敬訪問しておいでよ、六月からさらさらと

冷蔵庫を溶かして手帳にくっつけていたんだから

もう出来た頃だよ、

 

 

また(みずから)風景となるために

位置を

ずらそうとするのか 草が

軟体老婆の

わずかひと茎を

股ぐらに

 

 

…白髪のスマホめ、

落ちずに垂れる

その肌より

流れ落ちようとして

より危険な圏域に傾がせるように 馥郁たる運転手の娘 の の

朱色のペンキを塗りたくる流れ星が

(うまい埃をさらに耳に詰め込もうとして

虹鱒と玉虫の縁戚

七色の(光の加減で)変わる

胎児の爪の甘皮らしくもみえる

ひよひよ

婚礼だ!巌と

また黄変した乾燥水と

ペン先でちくちく色づけられた

昇っていく丸い月

 

 

記憶されるためではないのに…

(数あるうちの殊にその)

半島に

舐めまくって

目覚し時計界の王の洗濯頸椎のように

 

 

なめらかに岩川を進む

放逐の珊瑚

 

 

三島

四島

五島と

生温かいバナナを

くっぴくっぴ

舐めさせまくって

 

 

(六界のどこに逃げた?

 

都市生活者とカルテルが

透明膣に くぴくぴ

 

(白髪のスマホめ、

 

 

(六界のどこに逃げた?

 

 

希望と潤いの郵便局、

 

 

くく、く、、、、く、

 

 

 

また(みずから)

位置を

ずらそうとするのか 草が

 

 

風景となるために   くく、く、、、、く、

 

 

 

くく、く、、、、く、

 

 

 

 

大転機に、ササッサー、っと飛躍する麻理は素敵で可愛い。

 

鈴木志郎康

 

 

ササッサー、っと風が吹く。
時折、庭が翳って朝顔の蔓が風に揺れる。
雲が動いているんですね。
陽射しも弱まって来たように感じます。
麻理は難病の進行を畏れて、この九月、
勤めていた二つの大学の非常勤講師の職を辞めたんですね。
四月の新学期には想像すらしなかった進行する難病の発症。
わたしと一緒に暮らしてきた麻理の人生の大転換ですよ。

わたしに取って麻理は可愛い存在。
それ以上に、側にいてくれなくてはならない存在。
最近では特に、彼女が出かけてしまうとすっごく寂しい。
その麻理がいなくなる時が来るというのが、
わたしより先にいなくならないでほしいな。
うっうぅー、だ。
勝手ですね。

ササッサー、っと麻理は部屋を片づけ始めた。
大学の授業で使っていたものを捨てると整理し始めた。
ササッサー、っと飛躍する。
それが麻理の凄いところだ。
家の部屋を整理して「皆んなが来れる空間にしたい」と、
もうそこには飛躍する麻理がいる。

40年前、わたしを年寄りの美術評論家と間違えて尋ねて来た麻理は可愛かった。
少女の油絵を描く麻理は可愛かった。
団地の窓枠の外で逆立ちする麻理は可愛かった。
黙ってソファで寄り添って過ごした麻理は可愛かった。
その麻理が草多を育てながら日本語教師の資格を取って飛躍した。
そして日本語教師になって韓国人や中国人に気持ちを入れ込む麻理は可愛かった。
だが、大学を出てない者の扱いに対して、野々歩を育てながら、
ササッサー、っと青山学院大学の夜間部に飛躍した麻理。
そして更に語学教育は言葉の遊びに原点があるとして知って、
ササッサー、っと遊びについての修士論文を書いてしまった飛躍。
32面の掌に乗るボールに文字を書いて、
投げて受け取った親指の先に当たった文字から話を引き出す「マリボール」、
コミュニケーションツール「マリボール」を発明した麻理。
可愛くて凄い「麻理母さん」の麻理。
コミュニケーションの教師として、
桜美林大と目白大の学生をがっちりと受け止めた麻理。
教える学生の全員の作文を夜遅くまで添削する麻理の熱意。
即興劇を仕組んで学生たちを交流させた麻理。
そこで、ササッサー、っと、
コミュニケーションの場を作るワークショップデザイナーに飛躍。
大学の授業をワークショップで進めようとしていた麻理。
様々なワークショップを渡り歩く麻理は可愛い。
そ、そしてこの五月、勤め帰りに代々木上原駅の坂道で、
自転車から降りて押そうとして転んでしまって手首の全治4ヶ月の粉砕骨折。
目の前の交番のお巡りさんの助けを借りて救急車で病院に運ばれた
電話を貰っても、脚が言うこと利かないわたしは息子の野々歩に行ってもらう。
わたしはただ家のテーブルに座っていただけ。
うっうぅー、のわたし。
二日で退院した麻理は、ササッサー、っと筋肉が弱って来たと判断
素速く体操クラブに入会してリハビリに励む。
ところが身体のバランスが取れない。
整形外科医の示唆もあって、
大学病院に入院しての一週間の検査を受けたら、
それが進行する難病、オリーブ橋小脳萎縮症のせいだったんですね
そうと分かって、麻理はまたもやササッサー、っと飛躍する。
側で見ていて、その勢いが素晴らしい。
大学の授業が続けられるか、
授業の場面を想像して迷いを経巡った後に決断。
ササッサー、っと二つの大学に辞表を出して、
「今迄、学生にかけていたエネルギーを『まるで未知の世界』や、
『最後まで地域で皆で一緒に楽しく暮らす会』の活動にかけることにします」って、
FaceBook上に宣言したってわけ。
今の麻理の、その行く先を「まるで未知の世界」と捉えて、
共同して楽しく暮らそうというのが、
「最後まで地域で皆で一緒に楽しく暮らす会」なんですね。
皆さんに家に来て貰えるようにするって言って、
広間に溜まった学生の資料やら何やらを、
思い出に引っ掛かりながらもどんどん捨ててる。
ササッサー、っと捨ててる麻理。
わたしも堆積した詩集をどうにかせにゃならんことなりました。
この麻理の飛躍、気持ちがいいなあ。可愛いなあ。
でも、このところの飛躍に継ぐ飛躍には一抹の悲哀が滲んでいる。
鏡の前で髪の毛を指で摘んでふわふわさせている麻理は可愛い。
菓子のシベリヤと水ようかんを買って来て、うふふと笑うあんこ好き麻理は可愛い。

自分の病を何とかしようと、
麻理は気功と鍼灸をやってくれる所を見つけて
ササッサー、っと今日は気功、明日は鍼灸と通い始めた。
麻理は夜中に目が覚めたとき不安が募って眠れなくなり、
iPadminiでFaceBookの友人たちの動向に励ましを感じているようだ。
傍らで寝ていてわたしがトイレの目覚めたとき、
麻理が向こう向きに寝て寝顔が見えないと不安になって、
暫くそのまま寝姿を見ていると、
麻理の足の先がピコピコと動くのを見て、
ほっとして寝る。
夜がそんな風に過ぎるということがあるようになったんですね。

近頃の新聞を見ていると、
時代が変わって行くのをぞわぞわっと感じさせられる。
国民的ヒーロー錦織圭選手の誕生ってことですね。
九月八日の「朝日新聞」の一面の見出しが、
テニスの全米オープン男子シングルス準決勝で、
紙面半分の巨大な横見出し
「錦織、世界王者を圧倒」で、
その脇の4段ぶち抜きの縦見出しが
「日本初 4大大会決勝へ」だ。
まあ、錦織選手は決勝には勝てなかったけれど。
「世界王者を圧倒」って、その「世界」の二文字に引っ掛かるなあ
まあ、その三日前の記事には、
「世界最大級の恐竜化石  アルゼンチンで米大チーム発見」、
という世界的な記事が載っていた。
寝そべった男の背丈程ある巨大な大腿骨の写真。
体重はアフリカ象12頭分で、最大級の肉食恐竜ティラノサウルスの7倍、
この竜脚類恐竜は草食動物で約6600万年~1億年前の
白亜紀後期に南半球を中心に生息していたっていうことです。
1億年という活字が紙面から浮き上がる。
地球の1億年の時間はササッサー、っと経ってしまたんでしょうね

麻理さん、一億年じゃなくても、
わたしより長生きしてね。
麻理に習って、
わたしも部屋の片付けをササッサー、っとやっちまおう。
麻理がちょっと出かけて家を空けただけで寂しくなるのに、
本当にいなくなってまったら、
わたしはその寂しさを耐えられるだろうか。
ところで、現在の個人の今を詩にするってどういうこと?
「ああ、そうですか」ってことなんでしょうね。

 

 

 

くにゃっと微笑む階段とカタツムリ

 

辻 和人

 

 

4月14日の土曜日
正午ちょっと前

初デート
阿佐ヶ谷の駅の改札を出たところで待つ
おや、あの人、ミヤコさんかな?
生身のミヤコさんだ
ムーミンママが細くしたみたいな柔らかい感じ
でも、タッタッタッ、力強く刻む足取りのリズムは
勤め人そのもの
曖昧に微笑むと
ミヤコさんの生身はピタッ、と止まった
「辻さん、ですか? 初めまして」

ぼくが予約したのは映画館に併設されたレストラン
空に浮かぶあのお城をイメージさせた
円筒形のユニークな形の建物だ
新鮮さの演出は初デートには欠かせない
さて、ここの名物って何だと思います?
実はうねうねした階段なんです
店のドアに辿り着くには建物をぐるぐる取り囲む階段を昇らなきゃいけない
店内に入って上の階のテーブルに行くのにも
くねった階段が待っていて
急角度できゅっ、と
笑っている
ミヤコさんも「面白い造りの店ですね」だって
やったね!
雨で滑りやすくて
「注意してください」とは言ったけど
残念、残念
手を取る程にはまだ親しくない
もどかしいなあ
婚活デートは普通のデートとはこういうトコちょっと違うんだ

席を案内され、いよいよ食事
さっきから着慣れないジャケットで肩が窮屈なぼくだけど
生のミヤコさんを改めて見ると
シックなグレーの丸首のカットソーに
いろんな種類の布をつなぎ合わせたスカート
上と下とで
アンバランスなバランス
チャッチャチャッ
固くて、そして柔らかいバランスだ
注文はイチゴと生ハム入りのサラダ、スズキのポアレにデザート&コーヒー
ここの料理はおいしいから安心
最近大学の社会人向け教養講座を受講していると聞いていたから
時事問題を切り口に話を始めたら
あーらら
止まらなくなっちゃって
日本は中国と厳しい関係にあるけれど敵視しないでつきあっていかなきゃいけない
なんてことまで喋っちゃった
しまった、喋りすぎか
いや、ちゃんとつきあってくれるぞ
「言うべきことは言わなきゃいけないと思いますけど敵対はダメですよね。」

この人、強いな
押すと、押し返してきて、引くと、押してくる
食事が終わったけれどまだ終わらせたくないなあ
よし、予定してなかったけど、誘っちゃえ
「ぼく、この後、松濤美術館へ北欧の陶磁器の展覧会に行くんですが
よければ一緒に行きませんか?」
え、OKですか? いいんですか? それじゃ
うねうねした階段を降りて
渋谷を目指した

雨に隔てられて
館内はとても静か
というよりほぼ貸し切り状態
デンマークのアールヌーヴォー様式の陶磁器を集めた珍しい企画で
あんまり宣伝してないのかなあ
でも今日みたいな日には都合がいい

にょきにょきっとキノコが生えた花瓶
トンボを狙うトカゲの皿
水を覗きこむ白クマのトレイ
クリスマスローズがゴテゴテ刻まれた香壺
海草がからみつく文皿
アンデルセン童話の「目が塔ほどの大きさの犬」を象った置き物

いやぁーこりゃ、日本人の感覚と全然違うな
ミヤコさんも目をまん丸くしてる
どれもリアルで立体的で、迫力がありすぎる!
陶器というより彫刻に近い感じ
絵も装飾としてでなく本気の「絵画」として描かれてる
洗練された感じはないけど
ムンムンとエネルギーが漲っている
しーんとした中で
花瓶やお皿や壺がガヤガヤ喋り出し
展覧会場がパーティー会場に変身だ

「楽しいですね。こんなデザイン日本にはなかなかないですよね。
あ、あれ面白くないですか?」
とミヤコさんが指さしたのは
蓮の葉を這うカタツムリの小皿
ころっとした殻にぬめぬめした体
ツノを震わせて一生懸命、エサになるものを探してるのだろう
真に迫ってる
突っついたら、こいつ、こっちを見上げて
くにゃっと微笑む
んじゃなかろうか?
「カタツムリとかトカゲとかヤドカリとか
日本の陶器では余りお目にかかれないのに
こちらでは堂々と主役張ってるんですねえ。」
ほんとだよ

主役になりにくいものが主役を演じて
バランスを取りにくいものがバランスを取って
うまくいく
ここはそんな場所
さっきのレストランの階段だって
傘の先っぽで
ちょんちょん
刺激してやれば
くにゃっと
笑って挨拶してくれたかもしれない
今はそんな時間

美術館を出たらまだ雨
「今日はありがとうございました。楽しかったです。」
「こちらこそありがとうございました。雨、止むといいですね。」
そんな挨拶を交わして別れたけれど
今日は止まなくてもいいんじゃないでしょうか
雨が作ってくれた
そんな場所、そんな時間を
もうしばらく持っていてもいい、そういう風に思って
電車に乗り込んだってことです