島影 20

 

白石ちえこ

 
 

山形県 朝日町

大沼

山岳修験者によって開かれたという、1300年あまりもの長い間、守り伝えられてきた大朝日岳の神域です。
沼を浮遊するいくつもの小さな島々の不思議な動きで国の吉凶を占い、歴代の領主や政権の祈願所でもあったといいます。
時の支配者の願いを叶えてきた神池。沼を囲む森を歩いているとどんどん時間がさかのぼっていくようで、今、自分がここにいる不思議を思いました。

 

 

 

島影 19

 

白石ちえこ

 
 

愛知県 佐久島

一色の港から定期船で佐久島へ。
地図をたよりに、島のことをよく知らずに渡った。復路の船の時間まで、静かな島を歩いていると草はらに気持ちよさげに草を食む山羊がいて、目が合った。
ずいぶん後になって、この山羊の名はビリーだと知った。
島にはもう一頭、山羊がいて、名はノン、というらしかった。
たしかにのんびりとした島だった。
この写真を撮ったのは2007年。
もうずいぶん前のことだ。

 

 

 

島影 16

 

白石ちえこ

 
 

山形県 鶴岡

朝、鶴岡の町から月山をぬけて山形駅へ向かう。
橋をわたるとき、まっ白なかたまりがゆっくりと川に沿い、上流からおりてくるのが見えた。
車を停めて橋に戻り、山からくだる霧を眺めていた。
十分たらずのうちに霧はあとかたもなく消えてしまった。
なにごともなかったような景色に戻った。

 

 

 

島影 14

 

白石ちえこ

 
 

千葉県 鋸南

房総半島へ行くたびに挨拶していた、国道沿いの大きなサボテン。
ズズ、ズ、と夜中に散歩していそうに思えた。
昨年、姿が見えなくなった。
とうとう、旅に出たのだ。
誰もいない遠くの夜の海岸で、
月の明かりに照らされて
そっと海を眺めているこのサボテンを
わたしは想像している。

 

 

 

島影 13

 

白石ちえこ

 
 

紀伊長島

車一台が通れるほどの狭い路地の商店街は定休日なのか閉まっているお店が多かった。
半分開いていて、半分閉まっているような洋品店を覗くと店の奥に古いトルソーがあった。
トルソーはまわりのものに埋もれているようにも見えたが、別の次元に存在しているようでもあった。
近づいて行くと、トルソーは棚の上から私をじっと見つめかえした。

 

 

 

島影 12

 

白石ちえこ

 
 

神奈川県 早川

脇幕に隠れて舞台の写真を撮りながら、背後の階段が気になっていた。
ねじれて、暗がりをたっぷり吸い込んだような階段が生き物のようにわたしを見つめている気がした。
舞台が終わったあと、そっとフィルムカメラを取り出して数枚撮影した。

 

 

 

島影 11

 

白石ちえこ

 
 

北海道 帯広

はじめて冬の北海道を訪れたのは2014年の2月だった。
帯広の町。
凍った歩道を滑らないよう、足下を見ながらうつむいてあるいていると、見慣れない影が目に飛びこんできた。
顔をあげると目の前に大きなエゾシカがいた。