新縦型物語

 

工藤冬里

 
 

大きな物語も小さな物語もベクレもヘタレもワクもヤクも
転生した竜や清掃員のフリした金持ちの新縦型物語のアドレナリン分泌に如かない
大なる者も少なる者も
マッチ強迫とジェノサイドゲームアプリのドーパミン過剰となって
思い出した鮎川さんのこと
スーパーマリオをやりながら死んだ抒情詩

 

 

 

#poetry #rock musician

そこにいた **

 

さとう三千魚

 
 

どこにも
いなかった

テーブルには
緑茶のグラスがあった

台湾みやげの
お菓子が皿に盛られていた

しばらく前には
いたんだとという

白と黒の猫は撫でられてもいた

という
どこにもいない

 

・・・

 

** この詩は、
2025年9月26日 金曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第21回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

こんなふうに

 

辻 和人

 
 

こんなふうに
コミヤミヤとこかずとんがそろって
両手バンザイのカッコで
すぅっすぅっお昼寝の波に入っていくとね
ほっとして
やがていろんな雑念が浮かんでくる
あ、ヤなこと浮かんできた
友人と子供2人で暮らしていた母親が
生後5カ月の赤ちゃんを置き去りにしたまま数日外泊して
友人も世話しなくなって
赤ちゃん餓死しちゃった
数年前に起きた事件だ
詳しくは知らない
ニュースを知った頃は赤ちゃんかわいそうだなとしか思わなかったけれど
こんなふうに
すぅっすぅっお腹波打ってるコミヤミヤとこかずとん眺めていると
ズキッとくる
恐ろしいただ恐ろしい
お父さんはどうした?、2歳の長男は大丈夫?、友人って誰?
謎が多い事件だけど
5カ月の赤ちゃんが
お腹が空いてお腹が空いて
空いてるという感覚もなくなって
ぎゃおーバタバタしてたのがだんだん静かになって
ふうっ、消える
「ごみが散乱した悪臭が漂う部屋」*
こんなふうに
すぅっすぅっなんて二度とできない
直接手は下さない
置き去りにする時間と
置き去りにされた時間は
同時に流れていた
置き去りにする方は
赤ちゃんのことは頭のどっかに引っかかってたけど
引っかけたまま
別のことしてた
それはその人にとって
引っかけたことより何かしら楽しいことだったのかもしれない
その人には引っかけたままにしかできなかった
何らかの理由があったんだ
置き去りにされた方は
言葉もなく
ただただ干からびていく苦しみを味わって
干からびていった
飢えというより乾きだろうな
苦し紛れに
ゴミの中を這い回るくらいのことはしただろうな
またズキッとくる
どっちにしても
楽しかったと苦しかった、が
同時に流れたんだ
すぅっすぅっが流れているように
流れた

その時だ
コミヤミヤがころっ、ちょっと遅れてこかずとんがころっ
うつ伏せになったぞ
2人とももう自在に寝返りが打てるんだ
5カ月ってそういう時期
向かい合わせに顔を横に向けて
背中すぅっすぅっ波打ってる
頬っぺまんまる、お尻まんまる
お昼寝前に飲んだミルクが体じゅうを巡って
すぅっすぅっ波打ってる
この先、どんな風に波打っていくのかな
ずぅっと見守ることができたらいいな
コミヤミヤの指の先がぴくっとして
こかずとんの首がぷるっと揺れる
こんなふうに
こんなふうに
ずぅっとすぅっと
見守り続けられたらいいな

 

*地裁の判決理由より

 

 

 

帽子

 

塔島ひろみ

 
 

黄色い帽子たちが迫ってくる
背の順にならんで石をけり 傘をふりまわし
ゴミを蹴散らし 捨て猫を踏み
竹をなぎたおし 看板をぶっとばし
おならをし
通り過ぎていった橋のたもとに
交通誘導員の死骸がある
大きな穴があいていた
私は うっすら見える山を見ていた
土手の向こうに
京成が走る
黄色い帽子たちは何しろこれから
戦争にいくのだ
零戦に乗るのだ
一番背が低い帽子の
背中だけ見え
それから吸い込まれるみたいに
見えなくなった