正山千夏
たれこめた灰色の雲たち
薄日が肩をあたためて
そこになかった体温を思い出させる
気だるい歌にも飽きた
ただひきずるように重い足取りが
わざと遠回りして
陽の当たる電車に乗ったのだった
暑苦しく吹き出す緑たち
それでも束の間の地上滞空時間
今日は地下には潜りたくない
シートに腰掛けてスマートフォンと心中していく人びと
エスカレーターに乗って欲望と心中していく私
終点で降りると
今日は歌いたくない駅なのだった
たれこめた灰色の雲たち
薄日が肩をあたためて
そこになかった体温を思い出させる
気だるい歌にも飽きた
ただひきずるように重い足取りが
わざと遠回りして
陽の当たる電車に乗ったのだった
暑苦しく吹き出す緑たち
それでも束の間の地上滞空時間
今日は地下には潜りたくない
シートに腰掛けてスマートフォンと心中していく人びと
エスカレーターに乗って欲望と心中していく私
終点で降りると
今日は歌いたくない駅なのだった
俺っち、
ぽかーん。
庭に紫陽花が咲いている。
ぽかーん、
ぽかーん。
二〇一七年六月二十六日
朝から、
テレビの前のベッドに、
横になって、
ぽかーん、
ぽかーん。
中学三年十四歳の
ブロ棋士
藤井聡太四段が、
前人未到の29連勝の記録を更新するかって、
こっちゃ、
こっちゃ。
俺っち、
ぽかーん。
夜の九時回って、
テレビの速報ってこっゃ。
藤井聡太四段が、
十一時間の対局の末
増田四段に勝ったってこっゃ、
29連勝達成ってこっゃ。
こっゃ、
こっゃ。
テレビ、
新聞、
大騒ぎっちゃ。
地元は地元で、
盛り上ってるってこっゃ
こっゃ、
こっゃ。
俺っち、
ぽかーん、
ぽかーん。
ゲオルク・ショルティ(1912-1997)は、ハンガリー生まれの指揮者です。後年は英国に住んでロイヤルオペラの総監督を務めたので、女王陛下から称号を賜り、かの国ではサー・ジョージ・ショルティと呼びならわされていました。
彼はリスト音楽院でピアノ、作曲、指揮を学びましたが、1942年にはジュネーブ国際コンクールのピアノ部門で優勝し、名ピアニスト兼指揮者として国際的に活躍するようになりました。
私は80年代の初めにNYのカーネギーホールで彼が手兵のシカゴ交響楽団を振ったショスタコーヴィチの交響曲第5番を聴きましたが、文字通り血沸き肉踊る、唐竹を真っ向真っ二つに割ったような豪快な演奏でした。
おそらくマジャールの血を引いているのでしょう、その精力的な顔つきと、その特異な風貌にふさわしいエネルギッシュな指揮ぶりは、どんな凡庸なオーケストラをも激しく鼓舞して、その最善最高の演奏を引き出していくのです。
シカゴ響を世界最高のオケのひとつに育てたショルティは、そのように指揮も見るからに精力的でしたが、あちらのほうもお盛んで、ある日曜日に自宅にインタビューに来た30歳以上年下の美しいBBCの女子アナ、ヴァレリー・ピッツ嬢と一目ぼれで再婚し、たちまち可愛い子をなしたのでした。
そんなショルティの代表的な録音といえば、有名なマーラーの交響曲全集もさることながら、やはりステレオ初期の1958年に、有名な名プロデューサー、ジョン・カルショー率いるデッカのチームによって録音されたワーグナーの「ニーベルングの指輪」全曲にとどめをさすでしょう。
世界的にはトランプ、日本的には安倍蚤糞という史上最悪の暗愚指導者が、世界と日本を滅茶苦茶にしている今月今夜の音楽の慰めとして、最もふさわしいのは、その「指輪」の終曲「神々の黄昏」でありましょう。
「ジークフリートの葬送曲」が流れる中、ブリュンフィルデの放った火は、神々の居城に燃え移り、主神ヴォータンも、えせ指導者のトランプも、その愚かな忠犬安倍蚤糞も焼け死んでしまいます。
天下一品のウィーンフィルのオケの咆哮をものともしないジークフリートのヴォルフガング・ヴィントガッセン、ブリュンフィルデのビルギット・ニルソンの絶唱は、文字通り歴史的名演奏と申せましょう。
車窓から
景色の
流れるのをみて
帰った
ふるい友たちと会った
あどけない
俤が年老いた顔々に残っていた
みなで
歌をうたった
うさぎおいしかのやま
こぶなつりしかのかわ
景色が流れるのを見て帰った
景色が流れるのを見て帰った
景色が流れた
あどけない
朝になった
雨はあがった
ゴンチチのロミオとジュリエットを聴いてた
ロミオは毒を飲んだ
ジュリエットは短剣を刺した
35年の生を売る
労働を売る
友人たちに
お元気でといった
よい一日をと
いった
貨幣に外部はあるのか
自己利益に外部はあるか
どうしたのだろう
新緑のひかる木の梢
若葉の準備に浮き立つ辺り
白い布?が干されている
どうしてだろう
その下をあたふたと
灰色の制服の男たちが
駆けずり回っている
どうするのだろう
手に手に黒いビニール袋をもち
すばやく屈み
また走る
のぞみの鼻先に
キリンのような
鮮血が
垂れた布?からは
ぬらぬらした
何かが垂れてきている
落ちてきたのは
…眼球だった
下の茂みをもう見られないね
ぼくらはこちら側で
ディズニーからの帰りなのだ
止まった列車を乗り換える
こだまに
今、男が白い腕を
ビニールに入れたところだ
子供のけたましい叫び声のこだま
先ほどの絶叫と変わりはしない
ホームを変える人たちは
いらだち
高架の奥の青空は
どうということもなく光り
小さな振動を伝える
ひかりが入ってくる
奥のビルの窓に
肉塊が張り付いているのを
発見した係員が
手を振って合図している
瞬間の決意
瞬間の痛み
瞬間の後悔
のぞみの切っ先に
赤い霧がひかり
こだます
架空地線に
こびりついたものは
いつも取り除けない