歩いて帰った

 
 

さとう三千魚

 

河口まで

走った
昨日の朝

河口まで走ってきた

長く勤めた会社を辞めて
女は

年末のホノルルの
マラソンを走ると言いだしたのだった

わたしは
長くは走れないから

ゴールで待ってる

そう言い
待っていた

ずいぶんと待って
心配になり

迎えに歩きだした

遠くに
婆さんのように

何度も立ち止まり脚を引き摺る女はいた

むかし
広告に

"がんばったヒトにも"
"がんばれなかったヒトにも"

というのがあった

女はがんばったヒトだったろう
わたしは心配になり女を迎えにいったのだった

昨日の
朝は

河口まで走ってきた

坂田明の"鳥の歌"を聴いて走った
坂田明の"ひまわり"も聴いた

"貝殻節"も聴いた

戦争に負けた年に坂田明は広島で生まれたのだという
がんばったヒトだろう

坂田明のサックスを聴いてた

河口から
歩いて帰ってきた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

糸満ブルース

 

工藤冬里

 
 

移動する花嫁花婿を追う長回しが少し揺れ
奪われた命でさえ取り戻す勢いで轟きが過ぎる
ひめゆりのガマ近く、吹きガラスの粗野な泡も消えた1300度の戦後
カメラはやがてただ空のひかりを追い
コロニアリズムに繋がろうとする幾つかの要素を糺す
クチャの赤瓦、コリドール、アダンの実、アレカヤシの実、ざわわざわわざわわ
徒手空拳に似たにふぇーでーびるに
嵐の日でも海はある程度エメラルドグリーンで
「私はバスガイドではないので美声の唄をお聞かせしたりはできませんが」
女性首相似の歌わぬ反中反日添乗員瑞慶覧(ずけらん)さんの志望動機に
ジョニーもヤザワもざわわざわわざわわ
われわれもざわわざわわざわわ
アハブのように悚然(しょうぜん)として

https://youtu.be/-jQAUl34RvA?si=kWiSn4vFvbDKKVha

 

 

 

#poetry #rock musician

「夢は第2の人世である」第110回

 

佐々木 眞

 
 

 

2025年7月

NYではLAより物価が高いので、生活が苦しい労働者が、かつての西部開拓時代のように続々移住しているらしい。7/1

彼女はピアニストとしてはたいしたことはないが、聴衆の反応を実に正確にコメントすることができるので、いつの間にか音楽批評家を名乗るようになったずら。7/2

久し振りに電話してきた先輩のタカハシさんが、「夕暮れに丘に登ると、海からの風を感じる」というた。ちなみにタカハシさんは、日野に住んでいるようだ。7/3

その寿司屋では、三日間限定で食べ放題の大サービスを実施したので、犬猫熊にんげんを問わず、千客万来の大繁盛だった。7/4

ガザの民草の言葉と断片的な映像をちりばめた、60年代の白黒ポスターが、湾岸の廃墟に貼られているのを見つけた。ADは藤幡正樹だった。7/5

サブスクであらかじめ決済された取引なのに、アマゾン族の酋長は、「是が非でも今日中に納品せよ」と不定期労働者に命令するのだった。7/6

我は長々と眠りこけていたが、そんな我をひたすら待ち設けている奴がいることを、我はうすうす感知していたので、なおも眠り続けていると、いつの間にかそやつはいなくなってしまった。7/7

おらっちは、昔リーマン時代にバイヤーと直談判して獲得した衣料品売り場で働いていたパートの女性たちが、売り場も、デパートも、衣料品会社も地上から消え去ったいま、どこでどうしているかを思いやって、複雑な気持ちになった。7/8

フランコ軍の優秀な狙撃手に心臓を撃ち抜かれたおらっちは、「右の義眼に映じたスペインの蒼穹の青がやけに沁みるなあ」と思いつつ瞑目していった。7/9

「悪の華」教室では、毎回違った視点で人世を見直すことになっていたので、今回は「もし毎日が2時間だけだったら」をテーマに、出席者全員で討論していったのよ。7/10

5大都市を代表する5人の容姿端麗年齢不明の美女たちは、なぜだか出身地の名誉を賭けて、一大コンテストに出場することになった。7/11

町内で戦争参加を意思表示しているのはたったの3名だったが、3名とも家族、殊に妻君との人間関係に破綻して、黒い絶望に駆られているのだった。7/12

溝口、小津、黒澤をはじめ、我が国の名監督たちの影のプロデューサー役を務めていた女性が、ひっそり亡くなったことを、誰も長らく知らなかった。7/13

ワレは弁護士がヘンルの方法を思いつかなんだひこんを丸はたのしてこらよかった。7/14

強風劫火の実態を、ドキュメンタリー映画で撮影したい、と念願していたベテラン俳優は、雇い入れた若手の映画監督が、テストばっかり繰り返すので、次第にやる気を失い、とうとう全てを投げ出してしまった。7/15

監督がもっとフツウでいいというのに、僕たちはタメをはってヘアメイクひとつとても徹底的に拘るものだから、結局映画は完成しなかった。7/16

急いで家を出て電車に乗って、駅の改札口を出てからコンビニでコーヒーを買おうとしたら、財布にはお札も小銭も入っていない。コウ君が抜いたんだと分かったが、もう遅い。スイカの残高が500円しかないので、ここから歩くしかなかった。7/17

我々が敵をホールドアップさせている間に、少年は、敵の捕虜になっていた両親を目ざとく見つけて、ひしと抱き合っていた。7/18

急に便意が催してきたので、急いで柵の中に入り、テキトーな穴ぼこの上に跨って尻を晒していたら、勤め帰りの連中が柵を開けて大勢侵入して来て、次々に穴ぼこの上に跨るのは、奇妙奇天烈な光景だった。7/19

女にどんな夢を見たのか尋ねたら、一晩中いろんな夢をいっぱい見たと答えたが、くわしいことは何も覚えていないというのだった。7/20

品川駅では満席だったので、東京駅まで行って新幹線の始発に乗ったら、同じ車両の遠いところにワカバヤシ、マエ、サカイの3名が雁首揃えて座っていたのだが、新大阪に着いても、知らんぷりを決め込んでいたのよ。7/21

アラビアの王子は、アラビアのロレンスが大好きだったので、宮廷政治などそっちのけでハーレーダビットソンを乗り回しているうちに、ロレンスみたく交通事故で死んじゃった。7/22

大リーグにいた稀代のノーコン投手が帰国して、クマさんチームに入ると聞いた監督のおらっちは、小躍りして喜んだ。うちの打者がバットを振りさえしなければ、四球の連発でどんどん点が入るからである。7/23

野外で大カラオケ大会を開催することになったので、ありとあらゆる曲を野外で全曲再録音することになったのだが、音大卒のアルバイト嬢が、全員咽喉を壊して寝込んでしまった。はてさてどうしたものか? 7/24

北風が吹き募って難儀な夜だったが、そんな日には、この地方では夕方から部落全体をすっぽり天幕で覆うので、人々は朝までぐっすり眠ることができるのだった。7/25

「音楽王」と称された父の薫陶を受け、その後継者と目されてきたおらっちだったが、この際思い切って居心地のよいぬるま湯的情愛歌を脱して、海のものとも山のものとも知れぬ超インディーズものを強力にフューチャーする独自路線を猛進することにしたのよ。7/26

この巨大な宿舎は、あまりにも広大すぎて、午前中に入った温泉に浸ろうとしたのだが、どこだったかてんで分からない。途中で大階段を降りようとしたら、急な俄雨に降られて、びしょぬれになってしまった。7/27

巨大な山を真っ二つに切り出して造成した大学は、物凄く広い。大浴場に行く途中の急な崖には、階段状の広いコンサート会場や、それぞれ2つの十字架を持つ新旧2つのキリスト教会の会堂が、隣り合わせに聳えていた。7/27

今日は月に一度の面会日。たくさんの食べ物やお菓子や果物を用意して、牢屋から息子が出てくるのを、今か今かと待っていたが、なかなか出てこないので、不安になる。7/28

この村のどこの居酒屋に行っても、入り口で大声で騒ぎ立てる奴がいるので、俺はその都度ブスッと刺し殺すようにしていた。この鋭い短刀で。7/29

警官のおらっちが、ネズミ男を駐車違反で捕まえると、ネズミ男はニヤリと笑って、「今度はあんたの番だぜ」と囁いたのだが、案の定おらっちは、翌週ネズミ男に駐車違反で逮捕されてしまったのよ。7/30

最新型の潜水艦からは、潜望鏡を上げなくても、外部の様子をくまなく観察することができたのだった。7/31

 

2025年8月

むかし彼女にプレゼントした現代人必携の教養書が「国のあけぼの」で、これに加えて「国のいきおい」、「国のほろび」の3点セットは、わが社随一のベストセラーになったのよ。8/1

どこかで見た顔つきのゲタ男が、スマホを取り出して、なにやら業務連絡を始めた。8/2

人殺しを始めたら中途半端は良くない。一人より10人、10人より百人、千人を殺せばそのうち誰も文句をいわなくなることをよく知っていたので、そいつは毎日500人をノルマに、どんどん人殺しをしていた。8/3

頭の中で、あるコトバを念じただけで、直ちに印字できてしまう最新システムが完成したのだが、いまだに漱石山房の原稿用紙に、モンブランの太字で小説を書いている俺は、焦った。8/4

その人気番組は、実はダブルスタッフで運営されているので、メインのキャラクターの演技がいまいちな時には、もう一人のキャラの映像が使われるのだった。8/5

「話し言葉」はダメで「書き言葉」だけが許される戦争なので、とても不便。指揮官も単純に「撃て!」と命令すればいいのだが、「はじめに我らの兵の一撃あるべし!」などと、もって回った言い回しにせざるを得ないのだった。8/6

その地方検事は、地方に出張しては、隠匿された軍慰安婦を探し出して保護していたので、まるで神様のように崇められていた。8/7

人事に頼まれて面接に臨むと、おらっちは、いつもこの有為な人材を他社に取られたくないというて採用しようとするので、人事のウチダに警戒されて、あまり声がかからなくなってしまった。8/8

人気、実力、人格随一無比のイシイ選手に対して、瞬間湯沸かし的な嫉妬に駆られたおらっちは、愛用のブラウニングで撃ち殺そうとしたが、幸か不幸か未然に逮捕されたので、10年間牢屋で暮らしたんだ。8/9

そのテレビ局の地下1階のフロアには、いつも湧水がいちめんに流れていたので、夏は天然冷房状態だったが、まるでアニメのヒロインのような少女が、清水を掬って一口飲んでいた。なんでもテレビ局の社長の一人娘らしい。8/10

線路際で電車を待ちながら、「今日はまた格別に暑いですね?」「ええ」「どうですか、どこか涼しいところで冷たいかき氷でもいかがですか? 私は真っ赤なイチゴが大好きなんですが」と、ゼネラル広告のオカモト氏は言葉巧みに誘って、これまで何人もの美少女をモノにしてきたのであった。8/11

鎌倉霊園の近くの県道にたむろする大型バイクの暴走族の排気音が凄まじいので、テラオ氏は単身県道の中央に仁王立ちになり、さながら武蔵坊弁慶のごとく大手を広げて立ち塞がったのよ。8/12

ここは山紫水明の別天地だが、生憎交通の便が最悪でこれまで観光客など皆無だったのだが、最近は地元民より怪しい風体の外国人の往来が頻繁になってきたようだ。8/13

花形12人衆のうちの誰か1人が、死地にあったおらっちを救い出してくれたのだが、それが一体誰なのか分からない。お礼を言いたくて懸命に探し出そうとしたのだが、その行方は、杳として知れなかった。8/14

死にゆく女には、ただ一人だけ会いたい人がいたのだが、奇跡的な邂逅の願いはついに果たされることなく、永遠に沈黙したまま冥い泉下へと沈み込んでいった。8/15

最高権力者の晩餐が終わると、あたしたち2人のどちらかが、食後のデザート代わりに呼ばれて、四阿の寝室の中でお伽をさせられるのでした。8/16

わが軍では、ある時から2人1組のユニットで行動することに決めたのだが、これが意外にも功を奏して、連戦連勝が続くことになったのよ。8/17

「宣伝が最高のイメージを演出しても、商品がそのイメージを裏切ったら、宣伝なんかしない方がよかったという結果になるんだよ」とアホ無垢に語ると、ワンワンと頷いたげな。8/18

ソロモン王は、宮殿の寝室で血を吸うた蚊を殺しそこない、あまつさえ山百合の花が乱れ咲く花園に逃げ出したので、悔しくて悔しくてたまらず、幾世代後の後にそれを気の毒に思ったマタイが福音書第6章第28節以下の名文句を遺したのだった。8/19

4名の犯人のうち、どれか1人を殺すことになったのだが、選ぶ基準を巡って邏卒らに論争が起こり、陽が沈んでも落着しないので、とりあえず今日の処刑は延期することになった。8/20

戦士たちの慰安に供せられる映画を事前に検査するべく、在庫のビデオを鑑賞しはじめたのだが、これがいつまで経っても終わらないので、命じられた俺たち2人は途方に暮れた。8/21

「間もなく大地震が必ずやって来るから、そん時は、まず大きな握り飯を仰山作るんだ」というておったら、その翌日に関東大震災がやって来たので、落ち目のヤマダ組が、久々に高く評価されたんよ。8/22

ほんでなあ、しばらくすると放送局に昔馴染みが避難してきたので、スタジオから「嘆きの貌」をオンエアすることができたんよ。8/23

余は少年時代の夏休みの宿題で企画構想した「毛髪湿度計」を、長じて就職した計量器メーカーで半世紀後に製品化したところ、意外な人気で売れに売れ、国内のみならず世界中で引っ張りだこになってしまった。8/24

あたいはお姉さまから頂いた新幹線のチケットを自動改札に入れたら、駅員が飛んできて、はじめは「これはフェステイバルホールの入場券だからダメダメ」というてたんやけど、ひるむことなくぐあんばってたら、とうとうとう根負けして通してくれたんで、無事東京に帰ってこれました。8/25

おらっちが投げる日は、堅守の内野がダイチョンボするとか、一番まともなリリーフが大量失点しておらっちの勝星を失くすとか、必ず災いが起きる。もう、やってられへんわい。8/26

広い倉庫の中をぶらぶら歩いているうちに、光文社の書籍が、じつは岩波書店の第3編集部で、ひそかに製作されたものであることに気づいた。長年続く出版不況で、老舗も生き残りに懸命らしいでよ。8/27

セイさんが描いた銀座のビルヂングのイラストを持って、実際に銀座に行くと、次々にそれらが具現化していくので、「あだやおろそかでスケッチしてはいけない」と、思い知らされるのだった。8/28

非常勤講師の唯一の楽しみは、その控室で、国籍やジェンダーも不明な呉越同舟のメンバーたちと知り合うことで、時折人間とは思えない輩もいるのだった。8/29

誰かから、「あんたは角丸世代!」と決めつけられたので、「それはクロカンとフランケンシュタイン、辺見庸、辻真一、中島みゆきなんかの話。おらっちは反角丸の三羽全学連シンパやった」と訂正すると、「シンパって何?」と聞き返されちまったよ。8/30

だっせえホームスパンの上着を羽織っているバアサンの傍を通り過ぎようとしたら、一瞬にしてひっくりかえされちまった。ああ、油断した、ユダンした!8/31

 

2025年9月

兵庫県も、大阪府も、基本的には維新仲間なので、お互いに仲良く談合して、今日からイシン副都心連合を立ち上げたらしいが、4月莫迦かと思って、誰も報道しなかったらしい。9/1

文化の学生が死んだ翌日、また文化の学生が死んだ。するとその翌日、また文化の学生が死んだ。するとその翌日、また文化の学生が死んだ。するとその翌日、また文化の学生が死んだ。するとその9/2

「痩せても枯れても、俺たち武士だ。平民風情に絶対負けるわけにはいかぬ」と、眦を決して戦ってはいたものの、だんだん手負いのものが増え、とうとう「負けるが勝ち」と、蜘蛛の子を散らすように、すたこら逃げ出したとさ。9/3

荷風散人の引っ越し手伝いは、おらっちを含めて全部で10名ほどだったが、みんないいやつばかりなので、引っ越し作業が終わってからも別れがたく、期せずして大宴会が始まった。9/4

我が家はミサイル発射基地の近所にあるのだが、時折敵に向かって撃ちだしたはずのミサイルの不発弾が、道端にごろごろ落っこちていたりするので怖くなる。9/5

モスクワのKGBスタッフの平均月給は20万だが、人を殺すたびに特別手当が出るので、そのボーナス頼みで、みんな仕事に精出しているらしい。9/6

今回の敵は、どうやらヤクザか、KKKか、狂暴なテロリスト集団のようだが、どっちににせよ、わいらあ仕事は仕事なので、バリケードめがけて押し寄せる彼奴等を、バースカ砲で、殺しに殺しまくっていた。9/7

オオノが白い大きな犬と一緒で青物横丁で目撃されたというので駆け付けたがいない。夜になると岡山の海産物問屋でぶらついているのがテレビに映っていたという。9/8

永年に亙ってガン研でガンの研究をしていた友人が、なんとかガンに罹らずに退職し、永年のガン研究の成果を100冊の私家版にまとめたのだが、誰も読もうとしないので、私ともう一人の友人が義理買いしたのよ。9/9

戦時下のウイーンで曖昧な生き方をしている我は、毎晩喜歌劇「こうもり」を専らクライバーの演奏で楽しんでいた。9/10

株式会社夢工場では、社員全員が見た夢をAIが自動的に記録し、その内容を毎月審査して人事考課に反映しているという。9/11

社員旅行で巴里に出かけた一行は、一人ずつ特製カメラを与えられ、町中の風景や行きかう人物を撮影してくるように厳命されていた。9/12

いつもの姿勢制御のコントローラーが言うことをきかなくなったが、どうしていいのかさっぱり分からない。9/13

隣のお兄ちゃんは海釣りが好きなようで、時折我が家におすそ分けしてくれる。今回は新鮮なイワシ。早速妻が小骨を抜いてお刺身にしたら肉がブイブイしていてとても美味しかったのよ。9/14

その赤ちゃんは誰かの真似をするように、「天上天下唯我独尊」と賜ったので、さすがのトランプも打ちのめされて参ったようだった。9/15

イケダノブオは当時高級お子様料理を作っていたのだが、ある日自分の本業はふぁっちょんだったと思い直して、それからは高級子供服ブランドの立ち上げを目指したことだった。9/16

おらっち夕方沖縄に到着したら、客室乗務員が占いしませんかというてしなだれかかてきたので、占いは大嫌いだとと叫んで睨む付けるとスゴスゴと退散してしまったよ。9/17

京からタクシーに乗って丹後の宮津でピンと出したら、ウルセイ君がしたり顔で「うるせえ!」と怒鳴ったよ。9/18

満員電車の中を容貌魁偉で頑強な体躯をした中年の酔漢が、吊革にぶら下がったまま、右に左に大揺れしながら嘔吐するので、乗客たち全員が隣の車両に逃げ出した。9/19

ういではアパレル商売をやっているつもりだったのに、中国ではスパイ行為をやっていると見做されていたようだ。もうこんな国には二度と行きたくないずら。9/20

某宗教団体から教団服を作ってくれと頼まれたので、幹部服、エリート服、その他大勢服の3つのグループに分けてデザインを考えているのだが、それらのデザインをどう変えるのかがつかめなくて往生しているところ。9/21

「大川に塩を入れたら海になる」という川柳を参考に何か作りなさい、という兼題が出たので、しばらく考えたがなーんも思い浮かばなかったので、「大海の塩を取ったら大河なり」と詠んだのよ。9/22

「コウ君そこは足場が悪いから、もう少し上の乾いたところを歩こうよ」と呼びかけたのだが、その時遅く、かの時早く、愛する我が長男は泥んこ道に足を取られて急坂をごろごろ転がって遥か麓まで転落してしまった。9/23

25、6時間戦っていたリーマン時代は、毎晩午前2時までは会社で働き、もはや電車もないので、五反田か新橋のカプセルホテルに泊まって、早朝出勤するのがいつものパターンだった。9/24

おばはんに「そごうじゃない百貨店が近所にあたよね」と訊ねたが、「知らすか」という。店から離れたことなんかないから仕方ないのだが、その癖よそで不浄を借りた時のために500円玉を包んだ落とし紙を3個いつも懐中している。9/25

交通事故に遭い、裁判の結果一生涯先方がおらっちの生活の面倒を見てくれることになったのだが、なんか一生涯おらっっちの自由が奪われたような気がして、いいのか悪いのか分からんようになっちまった。9/26

いつものように出社したら、秘密警察の連中が俺のデスク周りやパソコンを勝手に荒らしまくっている。「何すんねん!」と抗議したら、「あなたの書いた広告コピーが治安維持法に抵触する危険なものだという通報があったので緊急捜査しています」というのである。9/27

それにしても荒廃したこの大阪支店は、まるで落城した大阪城みたいだ。3階の砕けたコンクリの穴から水浸しの2階が見える。声を出して呼んでも、誰一人答える奴はいない。9/28

世界一周旅行ができる航空券をもてあそんでいるうちに、真っ二つにちょん切れてしまったが、こんなんで搭乗できるのだろうか?9/29

最初はどんな映画も面白くて試写会には喜び勇んで出かけていたのだが、そのうちにだんだん詰まらなくなり、しまいには詰まらない映画をみたり、PR会社の担当者に感想を聞かれたりするのが苦痛で苦痛で、とうとう試写会には行かなくなってしまったのよ。9/30

 

2025年10月

緑陰深い渓谷の夕べ、おらちがビーフカレーを食べていると、どこからか飛んできたミドリシジミが向かいに座っているジョセフの右指に止まったので驚いて、そのミドリシジミを僕に呉れよと言ううとジョセフがおらっちの左の人差し指に止まれせてくれた。この世のものとも思えない美しいゼフィルスよ!10/1

国立オペラでロシアのオペラをイスラエルの指揮者が振ることになったので、管弦楽団がのメンバー全員がストライキをうたので、公演は中止のやむなきに至った。10/2

最早1敗も出来ないと思うと全身が緊張の塊りと化し、コチコチになってしまったが、結局は打者に対して1球1球全力で投げこんでいくしかないのだと思い返すと、いつもの平常心を取り返すことができたのよ。10/3

次々に准将に打ち破られ、遂に主将ひとりが孤塁を守る状態になった5人組柔道勝ち抜き大会だったが、さすが我らが主将、敵の准将と主将を連破して栄冠を勝ち取ったのだった。10/4

このリーグではGⅯとは異なるコレオ・マネージャーというのがいて、野球の試合そのものよりもそれに付随する選手の振り付けを担当していた。10/5

三味線一挺を抱えて舞台に登場したその男は、哀切極まりないメロディを奏でて、超満員の聴衆たちを忽ち魅了したのであった。10/6

その女は吉原や須崎の遊郭には属さない所謂私娼だったが、淫乱とは思えぬ愛らしい面立ちとまるで処女のような可憐さと初々しさが持ち味なので、荷風散人の私は、自然と夜な夜な馴染むようになってしまった。10/7

なかなかいい鞄を自分で作って売っている後輩が、出店しているデパートから様々な迫害を受けているがどうしようかと相談されたので、もう店売りは止めてネット通販だけにしたらとアドバイスしたのよ。10/8

巷で大暴れしていた大泥棒を銀座四丁目で真昼間に発見した月光仮面は、乗ってきたオートバイから飛び降りて逮捕したので、即座にセーブポイントがついた。10/9

おらっちゲリラ。町内の電燈を壊し、街灯を壊し、常夜灯を壊すという3段階作戦を展開したが、とうとう力尽きたので、赤い褌姿で投降したのよ。10/10

多孔性金属錯体と有機金属構造体と制御性T細胞の違いと相関関係について述べよと迫られたが、いくら考えてもてんで分からんかった。10/11

就職の内定を貰った会社へ行って軽トラに寝転がっていると、ベテラン社員のナカニシさんが、「こんな青二才を取るなんて会社もどうかしてるなあ」というあが、おらっちも自分自身でそう思った。10/11

ここはどこの海岸だろう? 懐かしい故郷の海辺を去ってから早幾年。海水は私の体に触れてから猛烈な勢いで沖に去っていくのだが、その悪臭は耐え難い。私はいつの間にかどんどん腐りゆく長大なナガスクジラになっていた。10/12

バーンスタインが26夏に3回目のマーラーの交響曲全集を録音することになった。今回のオケはルツェルン祝祭管でコンマスは勿論ヘッツェル、会場は第8を除いてウィーン楽友会大ホールだそうだ。10/13

明日はいよいよマーラーの交響曲第5番のライブ録音。トランペット奏者のおらっちは超難しい冒頭の独奏で頭がいっぱいなのに、バーンスタインが自室に来いというので心配だ。きっと「明日はやっちゃいなよ」と言いながらおらっちの金玉を弄ぶに違いない。10/14

死にそうに苦しいので医者が呉れた薬を飲もうと思うのだが、2種類の内のどれを飲んだらいいのか分からないうちに時がどんどん過ぎて行く。10/15

漢字でいくか、それともアルファベトで検索するのとどっちが早いのかてんで分からないので、暇な時に試してみたら漢字の方だった。さすがは今では貴重なものとなった日本製のパソコンだ。10/16

戦場で敵を殺すとその人数に応じて国から報奨金が出るので、我も我もと貧乏人が参戦してくるが、半年も経たないうちに死んでいくのだった。10/17

おらっち今日は好調で、なんと3人もの敵を殺したのだが、彼らの武器をどう始末しようかと迷った挙句、市の指定するゴミ袋に入れて所定の場所に置いておいた。10/18

かくして余は大川を渡って蛮人共のが跋扈する辺境の地へ進軍することになったのよ。10/19

なにやらこの国には今まで見たことも聞いたこともない怪物が潜んでいるっことがじょじょに分かってきました。10/20

本番で4つのところを3つにして歌ったり、即興で下らないセリフを入れたりしたので、怒った演出家は、おらっちを即クビにしおったのよ。10/21

真夜中にキチジョウジとおぼしき駅の近所のバスターミナルに一台のバスがよろよろと到着したのだが、思いがけず大量の乗客がどっと吐き出されてきて、一群の泥のように固まってしまった。10/22

夢遊病者のように道路のど真ん中をふらふら歩いていたが、トラックに撥ねられもせずに家までたどり着いたのは、殆ど奇跡といえるだろう。10/23

おらっちは、彼にそのことを伝えると、必ずや悪い結果になると知りながら、それを彼に伝えてしまった。10/24

たった3秒で3人の打者を片付けた後、その男は立て続けに3本のホームランを打って、野球の醍醐味を世界中に伝えったのだった。10/25

青森一の豪農の主人には奇妙な性癖があって、自分が手塩にかけて育てた一番米を流通に回さず、押し入れの奥に隠して時々嘗めてみるのだった。10/26

ファシスト政権は「スパイ法」に続いて「隣人愛染法」も成立させ、全国民の相方を指定して毎週お互いの動静を上長に報告させる人民監視制度を発動したのであった。10/27

10時頃に寝たんだが、1時間ほど眠った後は眼が冴えて全然寝られないので、朝まで本を読んでいたが、いつしかまた夜になっていた。10/28

7回に0-2で負けていたので、今日はダメかと思って半ばあきらめていたら、8回に2ランが出て同点。9回裏2死満塁で暴投が出て、サヨナラ勝ちを拾ったのよ。10/29

昔々の大昔、四球王と呼ばれた老選手が代打に立って、押し出しのフォアボールを選んでくれたので、嬉しかった。10/30

ジョーン・バエズになったブロンズ新社のワカツキさんが、テレビに出てきて、新宿西口の地下は通路ではなく公共の場所だから、もとの新宿広場に戻しなさいと阿呆莫迦ベビーガールを窘めた。10/31

 

 

 

暮れに
ずいぶん長持ちしたので ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 030     hirose さんへ

さとう三千魚

 
 

ボケは
木瓜と

書きます

知らなかった
知らないことを

知らなかった

紅い
花が

咲くのか

ボケの花は
長持ちするのか

また明日咲く

 

***memo.

2026年1月5日(日)、
静岡市北街道"水曜文庫"で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第46回、第2期 30個めの即詩です.

タイトル ” 暮れにずいぶん長持ちしたので ”
好きな花 ” 木瓜(ボケ) ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

山盛り一丁 ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 029     kokoro さんへ

さとう三千魚

 
 

畑に
植えてる

アオジソ
植えてる

アオジソは
葉を味噌汁に

いれた
ことがある

花が
白い

畑に

ちいさい花が
咲いている

山盛り
食べたい

 

***memo.

2026年1月5日(日)、
静岡市北街道"水曜文庫"で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第46回、第2期 29個めの即詩です.

タイトル ” 山盛り一丁 ”
好きな花 ” アオジソの花 ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

帰室 ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 028     yuuki さんへ

さとう三千魚

 
 

帰った

やっと
帰ってきた

世界では
戦闘が

つづいている

部屋には
なにもないが

飾ろう

百合を
飾ろう

懐かしい匂い
のする俺の

百合を
飾ろう

 

***memo.

2026年1月5日(日)、
静岡市北街道"水曜文庫"で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第46回、第2期 28個めの即詩です.

タイトル ” 帰室 ”
好きな花 ” 百合 ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

終わりなき世のめでたさを

 

工藤冬里

 
 

指まで卸す青首の
あなたもそばにいて欲しい
薄れる民俗強まるトラウマあの山の
暗い巨石のスポット詣で
不貞腐れるにもほどがある
白髪染めした元コンフォルミストが中核となって
ヒトのリーダーさえいない高い知事率
いつまで保ち続ける
出産間近なのはどの羊
目を光らす内閣府に無い楽譜
一手に引き受け大きな力で動かす
どんな闘いをしているかがよく分かるようになる収監紙
受刑者たちが寝るためのスペースの幅は40センチから60センチしかありません
そのため横向きでしか寝られず寝返りを打つこともままなりません
年の始めの例(ためし)とて終わりなき世のめでたさを
指まで卸す青首の
あなたがそばにいて欲しい
マグネシウムを呑んで寝る

 

 

 

#poetry #rock musician

あとずさる **

 

さとう三千魚

 
 

おどろいた

猫は
おどろいて

眼を
見開いてた

あとずさる
いつか

消えて
しまいたい

水底の
水草の揺れる

水底に
眠りたい

 

・・・

 

** この詩は、
2025年12月26日 金曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第24回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩に加筆したものです。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

映画『トリステス』のための言葉の設計図

 

村岡由梨

 
 

2024年9月に鼻腔内悪性リンパ腫と診断された愛猫クルミ。
まるで蒸かしたてのあんまんみたいに、
温かくて甘い死を内包している猫だ。

癌の再発に怯えて、治療費もかさんで
綺麗事では生きてゆけない現実に身体が震えたけれど、
クルミが一日でも元気に生きられるよう、
出来ることは何でもしようと、家族で決めた。

胃ろうをして、食べ方を忘れてしまったクルミに
野々歩さんが「こうやるんだよ」と煮干しを噛んでみせる。
開け放した窓からやわらかい風が吹いているのを
気持ちよさそうに全身で受け取るクルミ。
大好きな野々歩さんに抱っこされて、
上下する胸の運動に目を細めるクルミ。
「まだ6歳なのに」
私たちがクルミのことを思って泣いていると、
「どうしたの?」という顔で見てくる
いじらしいクルミ。
お気に入りのエビのおもちゃを咥えて、
一生懸命に歩くクルミ。

最近はトイレでおしっこやうんちをした時や、
お腹が空いた時、ミーミーと鳴いて教えてくれる。
私たちが家を空けている時、
ひとりでミーミー鳴いているところを想像すると、胸が詰まる。

クルミ クルミ クルミ
何て脆くて、小さくて、かわいいクルミ。

失いたくない。耐えられない。
それなのに、いつか『その日』はやってくる。

今度雪が降ったら、
小さな雪だるまを作って、一緒に写真を撮ろうね
そう約束をした。

数年経って、クルミのことを
泣かずに思い出すことが出来るようになってしまうんだろうか。
記憶が薄れてしまうのが、無性にこわい。
『時間』を、磔にして標本にして壊したい。

やがて溶けて無くなる雪のように、逃げるなよ。

 

村岡由梨さんへ
私は、鈴木由梨、あなたの本名です。
結婚して、鈴木姓になりました。
従業員が5人しかいない訪問介護の会社を運営して生計を立てています。
映画を作ったり、詩を書くだけでは生活できません。
かと言って、私に会社を経営する才があるはずもなく、
会社は赤字続きです。
母に言われるがままに介護福祉士の資格を取りました。
「素晴らしい仕事ですね」と言ってくれる人たちもいます。
素晴らしい出会いもありました。
いつも「今日は空が綺麗よ」と教えてくれる方がいて、
二人で並んで座って空を見ることもありました。
職業に貴賤は無いということも、わかっています。
けれど、ごめんなさい。
介護の仕事に誇りを持つことが、できません。

今年の夏は特に辛かった。
大粒の汗を流しながら、利用者の御宅で風呂掃除をしていて、
排水口に便が転がっているのを見た時。
脱衣所にテラテラ光る大きなゴキブリを見た時。
声が出そうになるのを堪えて必死に掃除を続けました。
排泄介助の仕事を終え、
豪雨の中ポンチョを着て自転車で帰宅したら、
娘が丁度出かける所で、おしゃれをしていて、
びしょびしょになった自分を何だか恥ずかしく思いました。

映像作家で詩人の「村岡由梨」と、
ホームヘルパーの「鈴木由梨」が交差することは
ほとんどありません。
極々稀に両方の私たちを知る人もいますが、
同一人物だと、なかなか信じられないようです。

移動は基本的に自転車です。
削られた自尊心を埋めるように、
スマホで光を撮り集めます。

昼、夕方、夜の空。
太陽、月、金星。
行き帰りに通る陸橋から見える、車のヘッドライト。

カメラを向けていて、涙がこぼれる時もあります。

ある日、昼間のひどい暑さのせいで、
大きな葉っぱがカラカラになって落ちていて、
私は、わざとその上を自転車で通りました。
葉っぱがカサッと破れる音が聞きたくなったのです。
帰りにまた同じ葉っぱがあったので、
もう一度自転車で轢き殺しました。
カサッと良い音がして、葉はボロボロになりました。
 

行き先がわかっているのに、
自転車を違う方向へ走らせようとしている私。

私たちが本当に行きたいところは、どこなのでしょうか

 

 

けれど、私はこのままでは終われない。
白く激しく燃えるような
辺りいっぺんを激しく焼き尽くすような
作品を作るまでは。

出し尽くす。焼き尽くす。
自分の命を最後の一滴まで絞りだす。
私は、ひとりの表現者として生き切りたいのだ。

 

娘たちが蝶になる夢を見た。
懸命に飛んで家に辿り着いたのに、
それが娘たちだということに
私も野々歩さんも気が付かない。
あまりにも美しい蝶だったから、
あっという間に捕まえて
磔にして標本にして眺めて殺した。

不思議だね。
臍の緒を切った瞬間から
私たちは別々の人間になって
心も身体も離れていく一方なのに、
あなたたちの痛みや悲しみは
変わらず私の魂に突き刺さる。
紙で手を切ったように、キーンと痛む。

 

近頃 私 何かが おかしい
何者かに駆り立てられて
あるはずの階段を踏み外す不穏

世界は正常で、異常なのは私なのだと
世界は正常で、異常なのは私なのだと

もうすぐ決壊する
自分の手の指の皮を噛み千切って食べたら血が滲んだ
こうして血の味のする日常の些細な綻びから
世界は壊れていく

 

その日は、あまりにも悲しく辛いことが多過ぎた。
真っ暗な部屋でうずくまり、
細い身体を捩らせて声を上げて泣く花の姿を見て、
かける言葉も見つからずうなだれる、
機能不全の母親。私。
「パパは怒鳴るし、物に当たるし、
猫の首をへし折りそうって言うし、
ママは一緒に死のうって言う」
「何で私を産んだの」
「お願いだから私を殺してよ!!」
暗闇の中、花の大粒の涙が銀色に鈍く光るのを見た。

 

およそひと月前、私たちは幸せだった。
花と私、二人で新宿のジョナサンで
バナナパフェをシェアして食べたのだった。
花は細長いフォークで、私は細長いスプーンで。
一番最初に、さしてあるプリッツを1本ずつ食べた。
「プリッツおいしいね」
「うん」
「コーヒーゼリー、ちょっと苦いけどねぇ」
そう言いながら、笑っていた私たち。

ジョナサンを出て、
駅までブラブラ歩いた。
よく晴れた日だった。たくさんの若い人たちが行き交っていた。
私が「ママこの前、イキって
スタバでマンゴーのフラペチーノ頼んじゃったよ」
と言うと、花は笑って
「ママ抹茶苦手なんだっけ?スタバでは
『抹茶クリームフラペチーノのホワイトモカシロップ変更』
がおすすめだよ」
と言うので、私は笑って言った。
「それ、詩に書きたいから送ってよ」
すぐに花がLINEで送ってくれた。

『抹茶クリームフラペチーノのホワイトモカシロップ変更』

家では、残っている時間を惜しむように寄り添いあって、
何本も映画を観た。
ハッピーエンドの映画を観て、
花は、目を拭っていた。
「ハッピーエンドの映画だけ、観ていたいよね」
そう私が言うと、
花は小さく「うん」と頷いた。

 

それからおよそひと月ほど経って、
花がひとり、死のうとした。
身に覚えのある痛みだった。苦しみだった。
でも私は、もはや10代の少女ではないのだ。
母親なのだ。
怒ればいいのか。泣けばいいのか。
わからなかった。
わからなかったけれど、
ただ花を失うのがとてつもなく怖かった。

眠、私、野々歩さん
私たちが1階にいれば、花は2階へ行く。
私たちが2階へ行けば、花は1階へ行く。

それなのに花は、
帰宅時、家の鍵がかかっていると
ものすごく怒る。
まるで『家』が自分を拒絶していると感じるのか、
ものすごく怒る。

もうそろそろ『鍵』を渡す時なのか。
互いの不在を確かめ合う鍵を。
互いを『信じる』証として、銀色に鈍く光る鍵を。

 

『また一緒にパフェ食べようね』

そうメッセージを送ろうとして、
送れない私がいる。この期に及んで
傷つけたくないのか
傷つきたくないのか

 

野々歩さん「もうそろそろ自由にしてやれよ」

 

私「誰か私たちを優しく軌道修正して下さい」

 

花「勝手にセックスして、勝手に産んでんじゃねぇよ」

 
 
 

あの日、暗闇の中、花の大粒の涙が銀色に鈍く光るのを見た。
私、偽善者。

 
 
 

(2025年10月 花17歳、私43歳)

 

2025年11月 花18歳、私44歳。

花がインフルエンザにかかって、今日までが外出自粛期間だった。
一昨日は、大きなイワシ団子と豆腐揚げ、生姜入りのさつま揚げと大根のおでんを作ったらおかわりをしてくれた。昨日は、眠と花と私で、アサイーボールをUberした。私は初めてのアサイーボール。花が「はちみつをいっぱいかけるとおいしいよ」と言うのでそうしてみたら、とてもおいしかった。高いから滅多に食べられないけれど、次はナッツ類を多めにしてみようと思う。明けて今日、花は「友達の家でクッキー作るんだ」と言って出かけて行った。帰ってきて、「ママこれ見て」と耳たぶを見せてくれた。先月の誕生日に、野々歩さんと私と眠からプレゼントしたピアスをしていた。ピアスの銀色の鈍い光が涙でぼやけた。

「うれしい」
「ありがとう」
私たちの空白にある厄介なドア
を隔てて交わされる、
ぎこちない言葉たち。
一人一人、鍵を手にして、
外界へ飛び立っていく。いつか
いつでも帰ってきていいんだよ、と
互いを信じて

 

「ハッピーエンドの映画だけ、観ていたいよね」

そう、自由に。
ただ、自由に。

幸せな記憶 悲しい記憶
書いた瞬間に過去となる
詩とは記憶の美しさだ
一筋の月の光だ

私も、野々歩さんも、眠も、花も
クルミも
今を生きている
今を、ただ懸命に生きていた

 

 

 

シクラメンの香り ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 027     kenta さんへ

さとう三千魚

 
 

寒い
朝に

庭に咲いていた

ピンクに
咲いていた

シクラメン

匂いを
嗅ぐことが

ない

いない母が
ピンクの

エプロンを着てた

 

***memo.

2025年12月13日(土)、
静岡市健康文化交流館「来・て・こ」の「き・て・こ祭」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第45回、第2期 27個めの即詩です.

タイトル ” シクラメンの香り ”
好きな花 ” シクラメン ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;