また旅だより 41

 

尾仲浩二

 
 

何年ぶりかに元日に初詣に行った。
ボケがはじまった母親の繰り返す話が辛く、少し散歩に行くと家を出て、子供の頃に暮らした団地など巡って夕方まで戻らなかった。
神社でもらった長寿お守りを渡すと、そのまま仏壇に置いて、また同じ話をはじめた。
今年は母の家に戻ることが多くなりそうだ。

2022年1月1日 千葉県君津にて

 

 

 

15日から写真展が始まります。
「マタタビ日記」 2000年から2005年の日記から、当時の作品とスナップで構成した展示です。
中野、ギャラリー街道にて30日までの土曜、日曜に開催。どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

また旅だより 40

 

尾仲浩二

 
 

初めて津軽海峡を船で渡って函館へ行った。出港が危ぶまれる程の荒天だったが、少しくらいは揺れないと気分が出ない。他に乗客もいない船室で、用意しておいた焼酎を飲んだ。酔う前に酔えばいいのだ。
函館には何の用事もないのだけれど、大人の休日きっぷで青森まで来たので、そのついでに行ってみたのだ。
雨があっという間に雪になったり、突然快晴になったり目まぐるしく変わる空模様で、これは写真を撮るのには楽しい。寒風で芯から冷えた指先は、塩ラーメンのどんぶりに押しあてて温めるのがいいと知った。

2021年12月5日 北海道、函館にて

 

 

 

 

また旅だより 39

 

尾仲浩二

 
 

三重からの帰りは中央線経由で新宿へ戻ることにした。
なんとなく薮原という駅で途中下車。
次の電車までは二時間ある。
小さな集落はすぐに歩き終わってしまった。
昨夜の残りの焼き芋をホームで食べる。
今年の秋は気持ちのいい空が続いている。

2021年11月2日 長野県木祖村にて

 

 

 

 

また旅だより 38

 

尾仲浩二

 
 

写真展のために大阪で2週間ほど暮らした。
非常事態宣言が明けた翌日、ギャラリーを出て、ひとりで飲み屋を探す。
どこも久しぶりの開店で満席だったが、空いているホルモン焼へ勇気を出して入る。
大小のGがカウンターを走り回っていた。
ひと組だけいた先客のカップルのネエちゃんは、こんなの私はぜったいムリと怒って出て行ってしまった。
気まずい空気の中、オヤジの機嫌を損なわないよう、旨いうまいと食べていたら、先客の残したホルモンをもったいないからと出してくれた。

2021年10月2日 大阪、中津にて

 

 

 

 

また旅だより 37

 

尾仲浩二

 
 

まだ暑かった8月に野暮用で木更津へ行った。
高校生の頃、よく学校帰りに遊んだ町。
いまはすっかり寂れてしまい、人影もない。
当時は女子校の生徒の溜まり場で入れなかった喫茶店でアイスウィンナーコーヒーを飲んだ。
そう云えば、初めてウィンナーコーヒーを飲んだのもこの町の喫茶店。
どんなものが出てくるのかも知らないで注文し、ガブリと飲んで舌をヤケドしたのだった。

2021年8月18日 千葉県木更津にて

 

 

 

 

また旅だより 36

 

尾仲浩二

 
 

酷暑とオリンピックとコロナの東京からそっと抜け出して
山奥の温泉宿に新しい写真集の編集をやりに行った。
滝に面した一軒宿で車がなければどこにも出かけられない。
いわゆる缶詰状態なので、作業はとても捗った。
毎晩ひとりで宿の豪華な夕食を食べるのはつまらないし
節約もあって朝食だけのコースにした。
なので夜のつまみも缶詰の五日間。

2021年8月6日 長野県茅野にて

 

 

 

 

また旅だより 35

 

尾仲浩二

 
 

どうやら梅雨が明けそうな東京。
長い暗室作業が終わった。
コンタクトシートを見て選んだカットのネガを取り出す。
時計の修理の時に使う様なレンズを目に挟み、ネガに付いている埃を取る。
ネガフィルムをネガキャリアに挟み引伸機に入れる。
イーゼル上でトリミングを確認しルーペでピントを合わせる。
ポイントとなる部分にテストピースの印画紙を置き露光。
自動現像機にテストピースを挿入し、しばし待つ。
出てきたテストピースを水洗し乾燥機へ。
テストピースをチェックして露光時間と三色のフィルターを調整。
調整作業を幾度か繰り返し、落とし所を見つけ本番プリント。
色味、露光時間、見落としていた埃など調整して再度プリント。
この作業を暗室で25日ほど続けていた。
来週からは猛暑となるのだろうか。

2021年7月15日 東京中野にて

 

 

 

 

また旅だより 34

 

尾仲浩二

 
 

2007年9月1日 チワワ鉄道でクリール
6:30 1日に2本しかない列車に乗りクリールを目指す。途中駅でトウモロコシの皮に包まったチマキのようなものを買う。蒸したクスクスの中に甘辛い何かが入っていた。冷房が効きすぎて辛いのでデッキに出る。大きく揺れると怖いが、風が気持ちいい。草原には黄色い花が一面に咲きそこに馬や牛が、駅が近づくと西部劇のような街が現れる。12:30 クリール到着。まずはホテルを探し荷物を置いて街へ。レストランのメニューを見ても分からないのでビーフステーキとビール。街外れのテントで古着の長袖シャツを買う。

9月2日 クリール
レンタサイクルで草原を走る。気持ちよく撮っていたら急に犬に吠えられ、すると数匹の犬があちこちから走ってきて必死に自転車で逃げる。知らぬ間に手の甲を虫に刺されひどく腫れてしまった。夕方の街は馬に乗った集団やバギーカーやトラックで大音響の音楽を流しながらのパレードが続く。部屋のテレビは母屋のチャンネルと連動しているようで勝手に次々と番組が変わる。酒屋で買ったワインはサングリアでとても甘かった。

9月3日 クリールからポサダ
手持ちのメキシコドルが少なくなったので銀行へ行くがCD故障でカウンターには長い列、諦めて12:30 の列車に乗る。険しい渓谷を走るのだが、脱線し転落した車両が時々見える。昨日案内所で勧められたポサダ駅で下車するが、降りたのは現地民の少女ひとりと僕だけで少女はすぐに山へ入っていってしまった。無人駅にはなんの案内もないので、仕方なく宿を探しに歩き出すが山道が続くだけで、心細くなっていたところに馬を3頭引いた親父が現れた。宿を尋ねると馬に乗ってついてこいと初乗馬。小さな集落に着き、農家の庭に建てられたコテージに泊まることに。夕方から激しい雷雨、テレビもなく馬のいななきと犬の遠吠えだけが聞こえるこんな所で一夜を過ごすとは。

 
写真展情報

尾仲浩二写真展「馬とサボテン」

中野・ギャラリー街道
6月18日より27日 金曜、土曜、日曜のみ開催

 

 

 

 

また旅だより 32

 

尾仲浩二

 
 

ひっそりと南へ行っていた。
人に会ったのは、去年の夏に東京から移住した友人と
数年前からバーをやっている古い知人だけ。
東京にいるよりもずっと誰とも話さなかった二週間。
天気も悪かったのですこしだけ日焼けして戻った。
さて、またしばらくじっとしている方がよさそうだ。

2021年4月 沖縄にて