反歌

 

工藤冬里

 
 

河南を与える
ひとつ豫州は松山の
二人に子供はいなかった
今では六ヶ月
匂いさえダメだった
二日酔いから推察するしかない
トランスの子らに約束
譲歩せよ
丁髷の額が白い陶器、鷺の白
夫はminer、アメジストを掘り
より貴重でさえあるものとして出てくる
金属団地の移民に天からパンがシラスの白
自分の国民を憎むようにと教えたベレア人会

調和の取れた色彩
農薬塗れの幸福塗れのな
澱粉主体の完全食のな
紛い物と被った法とな
師匠の汚れのな
布を巻いた水鉄砲におんなじ薬剤
転校したら教科書が替わっていて
特攻を待っていたら別の神の風が吹いて
引換券を飛ばした
岩肌に柔らかい部分があると又聞きした宮司
上からの光で瞼と頬骨が白い
声に合わせて身体を密着させる蜈蚣ニンゲン
調和などしていないが種は一致している
目を覚ませ!何故?
脳の指示に応えていないヒトであり続ける

棒状のがしっとした四角い柱が見える
ロ・ルハマとロ・アミがよさこいを踊っている
達しなかった夢が反歌として現れる
要約できない人生は反歌として経験される

 

 

 

#poetry #rock musician

母体決裂

 

道 ケージ

 

母体の骨片が頭蓋の隙間に残るらしくそれが石灰沈着する。隆起した場合は角化。陥没した場合は脳を圧迫。脳溢血を誘発する。胎児の脳視床下部には恐竜期の角の神経系が見て取れるらしいがすぐに消失するので確かめる恩恵に浴したものはまだおらず、それを原発因とする説もあるが疑わしい。午後にツノが生えそうなので女医に相談する。教え子なので気さくに「痛かゆくてなんかある気がする」。なんとも言いようのない笑みで撫で回す。「まぁ一応、CT撮りましょう」。音無しの被爆か。「母体決裂症ですね。病名が定まるとあとは楽です。マニュアルが確立してます。手術もそう難しくはありませんし。ゴミ取るのと同じですから。癒着もないのが普通です。白く輝いているから見つけるのも簡単です。剥がして欲しいというように咲いています」。咲くは変だろう。「“ハナサケ”といいます。胎盤とは違うから」。また激烈な名前をつけたね。「どっちが? 話せば長いですよ。パルシファル建設は知ってますか?」 誰にもあんのかな。「男性に多いという統計はあります。母親と一緒にお風呂に入った人に有意な傾向があるという論文ありますが怪しいもんです」。間男に角が生えるというじゃんか。あれとは?「寝取られた方じゃないですか? コキュといいます。」おぉ、アンダルシアの闘牛。角あるものは殺されろと。「軒端で月を見ていた女が歌を詠みます。それを聞いた男は言いよる秋の萩」。あまりわからない。「芒が鬼の毛であることはご存知?」知らんな。すすきが原しがらみ果つる黒鹿の。数が多いな。「ため息の数です。だから垂れている。母との決裂に鬼が関わっていることは昔から知られています。探しあぐねた母側から見ても別離ですから。桜や梯子に登ります」。手術はいつ? 探しているわけでない。弱虫というより人でなしに角が生えるようです。

 

 

 

尻子玉

 

佐々木 眞

 
 

極楽の昼下がり、お釈迦様は長い、長いお昼寝から覚めて、遥か下方の地上を眺めていると、おりしもハロウィンで賑わう、渋谷のスクランブル交差点が見えました。

と、ふとあることを思いついたお釈迦様は、女郎蜘蛛の杜子春を呼びました。

「これ杜子春や、あのスクランブル交差点全体を覆うような、大きな、大きな巣をかけなさい」

「はい」

と答えた杜子春が、お釈迦様の仰せの通りに、天上から大きな、大きな蜘蛛の巣をふんわりと投げかけましたが、せわしなく交差点を行き来する人々の目には、もちろん見えません。

さうして、この見えない蜘蛛の巣のベールの下を通る人は、男も、女も、男でも女でもない人たちも、大人も、子供も、みんな揃って尻子玉を引っこ抜かれてしまいました。

とさ。