ファとラは羽虫の囁き

 

一条美由紀

 
 


<ある殺人者のポエム>
小さな箱の中から覗き見てるような
自分と無関係に感じる世間
他人ごとのような僕の身体は
冷えた炎を放っていた
君の見開いた目に熱く流れる血の映像が浮かぶ
ピクピク動くデコネイルがとても愛おしい
甘ったるい歌詞を切り刻み
ナイフを舐めた時に走る絶頂感を
今君に教えたい

 


すべてを話せど足らず
すべてを聞けどわからず
捨てたものを思い出して
また捨てる
複雑さはいつまでも簡易にならない

 


昨日の北の空は
波立っていた
私は彼方までは泳げなかった
ただ恨めしく仰ぎ見て嫉妬するだけだった
人は叶えられないものほど
より強く望み
死してさらに肉体に求める

 

 

 

自分ファースト:人類ファースト:地球ファースト

 

一条美由紀

 
 


やる気だけはあったの
ショウガは萎びて
キュウリは溶けた
本はオブジェとなり
録画はたまる
引き出しの中にねむってるのはパスポート
やる気だけはあったの

 


スズナリの柿に守られし荒屋の
  まとい遊べる生きすだま

 


大きなロゴを身につけて
曖昧な自尊心を身に纏う
社会で生き抜くために ハッタリも必要
でも見えてくる真理に必要なものは
自分の中で芽吹く素朴な喜びだけ