向日葵のことば

 

藤生すゆ葉

 
 

暑さが滲む
身体が不明確になるように
道に映る影は鮮明さを増す

雲を色づける光は
地上の植物を振り向かせる
それは
誕生と別れ

扉をあけてくれたあなたは
夢のなかで最後の挨拶
人工物では表現できないその光は
ここの意識だけを残して
軽やかに旅立った

 
結末を教えてくれた朝
光の先端に 笑顔をのせて
ありがとう、と

残された意識がすべて旅立つように
願い続けた あなたの幸せを

 
片手の年月
ほほえむようになった「 」は
あなたの元へ戻れたかな

 
生命の切符を携えて降り立つときは
抱えきれない愛と共に 飛び跳ねて

忘れないで

降り注いでいる愛を
言葉の存在を

 

光へ

 

 

 

雨夜

 

藤生すゆ葉

 
 

やさしい風が
わたしを追い越す
木々の香りと

足元をみると
小柄なヒメジョオンが見上げている

闇に照らされた 生があった

光が消えた街に音が灯り
鼓膜をくすぐる

通りすがりの黒猫
表情もほころんでいる

時を越して運ばれた線は
静かに弾け皮膚に温度をもたらす
わたしのあたたかさに気づかせる

目を開けると滲む輪郭
やわらかさを映す
一枚の透明

わたしの内側に遠くの温もりが響きだす

零れ落ちるくらいのそれは
なつかしい はじめまして

わたしのなかを広がり
ほのかな甘みを帯びて
音になる

      あ

            あ

        り

          が 

          た
 
 
            い

 
言葉

すべての景色に

 

 

 

みえてみえない、あなたと

 

藤生すゆ葉

 
 

私には大切な山がある
暑いといえば風が吹き
寒いといえば陽が照らしてくれる

こころがグレーになると鳥が音楽を奏で
こころがグリーンになると風と木が手を繋ぐ

一枚の水音 ありのままの姿が濃淡をつける
一瞬の静穏 自然の先端が目前を通り過ぎる

 
人工の音が 聞こえる

 
他の声が身体に溶け込み こころの色調が変化する

鳥が音楽を奏で始め 陽が照らされる

 
人間の音が近づく 近づいた
やわらかい挨拶とともに空気が前進する

人間の音が遠のく 遠のいた
小さなひと粒の光から言葉が渡される

漂う空気のなかで泡に変わり
風を纏わせ 色をも遊ばせる

いつの間にか 風と木が手を繋ぐ
足元の青みずの子供も

自然が
人が
あなたが
寄り添う 山がある

 
平らな地面に足をのせる

 
笑って 笑って

 
無限の気配が
遠く彼方のほうから
微笑みかけた

 

地上の姿から抜け出した
あなたのような気がした

 

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草花は虹を映し
時を連ねる木々が佇む
大切な 山

 
自然が創り出す色彩を感じながら足を進める
自然の中にいる私なのか
私は自然そのものなのか
境目がどこかへ去った時間があった

一粒の雫が落ちるように スマートフォンが鳴る
祖母の訃報の連絡だった
行年100歳 だった

身軽になった彼女は
最期にどこを散歩しているのだろう、か

浮かぶ道を景色が横切り
離れた自然を体感する

私は今生きている
そう思った

 
葉擦れに新しい音がそっと重なる
親子が通り過ぎた

私を追い越し見えなくなる寸前で
お姉さんも頑張って
と香る響きをくれた

もちろん自然も

太陽と入れ替わるように
瞳を交わした方々が集まる
内緒で宴を計画してくれていた

笑い声が絶えない時間を 共にした

ふと空を見上げる

煌めきあう星たちが
見守っているようだった

どんな時もたくさん笑うのよ

そんな言葉が寄り添っていた

 

 
ありがとう

 

 

 

しずかなこえ

 

藤生すゆ葉

 
 

気づいてくれて ありがとう
人間はおもしろいことをするね

遠いところから来たんだよ
ヒカリたくさんつけられちゃった

道を歩いているとふわっと入り込んでくる

しずかな 言葉のかたち

はじめましてのソウに
もっと地球について知りたいと
話しかける

そっと答えてくれる

地球のことは自然に聞くといい
ぼくらは昔からいるんだから

み空色のかたちに光が溶け込み
ほほえみのかたちが覗き込む

 
あとね

“よい”も“わるい”もないんだよ

 

停めておいた自転車のかごに
何かが入っていた

綺麗な、一枚の葉だった

 

 

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その存在はきっとすべてを受け入れる
地球を知る生命の尊重を願って