また旅だより 22

 

尾仲浩二

 
 

久しぶりに新宿へ、思っていたより人が多い。
用事はすぐに済んだので長居は無用なのだが天気がいい。
ずっと家に籠っているので脚も弱っているに違いない。
なので地下鉄はやめて歩いて帰ることにした。
末広亭からゴールデン街。歌舞伎町を抜け大ガード。
ション横覗いて西新宿成子坂下。ここにはかつてギャラリー街道があった。
街道は30年くらい前に閉じたのだが、空家になったビルがずっと残っていた。
酔ってタクシーで前を通る度に確認して、ちょっとセンチになったりしていた。
そのビルが消えていた。いや区画ごとすべてなくなっていた。
早い夏空の下、なんだか浦島気分でしばらく眺めていた。

2020年6月6日 東京西新宿にて

注・「街道」は88年に始めた自主運営の写真ギャラリー

 

 

 

 

また旅だより 21

 

尾仲浩二

 
 

いまだにネガカラーフィルムで写真を撮っている。
ずっと白黒フィルムを使っていたのだが20年ほど前にカラーに替えた。
白黒フィルムと違ってカラーフィルムの劣化が早いことは知っていた。
なので持て余すほど時間があるこの時期にプリントしておこうと思ったのだ。
20年前のフィルムは、すでに多かれ少なかれおかしな色になっていた。
はじめは、どうしても再現できない色がストレスだったが
それも経年劣化するアナログの味なのだと思えば楽しめるようになった。

2020年5月14日 東京中野の自宅にて

 


宮崎県大堂津 2001年


北海道富良野 2000年


愛知県蒲郡 1998年

 

 

 

また旅だより 20

 

尾仲浩二

 
 

どこにも行けないことをうだうだ書いてもつまらないので昔の話。
35年ほど前に住んでいたボロ家の近所のちいさな食堂がまだあった。
ここのちっとも辛くない麻婆豆腐は刻んだタマネギがたくさんで美味しい。
だから僕が作る麻婆豆腐はいまでもタマネギがたくさん。でも痺れるほど辛い。
9年前の話。

2020年4月14日 東京中野にて

 

 

 

 

また旅だより 19

 

尾仲浩二

 
 

ほんとうならこの便りはニューヨークから送るはずだった。
だけれどコロナ騒動の煽りで東京で暗室に入っている。
まだこんな事が起るなんて誰も思ってもいなかった昨年10月の中国の写真をプリントしている。
この写真を中国の人たちに見せる日が早く来るといい。

2019年3月14日 東京中野にて 

 

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写真展情報
1月18日より4月5日まで
奈良市写真美術館にて個展「Faraway Boat」
http://www.irietaikichi.jp/

 

 

 

 

また旅だより 18

 

尾仲浩二

 
 

年が明けて韓国へ行ったり、いくつかの写真展が始まったり、還暦になったりと慌ただしかったが、2月に入って久しぶりにのんびり。
仕事で誰かと会う約束も遠くへ行く予定もない。
昼に近所の八百屋を覗いたり、まだ明るいうちに銭湯に行ったり、ファミレスで午後からワインを飲んでみたり、猫を撫でながら配信で古い映画を観たり。
なにもしていないように見えるかもしれないけれど、ちゃんと写真集の発送したり、なにやら考えたりもしているし、たまにはこんな時間が大切なのだ、などと誰に言い訳をしているのか。確定申告もやったし。 

2020年2月14日 東京中野にて

 

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写真展情報
1月18日より4月5日まで
奈良市写真美術館にて個展「Faraway Boat」
http://www.irietaikichi.jp/

 

 

 

 

また旅だより 17

 

尾仲浩二

 
 

昨年末より始まった写真展で話をするために再び釜山へ。
打ち上げで古くから詩人が集まるという古くちいさな酒場へ。
オンドルの小上がりで、自家製マッコリと肉や牡蠣のチヂミ。
これがめっぽう旨く、ついつい杯がすすんでしまう。
他の席から独特の節回しの唄が聴こえてきた。
訊けばその人は歌い手だそうで、道理で上手なはずだ。
その人たちが帰った後でこちらの席でも唄が始まった。
したたか酔った僕も「釜山港へ帰れ」をいいかげんな歌詞で。
気分がよかったのだから仕方ない。

2020年1月11日 韓国釜山にて

 

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写真展情報
1月18日より4月5日まで
奈良市写真美術館にて個展「Faraway Boat」
http://www.irietaikichi.jp/

 

 

 

 

また旅だより 16

 

尾仲浩二

 
 

釜山での写真展の休みに巨済という港町へ行った。コジェと発音する。
シーズンがはじまった牡蠣を焼酎と共にたっぷり楽しみ、腹ごなしの散歩。
港に面した公園には豊臣秀吉軍を迎え撃つ英雄たちの像があった。
韓国の友人と並んでその像を眺め、お互いに苦笑いをしていた。

2019年12月9日 韓国巨済にて

 

 

 

 

また旅だより 15

 

尾仲浩二

 
 

パリでの用事が済んで次にケルンに行くまでの4日間シェルブールに来ている。パリの友人がこの街の寂れ具合がお似合いだと勧めてくれたのだ。

生憎とあの有名な映画は観たことはないのだけれど、駅に着き港を歩き出した途端あのメロディーが頭の中で流れてくるのだから仕方ない。

誰も知った人がいない街や港を用事もなくただ歩きまわり、夕方に凍えてホテルに戻りワインを飲んではすぐに寝てしまう、誰とも話さない数日。ケルンではまた沢山の人達が待っている。

2019年11月13日 フランス、シェルブールにて。

 

 

 

 

また旅だより 14

 

尾仲浩二

 
 

韓国ポハンへ写真フェスティバルで行ってきた。
台風が朝鮮半島に上陸する数時間前に着陸。大荒れの済州島のニュースを観ながら眠る。
翌朝、台風は日本海へ去り爽やかな秋晴れ、ポハンは製鉄所と魚市場の街。
フェスティバルの会場は70年代に建てられた古いホテルで、自分の写真に囲まれて眠る三日間。
もちろん展示の合間の散歩とメッチュ(ビール)も楽しんだ。
それにしても今年は台風多いな。

2019年10月6日 韓国浦項にて

 

 

 

 

また旅だより 13

 

尾仲浩二

 
 

明日で期限が切れる青春18きっぷをもらってしまった。
やらなければいけない事はあれこれあるのだが、とにかくどこかへ行かなければならない。
台風一過でこの夏の最高気温が予想されているなか、中央線を乗継いで塩山へ。
ブドウ畑が広がる盆地は暑い、すぐにグレーのTシャツがマダラに染まる。
人影のない商店街を抜けると寂れたちいさな温泉街があった。
入湯料400円と東京の銭湯よりも安い。
片道2時間半掛かったけれど電車賃はタダだし、なんだか少し得した気分だ。

2019年9月10日 山梨県塩山にて