notice 気がつく

 

こだまは
熱海を

過ぎた
ブラームスの

6つのピアノ曲の

第2曲を
くりかえし

聴いてる

休みのあいだに
戦争の映像をみた

わたしと
同じ

ヒトビトが
死んだ

世間のために
無意味に死んだ

たくさん
たくさん

たくさん

死んでいった
たくさん

 

 

 

八月の歌

 

佐々木 眞

 

 

いやさか、いやさか
葉月になれば、
ものみなすべてが、帰ってくる。
みんな、みんな、帰ってくる。

朝から高らかに鳴き誇るのは、クマゼミ、ミンミン、アブラゼミ
負けじと声を合わせるのは、ニイニイ、ヒグラシ、ツクツクボウシ
みんな、みんな、帰ってきたんだ。
去年のやつらが、帰ってきたんだ。

滑川には毎度お馴染みのカモのカップルに加えて、
大亀のドン太と息子のドン太郎、
久しぶりに青鷺のザミュエルも姿を見せて
みんな、みんな、ブルームーンを見上げています。

いやさか、いやさか
葉月になれば、
ものみなすべてが、帰ってくる。
みんな、みんな、帰ってくる。

八月二日の夜七時
三つの連続台風で由比ヶ浜に流された、と諦めていたら
オオウナギのウナジロウが、帰ってきたんだ。
懐かしい故郷の川に、帰ってきたんだ。

「おいウナジロウ、小町の鰻獲り名人の爺さんの手から逃れて、よく戻ってきたな」
と声を掛けると、
天然ウナギのウナジロウは、夜の滑川でくねくね、くねくね泳ぎながら、
いつものように軽やかにジャンプしてみせたんだ。

いやさか、いやさか
葉月になれば、
ものみなすべてが、帰ってくる。
みんな、みんな、帰ってくる。

もうすぐお盆
耕君の弟の健ちゃんも、
久しぶりにおうちに、帰ってくるでしょう。
亡くなったおじいちゃんやおばあちゃんも、
手に手をとって、帰ってくることでしょう。

いやさか、いやさか
葉月になれば、
ものみなすべてが、帰ってくる。
みんな、みんな、帰ってくる。

 

 

 

季節は菊の祭壇

 

爽生ハム

 

 

線路は続きがち。
昔はあんなことも、
つい最近の昔もこんなこと。

野鳩を捕まえようとするフォルムを子供がよくする。
それはしあわせだった
何度も足を運び、
律義なしあわせだった
のは知っている。
追いかけ回す羽の生えた点滅でした。

中身はヌイグルミ
洗濯の難しいサイコ
不安はたやすくたまる。

何もでてこない。
最近、なんか逃避行かな。
あきらめて、
最初から口紅燃やして、
チャリティで愛ふるまう砂糖料理のよう
たまに不味いぐらいだったのが、
今じゃいつも不味い。

いい子になっちゃったのかな。
口元を汚すことなく
聞き手にまわる言葉じゃ

反転した言葉のほうが、まだ信じられる。
線路も折れるといいな
こんなに続くはずがない、
どこかの終わりが折れて戻ってきたんだろう。

ここの女王、それ私。

チョコレート浸る茶色い鏡ごし
嗚呼、行いが悪い

 

 

 

タウン

 

長田典子

 

 

みずえのぐ、が
にじんで
おもわぬ
ほうこうに
はみでてしまうように
わたしは
はみだしてしまう
はみだしてしまうのだ

片道切符で
飛行機に乗った
はみだしていった
窓の景色は
うすずみいろ、から
にじんだ
まーまれーど、
にかわり
アメリカ大陸に
すいよせられていく

はみだしていった

夜中
タクシーを降りると
マンハッタンのはずれのアルファベットタウンの一角は
だれもいなくて
こわかった
火事で焼け落ちたままの
びる、のはしら
ゆき、におおわれた
みしらぬ
よる、のけはい

こわかった

飛行機は悪天候のため6時間遅延し
おおゆき、に見舞われた
マンハッタンに
タクシーで向かった

こわかった
けど

案内人の後をついて
仮住まいの
アパートの階段を昇る
重いスーツケースの角が
黒い鉄の階段にぶつかるたびに
ガツン!ガツン!
と悲鳴を上げた

4階のつきあたりの左側
ドアノブをガチャガチャやっていると
向かいの部屋の若い男がドアから顔だけ出してちらっとこっちを見た
男の背後の部屋の中は暗赤色だった
赤いライトが灯っていた

こわかった
けど
はみだしてしまう
はみだしていった

赤い部屋の男は
いつも、一日中部屋にいて
仮住まいの部屋は
壁が薄くて隣の声が筒抜け
ときどき女や男が来ては
ひそひそ話しこんでいる

薄い壁を挟んで
わたしたちは
どこからも隔たり
はみだしていた
窓の外は壁ばかりで
何も見えない部屋で

はみだしていた

あさ
外出しようとして
ドアに鍵をかけようとしたら
鍵穴がくるくる回ってしまい
かからない
なんど
やりなおしても
かからない
くるくる回しているうちに
ふいに
カチャッ、と落ち着く場所がある
鍵を抜いて
ドアノブを回す
ドアを引いたり押したりして
ようやく
鍵がかかったとわかる

ふしぎな
鍵穴
はみだした
鍵穴

外に出ると
ゆき、はさらに
ふかく、つもっていて
とうけつ
していない
ゆき、の
ぬかるみを
えらんで
歩く

パキスタン人の店に入り
さんざん迷って
パンとミルクとジャムとフルーツジュースを買う

ふしぎな
パキスタン人の店
見たことのない文字と見たことのある文字が入り混じっていた

ここでは
タウンでは
はみだしたものばかりが
身を
かたちを
よせあっているよう

茶色くて粗末な紙袋を抱えて
アパートに向かうと
すでに、さっきの道はぜんめん
とうけつ
ゆき、の
ぬかるみを見つけながら
そろそろと歩く

かたあしずつ
つっこみながら
ふしぎな
鍵穴
について考える

ゆき、の
ぬかるみ

タウン

わたしに
せいあい、の
かんけいを
えらばせる
ゆき、の
ぬかるみ

くるくる回る鍵穴は
鍵を
タウンの
ゆびさきを
えらばせる
ゆき、の
ぬかるみ

なまなましい
せいえき

せんたくのり
のようで
せんたくのりがかわいたら
わたしと
タウンは
もうはなれない

もう
はなれない

はみだして
はなれない

アルファベットタウンと……
アルファベットタウンで……

ぬかるむ……
ぬかるめば……
ぬかるむとき……
ぬかるむであろう………

タウン。