「はなとゆめ」16 おもちゃではない

蝉が鳴きはじめました
窓の外を
クロアゲハがゆらゆらと飛んでいきました燕たちは
大きな曲線をひいて飛んでいます

土手を

朝の散歩のヒトたちが歩いています
たくさん歩いていきます

青空の下に
西の山が青緑に霞んでいます

きのうの夕方
モコと散歩したときにみた白い雲が忘れられません
二度とあの雲と会うことはないと思います

すこしピンク色に輝いていました

光っていました

このまえの夜に新丸子のスーパーで買い物をしていたとき
桑原くんから電話がありました

桑原くんはぼくの友人のひきこもりの画家です

桑原くんは
電話のむこうで語りました

ひかりなんだよね
むずかしいけどひかりなんだよ

桑原くんは電話のむこうで語りました

うまくいえませんがわたしもそれしかないと思いました

おもちゃではありません

おもちゃに見えるかもしれませんが
おもちゃではありません

蝉も
クロアゲハも
燕たちも
朝の散歩のヒトたちも
西の青緑に霞んだ山も
昨日の夕方の空の白い雲も

おもちゃではありません
おもちゃではありません

 

 

「はなとゆめ」15  小さな子

夏の
太陽の下に道があり

白い道が
あり

あるいていきました

山の斜面に

ヤマユリが咲いていました
ヤマユリは白く咲いていました

白い雲が

流れていくのを
見て

いました

ゆっくりと流れていくのを見て
いました

小さな子はわたし
小さな子はあなた

見ていました

燕たちが大きな曲線をひいて飛ぶのを
見ていました

魚たちが光の中で遊びながら泳ぐのを見ていました
オニヤンマがゆるゆると風の中を通り過ぎるのを見ていました
雲がゆっくりと流れておそろしく盛りあがるのを見ていました

見ていました

小さな子は見ていました
小さな子は世界の始まりを見ていました

小さな子は世界の終わりを見ていました

小さな子はわたし
小さな子はあなた

ゆっくりと流れていくのを見ていました
世界の始まりと終わりを見ていました

 

 

kiss キスする

海辺の公園で
鳥の声をきいてモコとあるいた

潮騒がきこえていた
海はうねっていた

ソファーに横になり
窓からのひかりをみていた

モコはからだのうえにのりわたしに
キスした

小さな舌でわたしの唇をなめた

モコ
モコ
モコ
モコ

窓からひかりがさしていた

 

 

ride 乗る

新丸子から

東横線で明治神宮前にでて
千代田線で

代々木上原でおりたのだそれから小田急線で新宿に出て

新宿から山手線で
渋谷にいき東横線で新丸子についたのだもう30年も経って
ねじめさんや
来栖くん
福島さんわたしはわたしの別人になれるほどに生きてしまっている

about  およそ

鳥の声は
きこえていた

雪は溶けていた

林のなかにカタクリの花は咲いていた

およそ
前世の記憶はない

姉の
やさしい俤が空をあかく染めていた

この世の終わりを生きるしかない

この世の
果てを生きるしかない

裸になって歩いていくしかない

 

 

record 記録する

両国の
居酒屋で荒井君とのんだ

店のまんなかが土俵になっている
まんなかに空白がある

荒井君はニューヨークから帰ったばかりだ

しゃべりすぎるんだよ
必要以上に抱擁するんだよ

スペイン系のひとびとについて
荒井君は語った

ぼうっとしてきいていた