また旅だより 51

 

尾仲浩二

 
 

母を病院に連れて行くために実家に戻っている。
母は同じ話を繰り返す。
幾度も財布の中身を数える。
家の中は大量のモノが溢れている。
ふたつの冷蔵庫はぎっしりと詰まっている。
この原稿を書くからとループする話を止めて二階へ上がった。
今にも降りだしそうな空を窓から眺めている。

2022年11月14日 千葉県君津にて

 

 

 

 

また旅だより 50

 

尾仲浩二

 
 

フランス国境に近いスペインの美しい港町に、もう2週間ほどいる。
ここで毎年開かれる写真フェスティバルに招かれ、今回撮影した写真で来年も展示する事になっている。
ところがこの町は美しすぎる観光地で、どこを撮っても絵葉書のようでなかなか手強いのだ。
町中はとてもじゃないが敵わないと郊外に逃げ、サボテンだらけの山道を歩き、なんとか撮れたような手応えを感じた。
3週間滞在できると聞いたので、そうお願いしたのだが、広くはないこの町はもう歩き尽くした。
早く戻りたい気持ちを抱えて、もう1週間どう過ごそうか。

2022年10月14日 スペイン カダケスにて

 

 

 

 

また旅だより 49

 

尾仲浩二

 
 

3年ぶりにヨーロッパへ来た。
街を歩く人は誰もマスクをしていない。
日暮には毎日キオスクの前に集まってビールを飲んだ。
トークイベントの後には握手とハグを沢山した。
バーの地下のダンスフロアでは歌謡曲DJをやって声を合わせてTOKIOと叫んだ。
翌朝ノドが痛くて、やはりコロナかと疑ったが、薬局でのど飴を買って舐めたらよくなった。急に寒くなったのとDJで大声を出したせいだろう。こちらののど飴は舌がシビれるほど強い。
 
2022年9月12日 ドイツ ケルンにて

 

 

 

 

また旅だより 48

 

尾仲浩二

 
 

猛暑、コロナ禍、お盆初日の朝9時半から開催と悪条件のブックマーケットにオマケに台風が来てしまった。
会場は来年取り壊されてしまう中野サンプラザ。
こんな日に人が来るのだろうかと心配していたけれど、開場と同時にたくさんの入場者があった。
おしゃれな人も、いかにもな人も、痛い系の人も、フツーの人もいて、これはこのブックマーケットが「まんだらけ」の主催で、アート・カルチャー・文芸・芸能・怪奇漫画・精神世界に占いと様々な店が並んだので、それぞれのファンが集まったからだと思う。いかにも怪しい中野ブロードウェイ的でうれしい。アートだけではこんな雰囲気にはならない。
写真のファンも少なからず雨の中やってきてくれ、感謝感謝。
中野は今、再開発の真っ最中。いつもの見慣れた風景がもうすぐなくなってしまう。

2022年8月15日 東京中野にて

 

 

 

 

また旅だより 47

 

尾仲浩二

 
 

昨日、苫小牧に着いて、まだ北海道らしい物を食べていないかった。
午前中よく歩いて、腹が空いていたのでラーメンを食べようと思った。
でも日曜の午後3時では開いている店はほとんない。
飲み屋街の中、古いいい感じの中華屋を見つけた。他に客はいない。
席に着いてメニューを見てその価格に驚いた。
が、仕方ない。一番上にあった味噌ラーメン960円を注文。
ひと口食べてまた驚いた。なんだこの味のしなさは。
とにかく具と麺を食べて店を出た。

夜は昭和のままの洋食屋に入ってみた。
つまみの皿をいくつか頼み白ワインを飲んだ。
ワインをおかわりするときに、大盛りにしてくれと言ってみた。
するとグラスには並々と注がれ、さらにボトルに残ったワインも注いでくれた。
この街は一勝一敗のドローだ。

2022年6月26日 北海道千歳にて

 

 

 

 

また旅だより 46

 

尾仲浩二

 
 

25年ほど前に撮影してすっかり忘れていたスライドフィルムがでてきた
コダックのエクタクロームというフィルム
当時コダクロームという色褪せないフィルムは高かった
なので僕のエクタクロームはすでに褪色してしまっていた
それをデジタルカメラで複写してパソコンで色を調整してみたら
なかなかいい感じの色合いになった
本来の色よりずっと好き

2022年6月15日 東京中野にて

写真展『My Ektachrome 僕のエクタクローム』
東京中野 ギャラリー街道にて6月18日、19日開催
同名の写真集も発売中

 

 

 

 

また旅だより 45

 

尾仲浩二

 
 

20年ぶりに鹿児島へ行ってきた。
用事はなにもないので、ぶらぶら歩き回って温泉に入ったり焼酎を飲んだり。
市内の老舗デパート山形屋(やまかたや)の食堂では、みんながカタ焼きそばを食べていた。
名物だそうで、とてもボリュームがあって安くうまい。
指宿では東京で高値の玉ねぎが安かったが、さすがにこれを持って歩きたくはなかった。

2022年4月22日 鹿児島にて

 

 

 

 

また旅だより 44

 

尾仲浩二

 
 

桜を追って妻と北へ行った。
昨年の四月に泊まった温泉宿の桜が見事だったので早くから予約をしていたのだ。
ところが開花予報はいつまでも蕾のままで半分諦めていた。
それが月曜からの異常な気温で蕾は一気に開き、夜でも半袖で桜を楽しむことができた。
翌日、妻は留守番させた猫をすこし心配しながら東京へ戻った。
そして今日は気候が一転、ひとり凍えながら今年最後の桜を見て歩いた。

2022年4月14日 山形市内にて

 

 

 

 

また旅だより 43

 

尾仲浩二

 
 

町の中華屋でレバニラとビール。
他に客もなくNHKではロシアの侵攻のニュース。
88歳の主人が、この戦争はどうなるんだろうと言う。
どうなるのでしょうねと僕。
ほんとうにどうなるのだろう。

2022年3月6日 東京、中野にて

 

 

 

 

また旅だより 42

 

尾仲浩二

 
 

どこにも行けず、ずっと家にいる。
しかも六十肩でラジオ体操もまともにできない。
その肩のことで医者に行ったら、どうやら血圧も高目だった。
近頃、知り合いや好きな作家が亡くなったりが続いていて、なんだかなぁと思っていた。
今日は、コロナを知らずにあっちに行ってしまった友人を偲ぶ会があったので、会場のライブハウスのある駅のひと駅前から歩く事にした。
血圧には歩く事がいちばんいいそうだ。

2022年2月5日 立川から日野