「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第91回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2021年卯月蝶人酔生夢死幾百夜

 

町内会長がやって来て、「4月から国の税率が変わったので、服の売り方も変わり、服の売り方の変化を国の税率に反映する」と言うのだが、我々あきんどには、何のことやらさっぱり分からなかった。4/1

いつの間にやらわが家に有毒核物質が累積していたので、気がつけば老いたる父母が死んでしまっていた。4/2

私は半世紀前から辻に立ち、黄昏て沈みゆくこの国の悲愴な末路を、声を大にして「悔い改めよ!」と預言してきたが、誰も耳を傾けようとはしなかった。4/3

おらっちは、突然大金持ちになったので、auの携帯とHМVのCDを全部買い占めて、とりあえず北京へ飛んだ。4/4

売れない文をしにカンキュウモンダイ原子ロ物象にしたらカンバイ。4/5

太刀洗、三郎ノ滝を過ぎて小さな泉を覗くと、オタマジャクシが泳いでいた。そこから朝夷奈峠を登っていくと、春型の小さなモンキアゲハやカラスアゲハが岩肌の水を吸っていた。熊野神社の参道では、大きな赤い花弁を沢山つけたシャクヤクの木が「ようこそ」と迎えてくれた。4/6

頼まれてやった訳ではないが、パンストのPRの仕事が大当たりしたので、スポンサーから喜んでもらえるか、と思っていたところ、意外にも苦情が来た。その商品は、とっくの昔に製造中止にしているといううのであるがあ。4/7

王様の私が、洞窟の中に入ると、民草たちは、いちおう私に敬意を表するかのように一番突き当たりの広間に通してくれたのだが、ふと気がつくと、私の物々しい武装は完全に解除されているのだった。4/8

レースの2順目に差し掛かると、ファンとボランティア奴が、よってたかって余の走行を妨害し始めたので、予はついに、持参したライフル銃を、彼奴等の上空で暴発させた。4/9

「火の丸の割れ目に潜りこむんだあ!」と、オオツキさんが叫んだ。4/10

うちはビール屋だが、いつもの配達員が月期半ばで辞めたので、残りは他の販売員にやってもらうことにした。4/11

もう30日以上、巴里のこのモグラの巣のような地下の迷路の突き当たりの部屋に住んでいたので、きっとみんなが心配していると思って、私は3時間以上もかけて地上に出たのよ。4/12

私はその男を見事に説得して、職場復帰させたうえ、たまたま飛び込んできた黄金色の巨大なセセリチョウを捕まえたのだ。もしかすると新種かもしれない、と思うだに胸が弾んだ。4/13

T大の学長に就任したМ氏は、毎日学食で一皿500円のカレーライスを食べて、生活費を切り詰め、少しでも無職の息子に金を残そうとしていた。4/14

その作品は見るからにうす汚なく、なぜかといえば、薄汚い悪童たちしか出てこないからなのだが、どういう風の吹き回しか、カンヌでグランプリを獲得してしまった。4/15

「新人は隠し芸を披露せよ」と部長が命じたが、そんなことは出来ない私は、彼奴をピストルで撃ち殺してやったら、皆からおおうけだった。4/16

私は500人を収容できる大教室で、ハンドマイクを握り締め、谷崎の「陰翳礼讃」について汗水たらして語り続けたが、誰一人耳を傾ける者はいなかった、とさ。4/17

その館では、腐食女子が出演を待っていたが、トーマス・ハイウエイの丘では、アリストテレスが、政治学について滔々と論じていた。4/18

偶然前の会社で、同僚だったAに会ったので、キッチャ店で長々と話しこんでいたら、彼はまだ私の昔の恋人と付き合っていて、彼女はまだ私に未練があるそうなので、なかなか簡単にキッチャ店を出られなくなってしまった。4/19

「海亀」と呼ばれている超小型艇で、単身肉弾攻撃する子供たちの最期の悲鳴が、この岬の先端からは時々聞えた。4/20

半世紀以上にわたって、毎晩博文館の「10年連用日記」にモンブランの万年筆で孜孜として綴ってきた私の日記を、久し振りに読み返してみたが、なめくじがのたうち回ったようなインキの跡が残っているだけで、まったくの意味不明であった。4/21

事前調査も研究もしないで、「取材」と称して人に会いに行くダメジャーナリストに、私は「せめてこれだけは持って行けよ」と言うて、メモ帳とちびた鉛筆を渡してやったのよ。4/22

世界で1,2を争う腕前の2人のビスポーク・テーラーの戦いは、熾烈かつ華麗なもので、世界中の顧客がその見物に押し掛けた。4/23

救急車の中では、妻が私の右手を握ってくれたが、その手が異様なくらい冷たいので、きっと気が動転して具合が悪いるのだろう、と思って「大丈夫?」と声を掛けようと思ったが、声がでないよ。4/24

今回の選挙に出るA氏は、市の社会福祉活動の重要な一翼を担う人物で、その姿は、まるで大型ブルトーザーが、邪魔ものどもを薙ぎ倒して前進するさまを思わせた。4/25

この国の映画は、みな長尺ばかりなので、試写会もおおかた前後の2回に分けて開催されているのだが、どの映画をどこまで見たか分からなくなってしまうので、えらく評判が悪いずら。4/26

「私がかつて人間だった時」という題名の詩を書こうと、朝まで粘っていたが、どうにもこうにもうまくいかなかった。構想は出来ていても、その内部をどう埋めていくのかについてのアイデアが、てんでなかったようなのだ。4/27

牢屋に入れられた死刑囚から頼まれて、ワーグナーの「指輪」のフルスコアを差しいれたのだが、それで彼の生涯の最後をいささかなりとも黄昏色に彩れるとしたら、以て瞑すべきだと思った。4/28

今までいろんな国の写真だと思って、大切にとっておいたのだが、それらの大半が、おふらんすの写真であると判明したので、私は急遽、独逸やベルギーやイタリアに出張して、撮影せざるを得なくなった。4/30

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その54

 

佐々木 眞

 
 

 

今日はおばあちゃんち行ってえ、図書館行ってえ、西友行ってえ、お弁当買って帰りますお。
分かりましたあ。

今日はサケご飯にして、お母さん。
分かりましたあ。

オシャレって、なに?
すてきな洋服を着て外を歩くことよ。お母さん、オシャレしたいな。
オシャレ、オシャレ、オシャレ。

お母さん、目黒構内って、なに?
目黒の駅の中よ。

引退って、辞めることでしょ?
そうだね。

お父さん、連佛さんのドラマ録画してくださいね。
分かりましたあ。

「バイバイ、さよなら」と言ってくれたよ。
誰が?
サユリさんが。
いつ?
昔。

お父さん、ぼく連佛さんのビデオ見ますよ。
分かりましたあ。

お父さん、連佛さん泣いちゃたよ。
なんで?
分からないけども。

連佛さん、なんで寝ちゃったの?
お酒のんで、よっぱらっちゃったのよ。

またたくって、なに?
キラキラすることよ。

掛け算のカケルは、バツに良く似てるね?
バツ? ああ、そうだね。

お父さん、2つ録画してくれた?
バッチリ録画しましたよ。

お母さん、あした図書館と西友行きます。
リョーカーイ!

ヤマモトリョウコは、旅館で働いてるの?
東京の旅館で働いてるみたいよ。

連絡帳にね、鎌倉郵便局は嫌いです、と書いといてね。
分かりましたあ。

竹中直人さんの斉昭、死んじゃったのね?
そうだね。

お母さん、「今まで普通に渡っていた、鎌倉郵便局の信号が苦手になった!
怖くて渡れなくなった。」そう連絡帳に書いてください。
いつから怖くなったの?
3月から。
信号なんで怖くなったの?
「タッツタッツタ」というようになったからだお。
そうなんだ。知らなかったなあ。

お父さん、「恋はディープに」見ますお。
分かりましたあ。

患うって、なに?
病気になることよ。

ぼくはシュウマイです。
こんにちはシュウマイさん。

ぼくは、「戦うラーメンマン」好きですお。
そうなんだ。
ラーメンマン、ラーメンマン。

ぼくヘチマ好きですお。
そうなんだ。
ヘチマ、ヘチマ、ヘチマ。

お父さん、録画した?
しましたよ。帰ったら一緒に見ようね。

みっともない、恥ずかしいことでしょう?
そうねえ、ちょっと恥ずかしいことかな。
みっともない、みっともない、みっともない。

洗濯物、乾きましたよ。
雨が降ってきたから、こうやって部屋で乾かしておきましょうね。
分かりましたあ。

 

 

 

いつか私が人間だった頃

 

佐々木 眞

 
 

いつか私が鳥だった頃、私は瑠璃色の翼で覆われたルリビタキだったが、
赤いモミジの葉っぱをついばんでいる間に、飢えた台湾リスに食べられてしまった。

いつか私が魚だった頃、私はウナサブロウという名の天然ウナギだった。
ある日滑川の巣で昼寝をしているところを、川遊びをする子供たちの網に飛び込んだために、校長先生のまな板でかば焼きにされてしまった。

いつか私が植物だった頃、私は鎌倉市の市花で崖に咲く絶滅寸前のリンドウだったが、近所のタカギさんの電動芝刈り機で、あっという間に他の草花と一緒にチョン切られてしまった。

いつか私が動物だった頃、私はメリー洋装店のジョンという名の犬だったが、綾部保健所の凶暴な犬捕りに捕まって、ワンという暇も与えられず、締め殺されてしまった。

いつか私が人間だった頃、四季は温暖に巡り、花々は愁わしく香り、人々は私に優しかった。

ところがある日私は、脇道から突然出現した自動車に撥ねられて空高く跳び上がり、くるりと一回転して、地べたに叩きつけられた。

救急車で病院に担ぎ込まれ、九死に一生を得た私だったが、月命日の母が天上から手を差し伸べてくれたのだった。

それから私は、タンポポの好きな美少女に恋して、2人の愛らしい子供に恵まれ、蓮の葉っぱの上の小さなおうちに住んで、いついつまでも仲良く暮らしたことでした………

 

 

 

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第90回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2020年如月蝶人酔生夢死幾百夜

 

私が提出した何度目かの業務改革の提案は、私がいくらVサインを出しても、その都度上層部によって闇に葬られ、永久に日の目を見そうになかった。2/1

船の什器がまだ揃っていないので、私はまだ出発進行の合図を出せないでいる。2//2

理想の子供服とは何か? 私はこの難問を、半世紀以上も追及するうちに、どんどん歳をとって、よぼよぼの老人になってしまった。2/3

某有名評論家が、映画の内部に忍び入っては、登場人物を吹き矢で殺すので、映画探偵の私は、五社から頼まれて消された人物の息を吹き返すのが、主要な仕事になってしまった。2/4

東レのテキスタイル情報を、ワールドの社長が盗んだのではないか、という疑いが生じたので、彼は、急遽海外へ斗横暴したのだが、国内できちんと弁明した方が、良かったのではないか。2/5

マーラーの交響曲を演奏する時には、反逆点で反逆音を響かせることが大事だ、と何度も教えたのに、小澤征爾はとうとう理解できないようだった。2/6

いくら悪戦苦闘しても、この人世が我が身にそぐわないので、私は早く来世へ移動してから活躍しよう、と思うようになった。2/7

私が身に纏っている衣服が、次々に映像化されたが、それらが、余りにもチープだったので、恥ずかしいやら哀しいやらで、思わず涙がちょちょ切れてしまったよ。2/8

不倫に関する電話のアンケートが、一日に何回もかかって来るのは何故だろう。「不倫ではなく浮気に関するアンケートなら答えてやる」というたら、「しばらくお待ちください。上司と相談してから、また連絡します」というたきり、音沙汰がない。2/9

久しぶりに京に住むことになり、さてどこにしようか。と探していたら、中京に格好のしもうたやがある、というので、そこに決めました。2/10

気が付くと、私は出世が遅れ、かつては自分の部下だった年下の男の下についているのであったが、幸い墓地の管理以外は、さしたる仕事もないので、毎日墓碑銘を刻んでいた。2/11

ある日思い立って、石屋の石長からもらった大理石に、私の来歴を斧で刻んでおいたら、森鴎外に似た掃苔者がじっと眺めていた。2/12

私は、かくて全員が死者であるところの村に着いて、直ちにモンミ事件の捜査を開始したが、なにせ住民が死者ばかりなので、さっぱり有力な証言を得られなかった。2/13

隕石直撃が忍び寄る地球最後の日に備えて、わいらあは、全世界人民の安全安心の整然たる火星脱出計画を樹立したが、結局は、各国各民族の競争と対立が災いして時を失い、地球はあっさり滅びた。2/14

ボクは、陽気なフルート吹き。南仏の地中海沿岸の避暑地を訪ねて、演奏して回るのが日課なんだ。2/15

「人類とコロナウイルスの戦いでは、当面は人類の負け戦が続くでしょう」と、神様がのたもうた。2/16

私は自分が出演している映画が上映されている、全国の映画館をすべて見て回ったが、どこもガラガラだったので、いたく傷つき、もう引退しようと思ったが、そうすればどうやって生き延びるか、何のあてもないのだった。2/17

「私は、その問題には、真正面から取り組んではいませんでした、」と告白すると、「その他の問題にもでしょ」と、誰かが揶揄したので、思わず赤面したのよ。2/18

大変難しいゲシュタルト問題が、やっぱり大量に出題されたので、私はまたしても第1志望の学校に入れなかった。2/19

オタマ入りの味噌汁を飲んだ社員は、他社の広告を入れるべきところに、自社広告を入れてしまったので、社長にえらく怒られてしまった。2/20

どおゆう風の吹き回しか、迷いこんだ場所が裁判所の法廷で、若い女が被告である。傍聴席にいる私は、彼女は無罪であると思いこみ、なんとかしてやろうと方策を考えるのだが、案を考え付くたびに地震が起こり、それがだんだん酷くなって来る。2/21

分限者の大酋長に、何から何までお世話になっている超貧乏人の私が、とうとう一穫千金の宝くじに当たったのだが、何パーセントのお礼をしたらいいのか、大いに悩んでいるところだ。2/22

ノノヘイのことを、今までアホかと思っていたが、よく考えてみれば、けっしてそんなことはない。清く正しくぐあんばっている青年だ。私は、そのことを彼に早く伝えて、頭を下げて謝ろうと思った。2/23

久しぶりに気分が高まったので、「弦楽四重奏のための緩徐楽章」というタイトルの詩を書いていたのだが、その題名の意味にとらわれすぎたので、最悪の結果、すなわち詩の放棄に終ってしまった。2/24

小中学の教科書のどこを探しても、「日本がほぼ世界中を相手に戦争をした」などと書かれていないので、驚いて先生に聞くと、「そんなこたあ、どうでもいいじゃん」と答えるのだった。2/25

佐々木家は「隅立て四つ目」の家紋なり。どうじゃ恐れ入ったか、と誰かがえらそうに言うので、「そんなこたあ、どうでもええやん」と答えた。2/26

イケダノブオが「ササキさん、なんかいいアイデアないすか?」と尋ねるので、「さあねえ、海のものとも、山のものとも、つかないなあ」と答えたら、「じゃあまず、その、海のものから聞かせてくださいよ」と迫るので、困ってしまった。2/27

いままさに物凄く興味深い夢を見ていると思うのだが、夢とおらっちとの間に、半熟の卵の表層の幕のようなものがあって、映画館の裏口で耳を澄ましている少年、のような映画の理解しかできない。2/28

 
 

2020年弥生蝶人酔生夢死幾百夜

 

いつのまにか、富士山が超スリムになってしまった。おらっちは、8合目辺りにベランダを作り、それをハンモック替わりにして、昼寝しているところだ。3/1

最前線に「重機」に代わって「商業」が出てからは、戦闘はやや下火になってきたので、敵味方ともに喜んだ。3/2

僕は、いわゆる機会主義者の一人に、一目でも会いたい、と切望しているのだが、そののぞみは、まだ叶えられそうにない。3/3

ケイサツゴッコをしながら、テレフォンごっごで遊んでいるうちに、季節は、ぐるぐると廻っていった。でも人は…… 3/4

ミクロ妃が、「この世では生きづらい」とさんざん泣きごとをいうのを、黙って30分間聴いていたので、疲労困憊してしまったずら。3/5

北陸地方を歩きながら、めぼしい芸能文化を記録しているが、やはり生活歌にまさる資料はなさそうだ。3/6

久しぶりに地下鉄に乗って銀座に出たら、旧知の映画会社の人から、試写会に誘われた。それが10時半から始まって、終るのが8時半だといので、大いに迷っているわたし。3/7

銀座通りを歩きながら、昔むかしのその昔、この松屋や松坂屋の前の小川にも、たくさんのウナギが泳いでいたことを、私は懐かしく思い出していた。3/8

旧知の人々から、大量の遺言状を手渡されたが、はてさて、これらをどうしたものか、と私は思いまどうばかりだった。3/9

私がしばらくのあいだ人間だった頃、四季は温暖に巡り、人々は私に優しかった。3/10

この睡眠から下手に覚めると、現実世界がもはや存在していないかもしれないので、わざと二度寝、三度寝して、様子をうかがっているのよ。3/11

完全な負け戦ではあったが、退役した老将軍の指揮ぶりは、いかにも老練そのものに洗練されており、一言にして尽くせば、見事であった。312

駅構内の、それぞれの地点での、人の流れを研究していると、いろいろな改善点が、おのずと浮かび上がってくるのであった。3/13

城壁の修理を頼まれた私ら土木業者は、複数の石を、美しく交叉させたり、エレメントの交響化に配慮しつつ、従来の布石を再編成させながら、より強靭な砦の完成に力を尽くした。3/14

3種類の日本文学全集を、あれこれつまみ食い式に読みあさっているうちに、どれをどこまで読んだのか、分からなくなってしまったずら。3/15

テレビを観終わってから、家を出て満員電車に乗ったのだが、なぜかリモコンを持って出たので、どこに置くか大いに迷っているところ。3/15

今まで暇だったのに、急に仕事が忙しくなって来たので、部下のサカイ君に3つほど応援を頼んだが、いつまで経っても返事がないので、どうしたのかと思ってデスクを訪ねると、もうだいぶ前に亡くなっていたのを、私が忘れていたことが分かった。3/16

余身が武そうに人のえつ会のような淑経になり裸の部分がなかった。3/17

その病院では、看護師が医者から莫迦にされているので、その腹いせに患者を莫迦にしているので、そのつけが病院全体に及んで、コロナ禍のさなかに倒産してしまった。3/18

誰もが、己の物語を動画を交えて、ものがたるのであるが、その男は、昔ながらの紙芝居方式でものがたるので、かえって新鮮かつ好評だったのよ。3/19

私は鉄人28号に変身したつもりで、秘密の抜け道を、全部ふさぎながら、グングン進んでいった。3/20

紳士衣料店の倉庫を襲撃した夜盗の群れは、それらの盗品を、やはり盗んだキッチンカーに乗せて、全国で売りさばいたのである。3/21

実際に歌手がやって来て歌うと、それをすぐにCDに焼いて、出口で即売することで音楽業界はひといきつけたのよ。3/22

私は、ある日自分が戦後間違った生き方をしていたことが、はじめて分かったので、その翌日から、そんな自分を弾劾する大行脚に出発したのだった。3/23

10年間、毎日何の仕事もせず、駄眠を貪り、美食と美女を求めるだけの生活に飽きただけではなく、途轍もない恐怖を覚えたので、私は万事を放擲して深山に籠った。3/23

ハシモト画伯は、その奴隷の叛乱の話を、絵にしようかどうしようか、とかなり長い間迷っていたが、ようやく一歩進んで太い鉛筆を手に取った。3/24

僕らは、夜になると飯を食いに行く代わりに、或る種のコーフン剤を飲んで仕事に励んだが、それは最終的には、精神の統一と仕事への集中を妨げる結果に終わった。3/25

「この折れた歯の右はなんとか使えそうですから、左半分を麻酔をして切り取ってしまいましょう」と、岸本医師はいと軽くのたもうのであった。3/26

その経理担当者は、私に向かって「早くここから出て行け」と偉そうに言うたのだが、何十年も経った後で、彼は竜宮で事故死していたことが分かった。3/27

故郷あやべの西本町から、裏西町のうらぶれた民家を少し行きすぎると、薔薇の生垣で囲まれた私の家の庭があり、そこには四季折々の野菜を植えた畑や、おいしいグミやユスラウメ、イチジク、カキ、ナツメなどが生る何本かの樹木もあった。3/28

1億の民が、毎日せっせせっせとマスクを棄てるので、その道は「白いコロナの道」と呼ばれるようになった。3/29

この街には、明治の文豪が住んでいたというので、屋敷などは取り壊されて跡形もないにもかかわらず、彼の足跡を尋ねる人々で、いつも大賑わいだった。3/30

1人の電気工は、鎌倉関東日本電工、もう1人の電気工は、日本アジア世界電工の社員と名乗ったので、私らは前者を採用した。3/31

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その53

 

佐々木 眞

 
 

 

ひとめぼれ、好きになることでしょ?
そうだよ。

お父さん、立派の英語は?
グレートかな。
立派、立派、立派。

横浜線は「特急かいじ」とかでしょう。
そうなんだ。

遅れてるみたい、ってなに?
遅れているらしい、よ。

コウ君、ラーメン食べられるの?
食べられますお。
ほんと?
大丈夫ですお。

お母さん、今日はお赤飯とトマトシチューにしてください。
分かりましたあ。

かわかわのコウちゃん!
ぼく、コウ君ですお。

警察の察は、ウカンムリにハツでしょ?
なになに、うーんと、そうだね。

毎度、いつも、ね?
そうだね。

キッチンカーって、なに?
台所がついた車よ。

勘弁して、って、許してあげること?
そうだね。

コウ君、足痛いの?
大丈夫ですお。
お薬つけますか?
つけますお。

感じるは、思うことでしょう?
そうだね。

コウ君、今日の予定は?
ぼく西友に行きますお。

確定申告って、なに?
税金の話よ。

ルルルル。はいお父さんですよ。
お母さん出してください。
お父さんではダメ?
ダメですお。お母さん出してください。
分かったよ。

今日おばあちゃんち寄ってえ、図書館行ってえ、東急でパンとおべんとう買いますお。
分かりましたあ。

コウ君、リコちゃんの名字はなんていうの?
フクモトだお。大学生だお。
そうなんだ。

ぼく連佛さん、石原さとみ、福本莉子両方好きだお。
そうなんだ。

お母さん、ホネどこ?
ここ、ここも、ここも、みなホネよ。

ホネ、痛いよね?
ガンになると痛いのよ。
ホネホネホネホネ

お父さん、連佛さんが「アホ笑いするな」と言ったら?
「もうアホ笑いしません」と言うんだよ。
アホ笑い、アホ笑い、アホ笑い。

お父さん、竹中直人の番組、録画してください。
分かりましたあ。

お父さん、タケナカナオトのビデオ、見たいですお。
分かりました。いつ見ますか?
いま見たいですお。
分かりましたあ。

お母さん、わずかって、なに?
ちょっとだけのことよ。

就職活動って、なに?
会社に入るための運動だよ。

「こそあど言葉」書くよ、ファミリーナで。
書いてね。

おや、コウ君一人で帰ってきたの?
そうですお。
お母さんは?
おばあちゃんチにいますお、ケンちゃんと。
そうなんだ。

今日おばあちゃんち行ってえ、図書館行ってえ、JRの回数券買ってえ、東急でパンとお弁当買いますお。
分かりましたあ。

お母さん、くじけるって、なに?
おちこむことよ。

コウ君、乾燥してるときに、また洗濯物入れちゃだめよ。
分かりましたあ。

お母さん、大好きですお。
コウ君、またなんかやったんでしょう?なにしたの?
分かりませんお。

 

 

 

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第89回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2020年師走蝶人酔生夢死幾百夜

 

高卒で事務職に採用された彼女だったが、みるみる出世して、2年後には代表取締役社長になってしまった。12/1

文化へ行ったらヒサダさんが出てきて、「あなたたちどうしてるの」と聞くので、「いやあ相変わらずですよ」と答えると、「もっとビシッとやらなきゃだめじゃないの」と叱られた。12/2

敵に包囲された城内にあって、デビット王子は、敵が放つ燃える火球をうまくキャッチしなければ、ただちに爆発して甚大な被害が齎されるので、苦労が絶えないのである。12/3

彼女は。手もとの金を全部まとめて、床下に掘った穴に埋めた。12/4

倒産してまもなく、この世から消え去る会社では、急激に社員が姿を消し、残るは我ら数名だけとなったが、たった1台のパソコンには、全社員の別れの言葉が記されていた。12/5

中国軍船が群れる国境周辺の海域に、丸木舟に乗ってやって来た私は、海にプカプカ浮いて日光浴しながら、とうとう新旧約聖書を全部読んでしまった。12/6

宣伝課と同期入社の忘年会が、同月同日同時間にバッティングしたので、その両方を行ったり来たりしているうちに、終わってしまったので、電車に乗ると、右側には亡くなった今井さんが、反対側にはヨシタケさんが座っているので、もしかするとヨシタケさんもこの世の人ではないのかもしれない、と思った。12/7

全世界を席巻した新型コロナウイルスのせいで、人類の生き残りはたった2人の男女になったのだが、彼らは協力して子供を作ろうとはせず、共に逃れついた北極点で、殺し合いを始めようとしていた。12/8

暫く前から、夜中に小便に起きなくても済む薬を飲んでいるせいか、夢はいつもと同じように激しく見ているにもかかわらず、残念ながら、起きてそれを枕元でメモできなかった。
従って、これは夢日記ではない。12/9

これまでの海戦では、一度も負けたことがない本艦であるが、念のために、このたびの強敵に備えて、鉄人28号を呼び寄せることにした。12/10

誰の影響だか、彼女は、有金を全部賭けるのを止めてから、その女性性の破壊が、いくぶん収まったようなので、周囲の人はほっと一息入れた。12/11

私は、その難儀な試合を上手に操作して、10対9で勝利したのよ。12/12

私は寅さんの監視役を仰せつかったのだが、神出鬼没で、煮ても焼いても喰えないこの風来坊を、抑えることなぞ、出来るわけがなかった。12/13

死にゆく王子は、その前に某国の王女に氷上で長い接吻をして結婚式を挙げ、初夜の睦言をたっぷり楽しんでから、やすらかに死の床に就いた。12/14

3人で決闘することになり、当日の約束の時間に集まったのだが、どういう風に決闘をやるかについての話し合いの結論が出なかったので、「じゃあまたね」と言うて別れた。12/15

パナの展示会で、各ブースごとにお土産を呉れたのだが、それが物凄い荷物になってしまい、とうとう会場からタクシーに乗る破目に陥った。12/16

吉原でさっぱり売れない女たちを集めて、その性豪がメンテを施すと、たちまち男どもの指名が殺到するのだった。12/17

恥ずかしいので、今まで一度もやったことのない、詩の朗読というやつをやってみたが、幸いなことに、誰も聞いていなかったので、大助かりだった。12/18

共同権利者である彼女に、その物件の説明をしている間に、彼女が息を引き取ったので、私が、全権を引き継ぐことになってしまった。12/19

もうその頃には、全国民がコロナに感染していたので、いくらワクチンを飲んでも、後の祭りでした。12/20

イルカに変身した私は、イタリアで観光客を、つま先泳ぎをしながら、案内しているところだ。12/21

ジャスミン革命が大爆発したのは、今から3年前のこと.だったが、たった3年でも、その時代の空気感は、もう2度と戻ってこないことを、嫌でも思わないわけにはいかなかった。12/22

私は、新しい手を次々に作っては、そいつでもって、聖徳太子みたく、百千のハンコを、ビシバシ押してやったんだ。12/23

「あの性悪のセクスイー女にだけは近づくな」と先輩が忠告してくれたにもかかわらず、おらっちは、うかうかと手を出して、ズルズルと深みに嵌っていったのよ。12/24

仕事を終えて、新幹線の1号車の指定席に座っていると、浜名湖付近で、突然巨大ウナギどもが乗り込んできて、「ねえ、一緒に泳ごうよ」と、誘って来るのだった。12/25

私はウチの「サイカンキョウ鉄工所」を活用して、カモラマンのカモちゃんに、いい写真を撮らせようと企んだが、やっぱ無理だったようだ。12/26

この病棟に入ると、ガンで死にゆく人たちの、寛大な精神に打たれるのであった。12/27

バク高乏人そう会チャイ好きしきに私ビューキシャンクル自信ない 12/28

私は、頭の中のイメージ通りにセンター前にヒットを打ったが、一塁にゆうゆうセーフで到達するはずが、焦って左足から滑り込んだために、アウトになってしまった。12/29

海から奇妙なものが出現した、と聞いて、コウジュ君が、「それはきっとスタヴローギンに違いない」と言うたので、わいらあ会社の仕事なんか全部すっぽかして、電車に乗って出かけたが、これって出張手当が出るんかいな。12/30

私はもてん出社 きねんきかく をの工場と本を毎日 日本人かてえれく 12//31

 
 

西暦2021年睦月蝶人酔生夢死幾百夜

 

山紫水明の田舎町を訪ねたのだが、あまりにも山紫水明すぎたので、その名前を忘れてしまった。1/1

ジュースが配給になったので各戸毎に配分しなければならないのだが、それを計ったり、エレベーターに詰め込んで配達するのが大変だ。1/2

クマと遊び始めたのだが、そこいらにウンコはするは、やたら吼えるはで、ひどく大変だ。急いでトリセツを引っ張り出したが、役立たずで、後悔先に立たずだった。1/3

JRの危険団では、反鉄道団体を規制するために、JRシンパをにわかに囲い込んでいた。1/4

「おらっち、ちょっくら横須賀へ寄ってくらあ」、とそいつがいうので、止めたのだが、案の定溝板通りの米軍人用のバアで新型コロナに感染して、ほえずらをかいた。1/4

私らは、会社の跡地をたびたび訪れては、再起を誓ったが、それは結局果たされぬ約束、見果てぬ夢と終わってしまった。1/5

ガードマンの私が、一晩中観察したところによれば、非常事態宣言をしたマンションの窓の中に、1美女、2幼児、3母親、4盗人が次々に忍び込んでいった。1/6

誰かが、おらっちをはじめとする33匹の蟹の目の前に、うまそうなパスタを落としてくれたが、大きすぎて食べられなかった。1/7

夜の12時ちょうどに、コンサートの最後の曲が終わるはずだったが、失敗したので、指揮者は、今度は1時終演をめざしてまた挑戦したが、うまくいかないので、コンサートは延々と続いた。1/8

解体していく人物像を阻止しようと、一世風靡した彼の名文句を画面に向かって投げつけたが、画像は、どんどん溶解していくのだ。1/9

もう人世の最後の周回期に突入したので、幼少期から現在に至るまでの印象的な光景を呼び出して、ブルーレイに焼き付けておこうとしているんだ。1/10

国鉄の終電時間が早まった代わりに、全国の全線の普通列車が無料になったので、暇人はみな利用している。1/11

いつまで経っても、その場に転がっている死体を、誰も処理しないので、しかたなく私が地面に穴を掘って、商人2名、天使1名の死体を葬った。1/12

さんざん罪を犯したのは事実だが、同じくらい罪を犯した人間を見つけたら、2人とも免罪されると聞いたので、罪人たちの情報交換が盛んに行われているようだ。1/13

ここからだと、世界の秘密を解明する手掛かりとなる、岩石の割れ目が、よく見える。1/14

西海岸に住んでいた時は、いつもジョン・ウエイン空港を利用していたのだが、コロナ禍で使用中止になって、名前もアラモ空港に変わったそうだが、悲しいことだ。1/15

電通が石坂浩二を売り込んでいるのに対抗して、おらっちは、新しき村の家ごとに入り込んで、失われた一家団欒を回復していったのよ。1/16

100万円の報奨金が出ると聞いたので、イの一番にもらおうと、わいらあ国会議事堂に押し掛けた。1/17

政とにたかう故じゃの声明へのしょめい 1/18

我が国の6チャンと5チャンネルに、4Dとか8Dなんてめじゃない物凄い解像度を誇る映像を、暇な宇宙人が送って寄越したので、技師たちは大慌てだ。1/19

ともかく、どんな学校でもいいと思って、10個以上も受験したところ、なぜだか全部受かってしまったので、どれにしようかと、いつまでも迷っているわたし。1/20

アウターのトレンドが完全に行き詰ったので、今年のパリコレの出品は、マスクとパンツだけになったが、その中でいちばん注目を集めたのは、やはりフンドシだった。1/21
 

亨同ホテルに詰め込まれた若い女たちは、みな部屋の窓からハンケチを振って助けを求めているようだが、私にはどうすることも出来ない。1/22

バス停でバスを待っている妻が「バス停の傍の橋に可愛いタヌキがいりよ」と電話してきたので、自転車で駆け付けると、なるほど可愛いコダヌキがいたので、「タヌキよ、タヌキよ、こっちへ来い」と誘うのだが、橋の半分のところまでしかやってこない。1/23

そのロシアのホテルが沈んでいく地面から、2本の手が伸びていたので、1本はサカモト君が、もう1本はキタジマ君が、ぐっと握って引っ張り上げると、どこかで見たことがあるような顔つきの男が、姿を現した。プーチンならぬリプーチンだった。1/24

カクミとかいう女が逃げこんできたので、しばらく匿っていたら、マスコミが殺到して、我が屋は足の踏み場もない。1/25

この国でいちばんの悪党を、おらっちは一刀のもとに、切り捨てたのよ。1/27

王宮では、毎日新曲を必要としていたので、私ら作曲家は、朝な夕なに、既存の有名曲からサビをぱくった疑似新曲をでっち上げて、お茶を濁していた。1/28

次々にブルックナーの交響曲第5番が演奏されるが、どれが原典版でどれがハース版あるいはノヴァーク版であるのかさっぱり分からないので、おらっちは全部を同時に演奏してくれるように頼んだ。1/29

今朝はいくら時間が経っても7時にならないので、それまで短歌を詠もうとするのだが、1首もできなかった。1/30

天下分け目の大勝負の日に、以前私と付き合いのあった2人の女性が大勝利を勝ち取ったので、少しは私も浮かばれるかと期待したのだが、そうは問屋がおろさなかった。1/31