美しいもののそばを
神は通り過ぎた
美しいヒトのそばを神は通過した
磯ヒヨドリが
鳴いていた
カモメが空に浮かんでいた
橋を架けなさい
橋を架けなさい
ものの消えた場所に橋を架けなさい
ヒトの消えた場所に橋を架けなさい
無い橋を架けなさい
美しいもののそばを
神は通り過ぎた
美しいヒトのそばを神は通過した
磯ヒヨドリが
鳴いていた
カモメが空に浮かんでいた
橋を架けなさい
橋を架けなさい
ものの消えた場所に橋を架けなさい
ヒトの消えた場所に橋を架けなさい
無い橋を架けなさい
マリア・ユーディナの
平均律クラビーア曲集第22番を聴いている
繰り返し聴いている
与えられたのだった
与えられたいのちを受ける者の歌だった
池に
波紋がひろがっていた
純粋身体の声にならない叫びだった
波紋がひろがっていた
池に波紋がひろがっていった
今朝
水面をみていた
波紋がいくつも現れて
テトラポットが水底に青く揺れていた
鈴木さんのシクラメンの
ピンク色の花の蕾は次々に膨らんでいた
いくつもいくつも
膨らんでいた
それぞれが独自で
違う花の蕾がいくつも膨らんでいた
昨日は
浅草のしぶやで飲んだ
荒井くんは
白子ポン酢をうまいなといって食べた
それから荒井くんの
駒形の新しいアパートまで歩いた
荒井くんの部屋では
ボーズのスピーカーで戸川純を聴いた
また恋したのよと歌っていた
生きてる意味なんてないのよと歌っていた
磯ヒヨドリは
なにも持たないだろう
カモメも
なにも持たず翼をひらくだろう
流転のなかで
そのヒトは逝った
そのヒトは流転そのものとなった
御影石に
薔薇と秋桜の花を刻ませた
田圃の向こうに生家がみえた
青空にぽかんと白い雲が浮かんでいた
昨日は
加藤さんと会食しました
加藤さんは
美しい
加藤さんには男の汚れがみえない
能を愛する
クラシックを愛する
たぶん奥さんも愛する
加藤さんと
ぼたるさんのことを話しました
最後に神田の改札で見送りました
片手をあげて加藤さんは帰っていきました
今朝
夢から醒めて夢のなかに目覚めた
シロツメクサが咲いていた
花の名を呼んだ
花の名を呼んで泣いていた
美しい少女だった
それさえ幻影なのか
少女は相対的には美しかったと
雲雀が鳴いていた
空高く雲雀が鳴いていた
雲雀は見えない声で鳴いていた
名を呼ぶ
花の名を呼ぶ
流転のただなかで花の名を呼ぶ
タマスダレの
白い花が咲いていた
片隅に咲いていた
その花をとどめなさい
その花をとどめなさい
花の名を呼びその花をとどめなさい
胸を裂き花の名を呼びなさい
胸を裂き花の名を呼びなさい
フランソワーズ・アルディーのレコードを
広瀬さんはかけてくれた
フランソワーズ・アルディーは
さよならを教えてを歌った
もう森なんかいかないも歌った
万物流転のただ中で
フランソワーズ・アルディーは歌った
花を歌った
花それ自体を歌った
花それ自体を歌った
ねむっていました
ヴァルハの
パルティータを聴いていたのです
夢のなかに
タマスダレの白い花が咲いていました
プラトンは真顔でいいました
花々のなかの実在の花として生きよとプラトンはいいました
なすびの花もプアプアの花も
咲いていました
そこに咲いていました