島影 35 投稿日時: 2021年9月28日 投稿者: michio sato 返信 白石ちえこ 新潟県新潟市 その浜辺には、時間が止まったような静けさと真昼の明るさがあった。 すべてのものが長く影を引きながら、静かにじっと、砂の底に沈んでいくのを待っていた。 ところどころの木の柱はどこかの部族のまじないのようにも見えた。 砂には、わたしが歩いた足跡だけが浅く残っていたが、やがてそれも消えていった。
島影 34 投稿日時: 2021年8月28日 投稿者: michio sato 返信 白石ちえこ 北海道根室市 こんにちは! 君は誰ですか? 季節外れの海辺を歩く。 思いがけないモノに出会うことがある。
島影 32 投稿日時: 2021年6月28日 投稿者: michio sato 返信 白石ちえこ 愛知県蒲郡 人魚 海水浴が苦手だった。 子どものころ、波にのまれて海のなかで宙返りした。浅いはずなのに足がつかず、深い海底に投げ出された感じがして恐ろしかった。あぶくと闇と光がごちゃまぜになった水の中で、一瞬、人魚の尾びれが見えた気がした。
島影 31 投稿日時: 2021年5月27日 投稿者: michio sato 返信 白石ちえこ 北海道札幌市 旧山本理髪店 店の外から馬車の行く音や、活気のある、通りの喧噪が聞こえてくる。 山本理髪店にはお客さんが一人。横たわって顔を剃ってもらっている。 カミソリの歯が鈍く反射している。 理髪店の片隅に、一着のコートがかかっていた。 黒くて、分厚くて、ずっしりと重そうなコートだ。 祖父のコートもそうだった。 店に入ったときは薄曇りだったのに、外はいつのまにか吹雪きになっていた。 辺り一面、白く霞んでいる。 町には、もう誰もいなかった。
島影 30 投稿日時: 2021年4月27日 投稿者: michio sato 返信 白石ちえこ 北海道斜里町宇登呂 海鳥の群れが休む、そのゴツゴツとした大きな岩に触れて、耳を当ててみた。 地名であるウトロの語源はアイヌ語の「ウトゥルチクシ (Uturu-ci-kus-i) 」。 「その間を・われら・通行する・所」という意味という。
島影 29 投稿日時: 2021年3月27日 投稿者: michio sato 返信 白石ちえこ 千葉県市原市 県道の売店の脇でひたすら足もとの草を食んでいる。 ずっとうつむいたまま、そばに誰が来ても構わない。たてがみが滝のように大地に向かって流れ落ちていた。
島影 28 投稿日時: 2021年2月27日 投稿者: michio sato 返信 白石ちえこ 長崎県諫早 田んぼといえば、里山の田園風景思い描いていたが、長崎県諫早には、どこまでも続くまっすぐな道と大きな四角い田んぼが広がっていた。 地平線のむこうから洋犬も走ってきて、ここには、いつか雑誌で見たオランダのような異国の風景があった。
島影 27 投稿日時: 2021年1月27日 投稿者: michio sato 返信 白石ちえこ 千葉県船橋市 ある年。 団地の交差点にあった竜舌蘭。放射状の葉の真ん中から、みるみる茎がのびていき、 あっと言う間に団地の三階に届くほどになった。 やがて大きな花房に黄色い花が咲いた。その巨大さは大昔の恐竜時代の植物を思わせた。 竜舌蘭の開花は30~50年もかかり、そのあとは枯れる、と新聞で知った。 この年、関東のいたるところで竜舌蘭の開花が見られ、新聞の記事になっていた。 火星大接近の年だった。
島影 26 投稿日時: 2020年12月28日 投稿者: michio sato 返信 白石ちえこ 千葉県市原市 ある日。 ずいぶん前に撮影したネガフィルムをようやく現像した。乾燥のため、濡れたフィルムをリールから引き出すと、見慣れない生きものの姿が写っていた。ものすごくしっかりと写ってはいるが、撮った覚えのない、知らない動物のようだった。気持ちがざわっとした。