島影 52

 

白石ちえこ

 
 

 

その小さな岬にたどり着いた頃、日はすでに傾きかけていたと思う。
遠浅の磯にはごろごろとした石ころがころがっていて、なにか珍しいモノが見つけられそうで、下を向いて歩いた。
海と空の間にふと、一本の白い線が見えた気がした。
辺りが暗くなりはじめると、線は次第にくっきりと強くなってきて、それが小さな灯台からの光線であったと気がついた。
まっすぐに一点を照らしている。
おもたい雲が空を覆い、日が沈むと星も月もなく、海も真っ暗になった。
光線はますます力を増すようにまっすぐにのびる。
灯台と光線と海は不思議な三角形を作り出す。
時間が止まったような暗がりで、小さな灯台が照らし出す波頭がうごめいていた。

 

 

 

島影 50

 

白石ちえこ

 
 


新潟

 

海からの強風で国道に砂が押し寄せていた。
誰もいない浜を歩くと捨てられた冷蔵庫や季節外れの海の家が半分砂に埋まっている。
こんなに埋まってしまうまで、どのくらいの時間がたったのだろう・・。
立ち止まってぼんやり景色を見ているうちにも砂は吹き寄せる。
わたしも足元から砂に埋まっていく恐怖がわいてきて足を踏み出す。
歩くうち、轍がついた浜辺に出た。遠くに紺色の海が鈍く光っている。
ヒトの気配に触れて、少しほっとした。

 

 

 

島影 48

 

白石ちえこ

 
 


栃木県足利

 

暑い夏だった。
渡良瀬川にかかる橋から町を眺めていたら、ひょろっとそびえる給水塔が目に入った。
給水塔は古い団地の中心にあった。
足もとから見上げる給水塔は、巨大な花のめしべのようであった。
自分が小さな虫になったように感じた。