犬猫ツインタワー

 

佐々木 眞

 
 

昔々、大風が吹けばたちまち吹き飛んでしまうような、とんとバラック仕立ての犬猫ツインタワーがあったげな。

犬ビルの社長は、犬博士。猫ビルの社長は猫博士。世間では2人の博士を犬猫の、いや犬猿の仲だと噂しておりましたが、それは表向きだけのこと。ほんとは2人の博士は大の仲良しで、時々社長室の窓を開け放って、資生堂の「ナナチュラル・グロウ」をアカペラで唄っていたのでした。

犬猫ツインタワーの中には、それぞれ大きな事務所があって、それぞれ全世界の優良会社から派遣された100名の社員がデスクに陣取り、朝から晩まで、仕事のような、遊びのような仕事に従事しておりましたが、中には「あたし、墨田区のタバコ屋さんで働いてたのよ」と告白する中年のオバサンもおったげな。

そんなある日のこと、犬猫2人の博士がそれぞれ発表したラテン語の年頭所信表明の文書が、ふたつながらに意味不明なので、ミラノのスカラ座宛にファックスを入れたら、たまたま居合わせた指揮者のトスカニーニJr.が、たちどころに解読してくれました。

それによると、犬博士は「能登地震の被害から立ち直るには、世界最大の地震国イタリアに学ぶに如かず」と説き、これを受けて猫博士は「紀元62年のポンペイ地震とその17年後のベスビオ火山の大爆発を、テッテ的に研究せよ」と論じておったげな。

ようやく懸案の謎が解明されたので、犬猫ツインタワーの200名の全社員は、ビルヂングの窓を開け放って、例の資生堂の懐かしいCⅯソング「ナナチュラル・グロウ」をアカペラで大合唱したんだとさ。

するとどうでしょう。

その時早く、その時遅く、どこからともなく大風が吹き付け、と同時に犬猫ツインタワーを揺るがす震度10の大地震が天地を揺るがしたので、2人の博士と200名の社員たちは、ガタンガタンと大揺れに揺れる地上100メートルのツインタワーの窓から、全員大空に向かって投げ出されたのでした。

とっぴんぱらりのぷぅ。

 

 

 

こぼれる

 

村岡由梨

 
 

「白いキャンバスに最初の絵の具を塗り付ける時は何時でも
一瞬、絵筆が、躊躇するの。」
まるでママが、出だしの言葉を躊躇するみたいに?

君が、逆さまにしたワイングラスから雲がこぼれて
空へ昇っていく絵を描いて、
「青空を青く、草原を緑で描くのは安直すぎ」
って先生に言われたそうだけど、
ママは、この優しい絵が好きだよ。
君は今、こんなにも優しい世界で生きているんだね。

「昔の身体をガブガブ食べて、わたし大きくなった」とか
時々突拍子もないことを言う君だけど、
真っ直ぐな気持ちで、
青空を青く、草原を緑で描いた、君の揺るぎなさ。
絵の具だらけの手で顔をこするから、
いつも、顔中、絵の具だらけ。
自分にしか描けない絵を追い求めて
何度も悔し涙の海に溺れて、
無責任な人たちの言葉に
気持ちが壊れてしまうこともあると思うけれど、
君がどこまでも自由に、
自分の描きたかった絵を見て嬉し涙をこぼすまで、
おぼれる こわれる こぼれる
とことん付き合うよ。

そんなことを考える私
の姿を描く君
の姿を詩に書く私
グラスの中の雲を飲み干したら、
私たち、空を飛べるようになるのかな?
そんな風に考えて
二人顔を見合わせて、
思わず笑みが、こぼれる。

 

 

 

 

“from a summer to another summer” を聴いてる

 

さとう三千魚

 
 

昨日
女は

仕事を休んで
ランチに誘ってくれた

死んだモコの詩で
地方都市の賞を貰ったから

お祝いなんだろう


遅く起きて

立体駐車場にクルマを停めた
デパートで赤福とメロンパンを買った

それから
ホテルのレストランに

入った
バイキングというのか

料理を皿に載せて
テーブルに

持ち帰る

客はほとんどが
女のひとたちだった

野菜サラダを山盛りにして食べた

アイスも食べた
珈琲も飲んだ

ガザの人たちが
支援食料に群がる光景を思い浮かべながら

食べた
満腹になった

午後
帰った

ベッドに横になった

夕方に起きて河口まで走った
風が強く吹いていた

詩を書かなかった

それで
いま

工藤冬里の
“from a summer to another summer” を聴いてる *

“それにしてもほんとの夢は” *
“それにしてもほんとの夢は” *

そう繰り返し
工藤は歌を終わる

かつてわたしの夏はあった
いまわたしたちは別の夏を生きる

夏はわたしのものでもあなたのものでもない

 
 

* “from a summer to another summer”は工藤冬里のワンマン「2004.5.5 裏窓」 の7番目の曲です.
https://torikudo.bandcamp.com/track/from-a-summer-to-another-summer-4

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

pâque

 

工藤冬里

 
 

親指から裂けながら
コラージュ主体の世界線で
濁りのひかりのフォントを運ぶ
土の器の
土にではなく入れて運ぶものに器の価値があるのであって
川沿いにじわじわ行きよってえなsouvenirとして
なんか踏んだ?
いや、あのフラーの家今日招待状持って行った
ほうなん?野球は?
黒銀河にアザゼル
突き落とすんやっとおきやいわれて
やっといちゃらいゆうてはみたんじゃが
わしが身代わりでえんけ
いくまいげ弁償できまいげ
見とおみミカン山に立っとらい
まーえにきしゃない牡丹色の病院があったろ
やめやめ数え切れんて
ミカンもうやめたけんな
ほうよ要介護2ーよ
デイは週2行きよらい
今から結婚てて
養子に入ったんじゃけんど
発酵もせんもんで
われてしもとらいの
マックに人肉混ぜよらい
埋めても烏がつつきだしよるけんの
葡萄茶と青緑の
言語を撫ぜるように杯は回され
黒銀河に消えていった
回転する言葉
シャコ色だな
白黒の

 

 

 

#poetry #rock musician