かつて
熱風は過ぎただろう
白い道を
あるいてきた
そのヒトは裸足であるいてきた
庭に水色の朝顔の花が咲いていた
そして
そのヒトはいった
どうでしょう
植物がどのような美観を持っているのか
わかりません
わたしには
母への執着がないんです
兄が亀戸にいて
老いた兄は病院に見舞いにきてくれたんですよ
そのヒトはいった
そのヒトはいった
庭に水色の朝顔の花が咲いていた
白い道をあるいてきた
白い道を
かつて
熱風は過ぎただろう
白い道を
あるいてきた
そのヒトは裸足であるいてきた
庭に水色の朝顔の花が咲いていた
そして
そのヒトはいった
どうでしょう
植物がどのような美観を持っているのか
わかりません
わたしには
母への執着がないんです
兄が亀戸にいて
老いた兄は病院に見舞いにきてくれたんですよ
そのヒトはいった
そのヒトはいった
庭に水色の朝顔の花が咲いていた
白い道をあるいてきた
白い道を
かつて
熱風は過ぎただろう
熱風は
接吻した
熱風は石の唇に接吻した
石の唇を
舐めて
叫んだ
叫びは熱風の遠い声だったろう
叫びは遠い母語の星雲だったろう
星雲は純粋身体だった
熱風は過ぎた
熱風は過ぎた
かつて
ひだまりに
コトバをならべた
無いコトバをならべた
無いコトバが死ぬのをみていた
背後からさらに無いコトバが死ぬのをみつめるものたちが
いた
熱風は
過ぎただろう
過ぎさっただろう
熱風こそ過ぎさるだろう
熱風のさきに白い道があった
白い道があった
かつて
叫びがあり
叫びの日々には
太陽への干からびた祈りがあり
無い
コトバがうまれた
無いコトバは夏の日の遠い母語のひだまりだった
夏の朝に
エアコンのカタカタとなって
トトトトトと
とまった
階上から水の流れる音がゴオーとなった
あまいコトバを
まだ書きたかったのだろう
うすき口あつき口へ・・・・
とかいた
紙片をそのヒトは渡して
逝った
カタカタとなって
トトトトトと
とまり
水の流れる音がゴオーとなった
今朝の音信はそれだけです
今朝の音信はそれだけです
今夜は
すずをころがすよう
虫たちの鳴いて
秋の虫たちの声をきいて
います
今夜は
それだけです
虫たちの声をきいて
すずをころがすよう
すずをころがすよう
あのヒトの俤も消えてしまった
虫たちの声の
この世の果てまで響いていました
灰色の
瞳をしていました
わたしの
祖母は灰色の瞳でみていました
いつも窓辺に着物でたって
みていました
窓辺から
みていました
過ぎていくもの
消えていくものの
山百合の
花の
暗い林の中の
しろく咲いて揺れていました
しろく咲いて揺れていました
灰色の
瞳でみていました
沖縄で死んだ息子や
近所のヒトや
親類のヒトや
あじあのヒトたちや
てんのうへいかばんざい
てんのうへいかばんざい
そう叫んだことや
窓辺から
みていました
窓辺から
みていました
おびただしい死者たちをみていました
おびただしい死者たちが過ぎていくのをみていました
おびただしい死者たちが消えていくのをみていました
指導者にならなかった
指導者は
多くのヒトビトを先導するひと
指導者は
手を挙げて真ん中に立つひと
指導者は
大きなメッセージを大きな声で告げるひと
ヒトビトは指導者の声をきいた
ヒトビトは指導者の声をきいた
片隅で
ヒナタで
いまどうしてる
いまどうしてる
きみ つぶやく
いまどうしてる
いまどうしてる
わたし つぶやく
ない管をとおして
つぶやく
ない管が無数にある
ない管が無数にある
きみとわたし
きみとわたし
なにも共有していない
支配されている
隅々まで
支配されている
がんばったヒトも
がんばらなかったヒトも
支配されている
小鳥ほどの自由もない
文は
言い渡す
宣告する
文は強制する
キャーと叫んではいけない
ウォーと叫んではいけない
小鳥ほどの自由もない