michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

荒れた家

 

工藤冬里

 
 

皿の水は乾いた熱気に晒され
紋章は鳩の内臓
空元気の思い出
水田を切り拓く山奥の
オレンジの土壁の倒れた山道
キャベツの、罪を捲れて球形
石の混ざった黒っぽいアスファルトがキッシュのようだ
甘い本で腹を満たし
泥水を跳ねかけられながら寝そべり
髪の毛を植えるパフォーマンスは無視される
プレッシャーに打ち勝ち汚されないために
決断し続けても
荒れた家
マラコイμαλακοὶかアルセノコイタイἀρσενοκοῖταιかに関わりなく
かなり荒んでいるのが分かる
梁と柱しか残っていない
言葉は家ですと言った時
壁は落ちた
言葉は家ですと言った時

 

 

 

#poetry #rock musician

雨が降っていた

 

さとう三千魚

 
 

今朝
目覚めたとき

降っていた
雨の音がしてた

階段を降りていった

台所で
コーヒーを淹れた

歌人が書いた
エッセー本の表紙を見てた

野見山暁治の絵か

とも思えた
その本のタイトルは”野良猫を尊敬する日”だったか *

我家に猫はいない

 

・・・

 

この詩は、
2024年4月24日水曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第4回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

* 穂村弘さんの著書のタイトルを引用しました。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

繰り返すな、大きな過ちを

 

ヒヨコブタ

 
 

わたしが幼かったときこの国はもう戦争は起こさないだろうと
思いこんでいた。
その頃周りに戦争のさまざまを知っているひとが、語るひとがいたから
その苦しみをもうさせたくないと言うひとがいたから
わたしはじぶんの国のことよりも、よその国で止まぬ戦いに涙し祈っていた
明日こそは誰も理不尽に死にませんように
ちいさく拙い発想でもそれが叶うと信じていた

今、この国の進む未来に
昔年寄たちが話していたことの正しさに怒りときに
落涙する
人間は愚かだから、過ちを繰り返す
戦争も時が経てば忘れたようにおこすかもしれないんだと
そんなはずはない、あなた方の苦難を覚えていればそんな将来にさせないと
確かにあのとき思っていた

なぜ過ちにつながることをするのだ
あなたは無事でも、その子ども等が人を殺さなければならぬ道につなげてはならない
おのれのいっしゅんの欲望のはけ口に
戦争を持ち出すな
その欲望のためになくなる命があってはならん
あちこちが破壊され、なぜ我が国だけが通常でいつまでもいられると思えるか?

今のこの国に一旦失望し、前を向こう
あきらめない
誰の命も人生もあきらめない
わたしはそのために生き延びたのだと思うから

 

 

 

保育園ひょろっ

 

辻 和人

 
 

ひょろっ覗く
ひょろっ隠れる

今日は保育園見学の日
ぼくもミヤミヤもいずれ職場復帰するからね
今日見学に来た保育園はふるーいビルの1階
端が綻びたエプロンぱんぱん叩きながら
「暑いところ足をお運び下さりありがとうございます。園長のNです。
園内を歩きながら案内致しますのでご質問があればいつでもどうぞ」
ごましお髪揺らしのっしのっし歩き出す
その時だ

「こんにちは」
声、立っていた
ひょろっ4歳くらいの男の子
抱っこ紐の中で眠ってるコミヤミヤとこかずとん凝視して
ひょろっ姿消す
お客さんに挨拶できるなんてすごいね

「ここが1歳児クラスです。今はブロックで遊んでいます」
大きなバケツに入った色とりどりのブロック
細っこい手てんでに握って
てんでな物体作り上げる
細っこいガニマタ足てんでに動きてんでに新しいブロック取りに行く
へぇー1歳児ってこんなに歩けるんだ
ミヤミヤと感心しながら見ていたら
ひょろっ影が
さっきの男の子だ
窓ガラスからひょろっ覗いて
ひょろっ行っちゃった

「ここは2歳児クラスです。今塗り絵やってます」
しぃん
どの子もすっごい集中力
チューリップさん、メロンさん、トラさん
みるみる紙の上で舌を出す
「すごい、はみ出さずに塗れるんですね」とミヤミヤ
「2歳になるとびっくりする程器用になりますよ。
急にイヤイヤスイッチ入ってクレヨン投げちゃう子もいますけどね。
こちらの小部屋はトイレトレーニングに使います」
ちょこんと白い幼児便座微笑んだ
保育園ってこんなこともしてくれるのか
その時、ドアの隙間から
ひょろっ
そしてタタタッと走っていった

「園庭に出てみましょうか。丁度3歳児クラスが水遊びをやっています」
ひろーい園庭におーきいゴム製プール置かれて
水しぶき、水しぶき
手、足、頭、お尻、弾ける
細っこい手キラキラ掬いあげて
細っこい足パシャパシャ逃げる
甲高い声、声、入り乱れる
「泳ぐってとこまでいきませんが水遊びはみんな大好きですよ」
周りで4人の先生見張ってる
そこに裸足の男の子駆けてきて園長先生の背中にドン
「もう、この子いつも元気良すぎてね、ほら、お行儀良くしなさい」
頭軽く小突いて放す
あら、滑り台の脇にひょろっ
見慣れてしまった影

「ここで給食を作っています。
ウチは外注しないで自分のところで安全な食材を吟味しています。
水曜日は麺類の日で園児たちはみんな楽しみにしています」
忙しそうに野菜刻んでる白衣のお姉さん
あれはこれから茹でるうどんかな
「外から安全確認できるようにガラス窓をもうけてるんですよ」
大鍋ぐつぐつおいしそう
ホワイトボードにチェック入れて段取り確認か
さて、そろそろくるかな

くるかな、くるかな
きたっ
ひょろっ柱の陰だ
涎垂らしたコミヤミヤとこかずとんじっと眺めて
ひょろっ消えた

「丁寧なご案内ありがとうございました。
おかげで園の様子がよくわかりました」
頭を下げるミヤミヤとぼく
「ざっとした説明ですみません。後でご質問がありましたらお電話下さい」
ようやく半目を開けたコミヤミヤとこかずとん
2つの抱っこ紐の中でふわぁ2つのあくび
おうち帰ったらオムツ替えてミルクにしようね
スリッパから靴に履き替えて園を出ようとしたら
「さようなら」
ひょろっ声がする
ぼくたちの先回りをして
玄関の壁に背を凭れかけて座ってる

赤ちゃん、いる
ちっちゃいなあ
かわいいなあ
見たい、覗きたい
もう年長さんだもんね
赤ちゃんだった時代は遥か昔
もう赤ちゃんではない自分にとって
赤ちゃんは興味津々
かわいがるべき対象だ
ウチの子たちに興味を持ってくれてありがとう
建物も設備も古いけど良い保育園だったな
ひょろっ