これについて ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 40     aoi 様へ

さとう三千魚

 
 

これに
ついても

あれに
ついても

じつは
なにも

知らない
すみれの花

だけが
知っている

知らないということ

 

 

***memo.

2023年5月27日(土)、しずおか一箱古本市の会場「水曜文庫」での即興詩イベント、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」第十三回で作った40個めの詩です。

タイトル ”これについて”
好きな花 ”すみれ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

夜明け前 ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 39     kaori 様へ

さとう三千魚

 
 

わすれた

わすれた
こと

わすれた
ひと

会いたかった

夜明け前
ノウゼンカズラ

だいだいの
だいだい色の花

会いたい

 

 

***memo.

2023年5月27日(土)、しずおか一箱古本市の会場「水曜文庫」での即興詩イベント、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」第十三回で作った39個めの詩です。

タイトル ”夜明け前”
好きな花 ”ノウゼンカズラ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

縮小

 

工藤冬里

 
 

今や緑は緑だけで諧調を整え
花水木を待ってさえいない
白人リベラルは半分に縮小し
犬猫は半々を分け合う
紙媒体はそれでも数万を保持し
維新のように一定の力を振るう
通路は赤で指し示され
退路は緑で覆われる

あちこちに散水栓は仕組まれ
店舗のない地下道で都市の希望も
本屋にない雑誌のように縮小する
坂道発進の過去もフォークリフトの資格も
四角い平安の牛角のデザインに縮小する
僕は
縮小する

延期に次ぐ延期
未整理のまま
毒を盛られて
中央線の「死にたい」がキノコ雲
縮小する
キランキランした余命で嫁入り
縮小する
弱火の鬼火で終活カレー
縮小する
人の言葉を覚えた鳥が昔の人の名前を呼んだ
カワサキ川崎一人きり
縮小
白髪はワタリガラスの廊下を滑る
思わず君が家に至る
表層の亘 焦燥の渉 航走の航
わたるくんたちが点在するわたるくんたちの妻も点在する
ヘコリプタアが田圃に堕ちた
背中に盛り上がる癌細胞の瘤
自暴自棄な死亡時期磁気嵐磁器荒らし
生存期間まで短縮営業

軽に草刈機を積んで
僕はもう日本語を捨てよう
日本語が悪いんだ
悪いのは日本語なんだ

 

 

 

#poetry #rock musician

夏の日に ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 38     nobuyo 様へ

さとう三千魚

 
 

遠い日

過ぎて
きた

夏の
遠い日を

過ぎて

ディゴの
花の

下には
逢瀬があった

花は
揺れてた

風に揺れていた

 

 

***memo.

2023年5月27日(土)、しずおか一箱古本市の会場「水曜文庫」での即興詩イベント、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」第十三回で作った38個めの詩です。

タイトル ”夏の日に”
好きな花 ”ディゴ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

みえてみえない、あなたと

 

藤生すゆ葉

 
 

私には大切な山がある
暑いといえば風が吹き
寒いといえば陽が照らしてくれる

こころがグレーになると鳥が音楽を奏で
こころがグリーンになると風と木が手を繋ぐ

一枚の水音 ありのままの姿が濃淡をつける
一瞬の静穏 自然の先端が目前を通り過ぎる

 
人工の音が 聞こえる

 
他の声が身体に溶け込み こころの色調が変化する

鳥が音楽を奏で始め 陽が照らされる

 
人間の音が近づく 近づいた
やわらかい挨拶とともに空気が前進する

人間の音が遠のく 遠のいた
小さなひと粒の光から言葉が渡される

漂う空気のなかで泡に変わり
風を纏わせ 色をも遊ばせる

いつの間にか 風と木が手を繋ぐ
足元の青みずの子供も

自然が
人が
あなたが
寄り添う 山がある

 
平らな地面に足をのせる

 
笑って 笑って

 
無限の気配が
遠く彼方のほうから
微笑みかけた

 

地上の姿から抜け出した
あなたのような気がした

 

———————————–

草花は虹を映し
時を連ねる木々が佇む
大切な 山

 
自然が創り出す色彩を感じながら足を進める
自然の中にいる私なのか
私は自然そのものなのか
境目がどこかへ去った時間があった

一粒の雫が落ちるように スマートフォンが鳴る
祖母の訃報の連絡だった
行年100歳 だった

身軽になった彼女は
最期にどこを散歩しているのだろう、か

浮かぶ道を景色が横切り
離れた自然を体感する

私は今生きている
そう思った

 
葉擦れに新しい音がそっと重なる
親子が通り過ぎた

私を追い越し見えなくなる寸前で
お姉さんも頑張って
と香る響きをくれた

もちろん自然も

太陽と入れ替わるように
瞳を交わした方々が集まる
内緒で宴を計画してくれていた

笑い声が絶えない時間を 共にした

ふと空を見上げる

煌めきあう星たちが
見守っているようだった

どんな時もたくさん笑うのよ

そんな言葉が寄り添っていた

 

 
ありがとう

 

 

 

ヒロシマをみるひと、立ちどまるひと

 

ヒヨコブタ

 
 

そのひとがヒロシマに降り立ったとき
わたしはなんとも言えぬ気持ちになった
祖国で多くの犠牲があり、その只中にいる国のリーダーが
ほんとうにヒロシマに来るとは心底驚いたのだ

わたしはいつも戦争が嫌いだと思って生きてきた
何もうまれずそこに誰かの欲があからさまに見え
そのために多くのひとが日常を奪われる
ときに命も

まったく理不尽なことだと思う

そのために時折わたしは涙する
平和というあたりまえに平等に皆が得られるはずのことがなぜあたりまえに得られぬのか
時折怒りで震えるほどだ

幼いわたしが夏の日、原爆資料館を訪れたとき
あまりの残酷さにトイレに駆け込んで胃の中のものをすべてもどした
そこに溢れる過去の現実が苦しくて
心配そうにもう出ようという親を振り切って
最後まで展示を見た
10に満たないこどもでもわかる、見なければという現実があった

過ちは繰り返さないという思いは叶うのだろうか
わたしにはそれすらわからない
あんなに恐ろしい現実からまだ100年も経たぬのに
世界の一部は核を容認し続けている
どこの誰にも他者をあんな目にあわせる権利などない

相手が武器を持つからこちらも武器を持つ
そういった考えを心底悲しく、憎む
1つの武器を得れば、強くなるはずもない
武器は弱さの象徴だとわたしはずっと涙する

なぜこんなイタチごっこを繰り返すのか
過ちを繰り返すつもりなのか
わたしはそれがなくなる世界をいつも待っている
そのままこの星ごと壊されたとしても
わたしのこころや他の平和を求めるひとのこころまで
どんな武器も壊すことはできない
わたしが影のように石に焼きつけられるなら
望むところだ
愚かなことをしようとするなら
わたしから奪えとさえ思う
わたしごと総てを誰かが奪おうとしても
わたしは最後まで平和を希求するだろう

わたしの生まれた夏、それはいつも戦争が愚かだと知らされる夏だった
この夏もわたしは思うだろう
より強く思うだろう

最後の被爆国としてこの世界が平和を取り戻せますようにと
こどものわたしからの宿題を頑なに
願い続けるのだ

 

 

 

今更ながらパパっていうこと

 

辻 和人

 
 

今更ながら
何なんだ?
2階に引き上げるミヤミヤ、ぼおっと浮かぶ
「かずとん、後はよろしくね」
午前1時のシフト交代
コミヤミヤとこかずとん、ぽおっと浮かぶ
オムツ替えてミルク飲んで
じき寝るかな?
次にぽおっと浮かぶのは
おっと、2カ月半の新米パパ
擦り切れたジャージ着て寝不足の目しょぼしょぼさせてる
パパって何だ?
一生独りでいくぞって決めてたよな
なのにひょんなことからノラ猫かまうことになって
ひねった首で舐め舐めしあう冷蔵庫の上のファミちゃんレドちゃん
ぼおっと浮かぶ
一緒に過ごすニンゲンの仲間もいいかもって
待ち合わせの改札でこっちこっち背伸びして手を振るミヤミヤ
ぼおっと浮かぶ
お腹ぷっくりミヤミヤが
お腹ぺったんこミヤミヤにぼおっと入れ替わって
入れ替わったと思ったら
へその緒ひょろっとコミヤミヤとこかずとん、ぼおっと浮かぶ
上手なジャズ研があるからってぼおっと大学を決め
本が好きだからってぼおっと就職先を決め
詩が書きたいからってぼおっと書いてきた
その先に
深夜1時のぼおっとパパだ
何にもない
今更ながら
ぼおっとパパだ

赤ちゃん見守り用ベッドに横になる前に
お楽しみを一杯
実はウォーターサーバーをレンタルしたんだ
ちょっと贅沢かと思ったけど何の何の
お湯と常温水と冷水が出てミルク作りがめっちゃラク
富士山麓のおいしい水使ってる
赤ちゃん用の水だけど一杯だけ失礼するよ
ビー、コップについで
ごくっ、浸みるぅー、ンうまい

コミヤミヤとこかずとんの呼吸確認するか
両手バンザイポーズで眠ってる
耳近づけて
ぼおっと吸って
ぼおっと吐き出す
ぼおっと規則正しく顔色も良く
浮かんでる
次のミルクは午前4時
コップの残りの水ぼおっと飲みほす
水って味がない
ないからンうまい
今更ながらパパって
何にもない
味もない
午前4時にぼおっと浮かぶ
ぼおっとパパなんだ

 

 

 

万歩計9585

 

南 椌椌

 
 


© kuukuu

 

スマホに 万歩計
小一時間歩くと 6750という数字
歩きなれた 関町から吉祥寺
垣根の白バラは 年々ふくらみ
悩ましい 花の生死が 匂う
万歩計は 6750で
音もなく たちとまる
そして さらに きざまれ
真昼の空の青みを 裂いて
月から落ちてくる 林檎の音
地球の裏の 鯨のため息
ウーヨン ウー ウーヨン ウー
すれ違う 四匹の犬はおとなしく
どこかで 鳳仙花が 破裂
アリランが 空耳で ラプソディ
記憶が ひび割れて
シチリアのモザイク
クロスワードが ギクシャク

あたまのなかの 赤いポスト
スヌーピーの84円切手が笑った
返事を書こう 文字を書こう
藁の紙に ペンを走らせたが
文字は浮かばなかった
鉛筆を走らす 速度を変える
音がかわる 色が変わった
ここは どこだろう
万歩計は9585

そこで一枚の絵を 思い出した
ダウンの子 U君が描いた絵
彼はことばを語らない 歌わない
シセツの 絵画教室で
30分 たっぷりかけて
たった一本の 線を引く
すこし 首かたむけて
軽くかるく 鉛筆をにぎり
30分かけて たった一本
20センチの 線を引く
これまでに 見てきた 無数の絵
U君の一本の線ほど
胸に迫った絵はない 本当です
この微々に ふるえる
たった 一本の線
U君は 天才的におだやかで
天才的に 語らない人
U君が この世界で
感受しているもの そのすべて
一本の線が 語りかける
万歩計は 9585のまま
U君とは 二度と会うことはないだろう
げんきでいればなあ
この星の どこかで

 

 

 

5月の人称

 

工藤冬里

 
 

一人称の多重を理由に
憎まれ攻撃の強まる先の頁は
理由に出来ない疾患のカタカタと
処罰と無力の務所の庭で
名前を肴の宴を張るドキュマン
まず歌うたいを任命し
矢とした
武装を覆す万能感に浸れ
今はまだ空腹ではないのだから
じきに子供を煮ることになる大飢饉の前に
戴冠式のスピーチライターの用意した双頭の犬を仕留めよ
猪はいずれは射的場になる畑に背を擦り付けよ
恐れるのは仕方ないとしても
立たされたまま矢面で歌え
誰からも愛されず一人称は死んだ
子供を連れて向かう刑場
奈良辺りの塔の絵の中に棲んでいる声で
そうすれば動じないでいられます
そうすればeverything’s gonna be all right
苦痛もなくなりますがよいですか
頭が一つしかない犬はゼリーの階段に居る
いや黒胡麻汚しのプリンかもしれない
その三人称には子供だった時とお姉さんになった時の二種類しかなかった
バイトしていた回転寿司が潰れているのを今日見た
お針子の口調で目標と言っても小さなもので大丈夫ですと言い滑り
マスクと眼鏡と眉毛の双頭が退くと
気から来た痛みが腰から昇ってくるのを
歌で呼ぶ救急車に猪を乗せ
腹を割ったら紫水晶だった
波及するシステムの中で困難は売られている
噴火の見える最終階の煙たい備蓄に歌が戦ぐ
黄色なのか金色なのか兎に角装って
噺家の死前喘鳴を続けよう
どこから抽出されているか分かるまで鉛筆で
この体という家にいる限りは本当のことを言ってくれる人から
いくつもの真が放射場に語られる
体現し吸収するこの平たい家に下水はあるか
雲は青白の洗濯機に入る
栄養豊富で添加物もない経路に
雲水の書を流すか
爆破するのは半導体工場ではない
ラーメン屋のカウンターで手放した刃物で
新しい歌をなぞる

 

 

 

#poetry #rock musician

狩 *

 

さとう三千魚

 
 

今朝
風が吹いてる

枇杷の
黄色の実の

初夏の日射しを受けている

モコは
玄関のタイルの上で眠っている

女は
御殿場の

アウトレットで買った茶色の
チェックの半袖シャツを着て鏡の前に立っていた

ながく
立っていた

それから
クルマで出かけていった

モコを抱いて
女を

見送った

しゃがんで
庭の隅の

カサブランカのまっすぐに佇つ緑の花芽を見ていた

青く
膨らんでいた

紫陽花の小さな花たちもひらいていた

いつか
いこう

女と
モコと

野の花を狩りにいこう

 
 

* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”スポーツとあそび” より

 

 

 

#poetry #no poetry,no life