あいについて

 

今井義行

 
 

フィリピンでかんがえていた あいについて ────
さらりとした 夏の気候の アルジェリーの家で
日本では そろそろ 春が 近い
けれど わたしの こころは 春から とおい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それは どちらからともなく
あいが とおざかって いこうと していた からだ
日々に 薄らいで いくものは
どうする ことも できない

42日間の 滞在期間のなかで
私たちは しばしば 手をつないで ショッピングモールに出かけた
「Do you love me ?」
大通りで 乗り合いジープを 待ちながら
あなたは しばしば 私に 問いかけてきた

けれども あなたの 手からは
伝わって くるものが なかった
いや 私の手が
何も 伝えて いなかったのか

「Yes, of course」と 私は 言ったのだが ───

愛って、なんだ ────・・・・・・・・・?

ある日の ショッピングモールの ホーム用品売り場で
アルジェリーは 電球を 1個買った
フィリピンでは
電球のことを 「 Akari 」と いうのだった

「 Akari 」私は その言葉に 惹かれた
なにか とても あたたかい言葉

家に戻って 電球を 新しいものに 取り替えた
煌々とひかる Akariに 私は見入って
なにか 健康的な象徴を 見つけたような気がした

夜には 私たちは
ふたり ならんで ねた ────
きまって アルジェリーは 先に 寝息をたてた

ときに 明け方に
アルジェリーは 私のからだに しがみついてきた
黒い髪が 私の口に 入ってきた

「Do you love me ?」
あなたは 私に 問いかけてきた
「Yes, of course」と 私は 言ったのだが ───

私たちは 服を 脱がなかった

それから・・・・・・・・・・
「トイレに行ってくる」と 言って
あなたは しばらく 戻ってこなかった

やがて 部屋に 陽がさしてきて
戻ってきた あなたは
私の首に 腕を巻きつけて

「Good morning, Yuki!」と 明るく笑った
私も
「Good morning!」と 明るく笑った

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私は「Do you love me ?」と 言わなかった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アルジェリーのアイディアて
私たちは フィリピンから 少し 足をのばして
ブルネイ王国に
旅をする ことになった

ブルネイ王国には アルジェリーの
クラスメイトの ネリヤがいるのだ

空港では ネリヤと彼女の夫のジェームスが
にこやかに歓待してくれた
ネリヤは晩い第1子を身籠っていて
そのすがたを ジェームスが傍らで 見守っていた

ネリヤとジェームスは
5日間かけて 車で
ブルネイ王国を 案内してくれるという

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何といっても美しかったのは
3日目の 早朝の青いビーチだ

私たちは はだしになって 寄せる波と戯れた
アルジェリーは 両手に
一生懸命 貝殻を 集めていた

私たちは ネリヤとジェームスが 用意してくれた
朝食を 木の椅子に 座って 一緒に食べた
そこで 記念撮影をしあおう ということになった

私は 寄り添い合って 微笑んでいる
ネリヤとジェームスを 撮影した
「今度は 私が 撮るわよ」と ネリヤが言った

私とアルジェリーは 並んで砂浜に立った
「手でも つないだらどうだい?」と ジェームスが言った

私は しずかに アルジェリーの肩に手を回した
ネリヤが「そうそう いい感じ」と言った

私たちが撮ってもらったその1枚 ────それが
私たちにとって 一緒に写っている 1枚の写真になった

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ブルネイのホテルでは
私たちは 交互に シャワーを浴びたり
共同のキッチンで
コーヒーを 飲んだりして過ごした

私は ぼんやり 考えていた

日本では そろそろ 春が 近い
けれど わたしの こころは 春から とおい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それは どちらからともなく
あいが とおざかって いこうと していた からだ
日々に 薄らいで いくものは
どうする ことも できない

愛って、なんだ ────・・・・・・・・・?

部屋の中で 持ち物の整理を していた時のこと
アルジェリーが 咄嗟に
私のパスポートを掴んで においを嗅いだ

「Bad smell!!(悪臭ッ)」
それが あなたの 私への印象だったのか

私は 黙っていた

ダブルベッドで 私たちは
ふたり ならんで ねた ────
それから アルジェリーと私は 抱きあった

抱きあいおわって
ぼんやりとした 空間が 私たちに残った

しばらくして
私は アルジェリーに 囁いた

「Let us break our engagement and become just friends.
I think it is good. (私たちは 婚約を解消して 普通の お友達になりましょう
それが良いと 私は思います)」

アルジェリーは うなずいた
そして
あなたは ゆっくりと こう語ったのだ

「My love for you is gone… I dont have love for you anymore Yuki…
before when we met in the first time, I love you … but now no more…
(私のあなたへのあいはきえてしまった・・・もうあいがないのですユキ
私たちがはじめてあったとき私はあなたをあいしていた・・・でもいまはもう
I tried to love you again but I cant!! Friend」
私はもういちどあなたをあいそうとしたの でもできない ともだち)

 

 

 

あらゆるものを透過するジンの草いきれ *

 

モコを乗せて

そっと車に乗せて
いった

いってきた

街の犬猫病院に行ってきた

もう
11年は通っている

先生は

若くてボンヤリしてるが
頼りにしている

モコのことを好きでいてくれている

他の犬も猫も
好きなのだろう

モコもそのひとりだとわかる

その瞳と
笑顔でわかる

なにも代償はない
なにも代償はない

あらゆるものを透過するジンの草いきれ *
あらゆるものを透過するジンの草いきれ *

かつてはあったのだろう
それだけが杖となる

病院から帰ると

わたしの木蓮の

白く
白い

花たちがひらこうとしていた

 
 

* 工藤冬里の詩「マスク」からの引用

 

 

 

もうすぐ終わり

 

辻 和人

 
 

セーフ、セーフ
滑り込んだ
てんや武蔵小金井店
残業で遅くなっちゃって
ミヤミヤ仕事忙しくって
今日は夕ご飯各自ってことで
滑り込んだ22時5分
もうすぐ終わり
もうすぐ終わり
てんぷらそばにするか
すいません、そばは冷たい方でお願いします
若いオネエさんの店員さんタイマー渡してくれて
鳴ったらカウンターまで取りに行くんだって
空きまくってる席に腰を下ろす
オネエさん、すぐさま営業終了の看板出した
ビール飲みながらのんびり天ぷらつまんでる真っ白髪のオジイさん
天丼大盛り夢中でかっこんでる長髪のオニイさん
50代オジさんサラリーマンのぼく
ぽつんと3人
オジイさん、独居のお楽しみタイムかなあ
オニイさん、横の席にギターケース立てかけてるからリハの後かなあ
こんなのも縁だ
ここで大地震が起こったら
声かけあって
3人一緒にテーブルの下に身を隠して
揺れが収まったら足をくじいたオジイさんをオニイさんと一緒に助け出して
おっと忘れちゃいけない
店員のオネエさんと調理場にいる誰かさんの安否も確かめなきゃ
大丈夫ですかぁ
お怪我ありませんかぁ
ゆっくり頭を起こしたオネエさん、ずれたメガネをかけ直しながら
「大丈夫です、お客様はご無事ですか?」だって
えらいなぁ
こんな時でも客の安否を気遣えるなんて
ビィーッ、タイマー鳴った
ちょっとびっくり
意外と大きな音だな
慌ててタイマー止めてカウンターへ
オネエさん、上の空みたいな笑顔で「どうぞごゆっくり」だって
ごゆっくりも何もあと15分でおしまいじゃん
トレイにのったエビにイカにキスにカボチャにインゲンにざるそば
いただきまーす、じゃあイカの天ぷらから
くにっくにっ、噛み応えあってなかなかうまい
そばはどうかな
するっつるっ、立ち食いそばのよりかだいぶいい
極上ってわけじゃないけど700円の価値は十分ある
カボチャ
そば
盛り上がってきたぞう
キス
そば
いいね
盛り上がってきたぞう
インゲンにたっぷり汁につけた
丁度その時だ
オジイさん、ビールの最後の一滴をグラスに注ぎこんで、くいっ
オニイさん、丼から満足そうに顔あげてコップの水を、ぐいっ
ほとんど同時
おいしかった、おいしかった
良かったねえ
オジイさん、床に寝かせた杖を拾い上げて、どっこいしょ
オニイさん、立てかけたギターケースを起こして、どっこいしょ
オネエさん、調理場の人とのお喋りを中断して慌ててレジへ
あ、行っちゃうの?
一緒に地震を生き延びた仲なのにぃ?
がらっとしてきた
がらっとしてきたぞう
終わりのムードが盛り上がってきたぞう
最後に残ったエビ
お箸でつまんで
ちょっと高く持ち上げてみる
エビの向こうに見えるのは
斜め四角に伸びる影のお守りをしてばかりのテーブルと椅子
薄ぼんやり光ってこびりついた水分と遊んでばかりの給茶機
そして調理場さんとのお喋りやめて
カタカタカタ伝票と電卓の間を行ったり来たりするばかりのオネエさん
パクッ
噛みちぎられたエビはゆるゆるした曲線を描きながら
50代オジさんサラリーマンの口の中に吸い込まれ
ムグムグムグ、濃厚とまでは言えないけエビらしい味をニュッと舌に刻んで
ごくっ、暗い奥に落っこって
いなくなっちゃった
♪ソドーミソードドーーラーラ
ソーミファレソミーーーー
聞いたことあるメロディが流れてきた
さみしいような懐かしいような節回しだ
エビはいい
そばはいい
終わりはいい
さみしくて懐かしくていい
終わりったってこの店にいる時間が終わるだけなのに
これからまだまだ
バスに乗るってこともお風呂に入るってこともミヤミヤにお休みを言うことも
しなきゃいけないのに
もうすぐ確実に終わるこの時間がもうすぐ確実に終わるが故に
とってもぽっかり広がってる
さみしくて懐かしくていい
時間にも部屋みたいなものがあって
ここは居心地のいい部屋なんだろう
照明奥の方消えて
盛り上がってきたぞう
さあ、お帰りだ、コート着なくちゃ
と思ったら着たまま食べてたことに気がついた
50代オジさんサラリーマンはこれだから困るね
こんなんじゃミヤミヤに怒られちゃうぞ
♪ソドーミソードドーーラーラ
ソーミソファレドーーーー
レジに歩き出すと待ってましたとばかりオネエさんがレジに滑り込み
揺れが収まった直後の縮こまった表情とは打って変わった
早くしろと言わんばかりの笑顔で「ありがとうございました」
♪ソレーソミーソファーミレーレ
レーミファレラソーーミー
盛り上がってきたぞう
もうすぐ終わり
もうすぐ終わり
終わりを胸いっぱい吸い込む
ふわぁわぁーっ
くちゃくちゃコートの50代オジさんサラリーマンのぼく
最後の客として
盛り上がって消えるのさ
♪ソドーミソードドーーラーラ
ソミドソレミドーーーーー
終わり
終わり

 

 

 

マスク

 

工藤冬里

 
 

マスクの中で
湿った呼気は循環する
補聴器の中では
アイルランド緑の藻が張り付いた自分の声が
ホルンのように響く
殻の中は
白茶けた岩場を往くさまよい飽きているロトの
視線だけが蒸れている絵画で
外の世界とは界面で接している
微笑みは透過しない
ピンクのプラスチックの蝶を着けたうた声は透過しない
外を愛している人はいない
外にあるものを愛しているだけだ
幸とは土の下に¥があること
ガメラの肉は思いの外柔らかかった
アジの開き運動に参加したら硬くなるだろう
マスクの内側にあらゆる色も闘争も塗り込められている
睫毛の演技で外を征服する
微笑みは透過しない
かつてはあった、あらゆるものを透過するジンの草いきれ
全ての年号は遠くなりにけり
年号の人は鼓膜を透過する声を識別できず、雷が鳴ったとしか思えない
マスクメロンの外側は地図の送信に曝されている
果肉色した絵画の中で
つり革を握る諸個人が
ひかりのあるうちに犀になって夕を歩んでいたとき、
ひかりと思っていたものは絵の具だった
フィルターで淹れられたうたは滓を残した
それはスペイン語の冷蔵庫の臭い消しに使われた
暴発的な咳が
沢山のビッグバンによる、沢山の内側を創り出した
微笑みだけは、
透過しなかった

 

 

 

ゆきのあとに

 

峯澤典子

 
 

あさ 目覚めるまえの
窓辺に
小鳥たちが
濡れた花を落としていったから

ながいあいだ 会えなかったひとが
今日
そらを 渡っていったのだと わかる

交わしたことばよりも
交わせなかったことばは
ゆきに覆われた木の実のように
青いまま 残るから

夢のなかの
かじかんだ つまさきでも
さがせることも

あのひとは 聞こえない声で

さよなら と 言ったのか
おいで と 言ったのか

いつか
わたしも
ながい夢からさめ
そらを 渡りはじめる夜明けに

待ちわびた ゆきどけの窓辺で

ずっとさがしていた
青いままの ことばは
はじめて ささやく

さよなら
そして

おかえりなさい と

 

 

 

春宵三篇

 

佐々木 眞

 
 

人類滅亡まで終末時計残り100秒

 

「人類滅亡まで終末時計残り100秒」の声を聞いて、
こんな詩が出来た。

料理は、できない。
車の運転は、できない。
確定申告は、できない。
停電になると、どうしていいかわからない。
テニスは、できない。
仕事は、できない。
暗算は、できない。
外国語は、しゃべれない。
封は切れずに、指を切る。
缶詰は、開けられない。
スマホは、使えない。
古稀を過ぎ、ウインドウズが10になっても、捉音が打てない。
「ウっ」「グっ」「げっゲゲッ」「ぐっぐわッッ」

人類滅亡まで終末時計残り100秒
おらっち、人類滅亡残り3秒辺りまで粘りに粘って、
ゆっくり、ゆっくり、死んでいきたいな。

 

 

電光影裏に春風を斬る

 

一の太刀

少女が「大変、大変、大変よお」と叫んでいるので、
見に行くと、赤坂が、乃木坂と欅坂を、むしゃむしゃ喰うていた。

少年が「大変、大変、大変だお」と叫んでいるので、
見に行くと、赤坂を歩いていたキツネ、クジャク、オオカミ、ハクビシンを、
ヒトが、むしゃむしゃ喰うていた。

おばさんが「大変、大変、大変だよ」と叫んでいるので、
見に行くと、キツネ、クジャク、オオカミ、ハクビシンを喰うたヒトが、ヒトビトをむしゃむ喰うていた。

おじさんが「大変、大変、大変じゃん」と叫んでいるので、
見に行くと、ゴジラとキングコングが、ヒトビトをむしゃむしゃ喰うていたので、驚いた。

 

二の太刀

コウ君が「プールがプールを食べていますよ」というので、
見に行ったら、3月で閉鎖になるはずの栄プールを、
港南台プールが、がぶがぶ呑んでいた。

しばらく眺めていると、
その港南台プールを、
としまえんプールが、がぶがぶ呑んでいた。

ややあって、
ハリー・ポッターが、
としまえんプールを、がぶがぶ呑んでいた。

そんでもって、
クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号が、
ハリー・ポッターを、がぶがぶ呑んでいた。

それでどうなったかというと、
クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号を、
トランプと安倍蚤糞が、がぶがぶ呑んでいたので、また驚いた。

 

 

世の中みんな、障ぐわい者

 

ぐわあい、ぐわあい、障ぐわい者
世の中みんな、障ぐわい者
健常者なんて、一人もいない

目が見えない人 手足がない人、
聞こえていても、しゃべれない人
名前を呼ばれても、微動だにしない、できない人

遺伝子に異常がある人、帯状疱疹で激痛が走る人
腰が痛くて歩けな人、頭の中が水だらけの人
ケガや病気でなくても、加齢で耳が遠くなった人

ガンのステージ4で、吐きながら抗がん剤を飲んでいる人
何の因果か新型コロナウイルスに感染して、死にかけている人
朝から晩まで身動きできずに、ベッドで垂れ流している人

生まれながらに障ぐわいのある人は、たくさんいるのよ
外から見ても、障ぐわいがあるかないか分からない人も、多いのよ
人はみな、歳をとれば、障ぐわい者になるのよ

だから、人はみな障ぐわい者
よしんば五体満足でも、きみがすんごく評価しているトランプはんのように
悪魔に魅入られて、狂気に取り憑かれた人もいるのよ

万が一、きみがまた街頭に躍り出て
障ぐわい者たちを、次々皆殺しにしたならば
地球の上には、誰もいなくなる

残ったのは、きみが一人
立派な純正健常者の、きみが一人
あんたが夢見た、理想の世界だ

ぐわい、ぐわい、障ぐわい者
世の中みんな、障ぐわい者
健常者なんて、一人もいない