Claudio Parentela
よその子がいた
コミヤミヤ・こかずとんと同じ
生後5ヶ月のよその子だ
これからBCGの注射を打つ
待合室に2人いた
おしゃぶりぶりぶり固く目閉じ瞑想の女の子
壁の白に何か探しもの首上向きキョロキョロの男の子
抱っこ紐に揺すられ揺すられ
到着したばかりのコミヤミヤとこかずとんも加わって
揺すられ揺すられ揺すられ揺すられ
4つの抱っこ紐
コミヤミヤとこかずとん、今日は静かだ
元々抱っこ紐大好きのコミヤミヤは気持ち良さそうだし
抱っこ紐がそれ程好きでないこかずとんも足バタバタしない
お、女の子の名前が呼ばれた
診察室に入って
ウギャーウギャッギャッ
ああ、やっぱ泣いたか
注射は痛いってより怖いもんね
待合室に戻って
女の子一度ウェッと泣く
でもおかあさんがおしゃぶり咥えさせると
ぶりぶりぶり
すぐ落ち着いて
目閉じ瞑想
そこへギャーオウッ、ギャーオウッ
続いて診察室に入った男の子の声だ
やっぱり怖いよねえ
針が迫ってくるんだもんねえ
ところが待合室に戻ってきた途端
ついさっきのように
キョーロキョロ
白い壁に上目遣いで探しもの
何か飛んでるのかな
ぼくには見えないものが壁の白にさまよってるのか
さあ、呼ばれました
コミヤミヤとこかずとん
しずかーに診察室に入る
しっかりした顔になってきましたね、と先生
左腕まくって
ピッ
コミヤミヤ一瞬ギャッと泣いたけど
一瞬で観音様の顔に戻る
大好きな抱っこ紐の中へ
続いてこかずとん
苺状血管腫良くなってきたね、と頭髪かき分けてまず一言
左腕まくって
ピッ
ウヒッて顔一瞬したけど
一瞬でおむすび様の顔に戻る
抱っこ紐に入っても足バタバタさせず
待合室に戻ると
女の子も男の子も既に帰っていて
コミヤミヤとこかずとん
2つの抱っこ紐
揺すられ揺すられ
あ、眠っちゃった
生後5カ月のみんな
注射が一大事じゃなくなってきた
ちょっと泣いたら
もうおしまい、大丈夫
ウチの子
よその子
5カ月の人生経験が
みんなを強くさせた
5カ月
短くない
全然短くないんだよ
こういう女は石で打ち殺せ
あのひとは
身をかがめて
指で地面に何か書いておられた
「ひとりで書くのは
あかしではないだろう」
死んでしまったやつと
いつもふたりで
「おれたちは法のあかしをしている」
奴隷はすぐに
町へと出て行くだろう
だがわたしは子としてここにいるのだ
女と死んだやつはここにいるか
あなたたちは女の下からでてきたか
女に石を投げ続けたやつはいるか
どうして
この話がわからないのか
そう地面に
指で
ふしぎな不等式を書いておられる
日暮れてイエス十二弟子とともに往き、みな席に就きて食するとき言ひ給ふ。
『まことに汝らに告ぐ、我と共に食する汝らの中の一人、われを賣らん』
弟子たち憂ひて、一人一人『われなるか』と言ひ出でしに、イエス言ひ給ふ。
『十二のうちの一人にて、我と共にパンを鉢に浸す者は夫なり。
實に人の子は、己に就きて録されたる如く、逝くなり。
然れど、人の子を賣る者は、禍害なるかな。
その人は生まれざりし方よかりしものを』
――1968年改譯新約聖書「マルコ傳」第14章第17-22節
追記
写真は2025年11月24日まで東京都現代美術館にて開催中の「日常のコレオ」展に出品された佐々木健の油彩画《ゲバ棒、杖、もの派の現象学、または男性性のロールモデルについてのペインティング》である。