深夜に
姉から
電話があった
母に代わるから
声を
かけて
あげて
姉は電話のむこうで
言った
もうすぐ
帰るから少し待って
もし
待てなかったら
もう
休んでもいいよ
そう
わたしは母に言った
ヒトはいつか湖になれるかもしれない
深夜に
姉から
電話があった
母に代わるから
声を
かけて
あげて
姉は電話のむこうで
言った
もうすぐ
帰るから少し待って
もし
待てなかったら
もう
休んでもいいよ
そう
わたしは母に言った
ヒトはいつか湖になれるかもしれない
海をみた
きのうも
きょうも
海をみた
きのうもきょうも
モコと
海が光るのを
みた
綺麗さ
綺麗だったさ
きのう
浜辺の砂利のなかに
子猫が
捨てられてた
弱ってた
もう
ふらふらで
動かなかった
綺麗だ
此の世は
綺麗だ
四谷で
鐘の音を
聴かなかった
秋田から
帰って
教会の鐘の音を
聴いていない
姉から電話があり
秋田に
帰ったのだった
母は
人工呼吸器で
胸を上下させていた
わたしには
与えるものが何もない
何もないことを母に
与える
鐘の音を待つ
夕方には
モコと散歩した
いつも同じ道なので
モコは
道を憶えていて
草花と出会い
道草する
この休みには
何度
佐々木さんから教えてもらった
リヒテルを聴いたか
こころの
底に
言葉でないものたちの影が過ぎてく
わたしは
誕生を忘れていた
朝には
モコに
起こされて
階下におろして
庭で
おしっこさせた
モコは
しゃがんで
上目遣いに
わたしを見上げてた
モコ
モコ
リヒテルの
モーツァルト20番の第2楽章を繰り返し
聴いたね
景色だけが流れていた
息を吐き
息を吸った
細く
白い
首が
綺麗だな
そう
思うことが
ある
あった
どうなんだろう
女のヒトの
細く
白い首をみて
うなじ
みて
綺麗だ
なんて
そんな通俗的なことを
思う
いま日本橋の公園で鳩たちに
囲まれてしまった
鳩たちよりも
鶴の首は細くて白い
姉と
母とが待つ
西馬音内に向かった
こまちで
向かった
吹雪いてた
昨日から降りはじめたのだと
義兄は
笑った
姉のむせぶ声を聞いて
飛び乗ったのだった
姉が微笑んだ
母は
人工呼吸器で胸を上下させていた
姉も母も
春を待つ心を持つ
浅草橋で
飲んで
駒形の
荒井くんの
アパートに泊まったのか
駒形でも
雀は
鳴いた
朝には
桑原正彦の少女が
佇ってた
佇つものよ
佇ち尽くすものよ
ラ・モンテ・ヤングの音の底にも
少女はいた
いない少女よ
葉書に
花の切手を貼っていた
雀
なのかな
ハクセキレイ
かな
はじめて鳴いた
今朝
チチッ
といった
台所でスープの煮える音がした
いまはもう
満員の
電車のなかにいる
悠治さんの
インベンションと
シンフォニアを聴いてる
多声的な声のしたに通奏低音がある
嵐でした
一昨日
浜辺に
蒼鷺が佇ってた
何かを
待ってる
わけでもなく
時間はとまってしまったの
雨の中に
片足で
佇ってた
此の世の
岸に
波頭が砕けてた
砕けるものたち
砕けちるものたちよ
ホックニーの白い波頭を見たことがあるかい