松田朋春

 
 

名刺をうんざりするほど捨てた
すっかり捨てても
まだ出てきた
シュレッダーに通す
意外なくらい
顔を思い出した
もう
思い出さないだろう

すずめのひな
すて犬
かめ
魚たち
くわがたとかなへび
逃げていったひよどり
大切な犬と猫
これですべて
忘れない

後ろで扉が閉まる
ひとりだ
深呼吸をひとつ
そしてほほえむ

 

 

 

 

松田朋春

 
 

戦地だから
地面が揺れているのであった
地震ではなく
わたしが割れていて
知りたいことは既に
その辺に転がっていて
個室があいたりしまったり
一刻も早く
全てが終わって
ほしいです
私は
ここにとどまって
助けて
助けて
助けるだけです
おわるもの 
おわるとき
仏教がなぜ
途方もない
時間の尺度で
考えたかわかった
目の前でおこっていることが
真実の
影のようなものだと
思うしかなかった
今日は何曜日なのか
何日なのか
戦争がはじまってどれだけたったのか
弱いものは
土地とからだに留まり
世界を見つめて
こんなんじゃなかったんですよ
鳩の群れを見るように
ミサイルの着弾を横目に見て
散歩したり
買い物をしたり色々しています
兵器の音が区別できるようになった
ここには癌の子供たちがいて
大切に大切に守って来た命を
爆弾が根こそぎさらっていくので
泣いてるのです
最終的なものが
ふらふら歩いてる
美しいものは弱い
それでも赤ん坊のように
批評している
雪のようにその場限り
空を覆う

 

 

 

結界

 

松田朋春

 
 

嫌われ者がいなくなった
ゴミ出しを咎めて袋をあけ玄関まで戻しにきた
犬がうるさいと騒ぎ
施設で遊ぶ子どもがうるさいと文句を言い
まちに注意書きが増えて
嫌われ者の家には監視カメラが幾つもついて
塀に上にはピカピカの防犯金具が並んだ

嫌われ者がいなくなる
と噂が流れて
喜びを感じた
たくさんの人が
犬が
施設の従業員が
雲が晴れたように
ほんとに

会ったことはなかった
理不尽さが周囲に
強い輪郭を張っていた
芯にあったのは
憎しみなのか
何への?

伊豆に越していった
いつか来る喜びの日は
あっけなくやってきて
家ごとの取り壊しがはじまって
新しい建売が建つ
新入りさんはとてもいい人にみえるだろう
嫌われものが作った
結界のことはすぐに忘れ去られるだろう
近所の公園で首を吊った
独居老人のアパートが
きれいなレントハウスに変わった時のように

株のデイトレーダーらしい
挨拶もなく見送る人もなく
まちの人に失敗を願われて

ひとりで住む新しい土地で
結界はまたゆっくりと
立ち上がるのだろうか

 

 

 

 

松田朋春

 
 

おれはいまから
じぶんをひとじちに
しをかこうとしているんだ

んだ
がただしいのかな
のです
なのかもしれない

あそこにあるごみが
なくならない

家事の音も聞こえている

しあわせだと言えたことがない

猫に聞く

結束バンドで首をしめるのが確実だと考えて
そのことをずっと
考えている

龍角散のイメージが
ときどきある

赤い結束バンドをAmazonで買って
あちこち使っている
シャワーカーテンのリングとか

結束バンドのことをよく考える
米国の逮捕現場では
親指を重ねて
手錠替わりにする
ほんとかよ

あともどりできないところがすごくすきだ
だから結束バンドは
赤にするべきなんだよ

赤に

はやくしなければ