ステーキの後の角煮や赤ワイン煮込みのシチュー

 

駿河昌樹

 
 

物語に触れたくないときが
けっこう
いっぱいある

ステーキを食べたあとで
角煮とか
赤ワイン煮込みのシチューとか
出されるような気分

小説であれ
映画であれ
ドラマであれ
小さなお話であれ
なにか
ストーリーのあるものに
もう今は
絡みとられたくない
入り込みたくない
そんな気分

じつは
三十年ほど前から
はげしく
はげしく
そんな気分になっていて
だれかの人生にまつわるお話も
「今日こんなことがあったんだよ」的な
ちょっとしたお話も
ステーキのあとの
角煮や
赤ワイン煮込みのシチュー

それでいて
物語の最たるものである
歴史なら
どんなものでも
スポンジが水を吸うように
いくらでも
ごくごく飲み干さんばかりの
奇妙な気分

どうやら
ひとが創作したものに
拒否反応が
ひどくなっているらしい
ひとのアタマが考え出そうとした
構造とか
統一とか
効果とか
そんなものはどれも
ステーキのあとの
角煮や
赤ワイン煮込みのシチュー

 

 

 

色変えぬ松に夢見し 行く道々

 

一条美由紀

 
 


喰らえば喰らうほど腹が減り、
憎めば憎むほどに恨みは募った。
やがて彼の肉体は歪み、
薄黒い異形と成り変わった。

 


その村の墓には墓ごとに草刈り鎌が刺さっていた。
死人が生き返ってこないようにとの風習だった。
ムササビが飛び交う村の中央にある大きな沼には鯉が放たれ、
初夏には蓮の花、秋には鯉祭りに村は華やいだ。
田に放たれた鯉の幼魚に早朝餌を与えるのが子供の仕事だ。

ある時、
幼い子供とおばあさんがその沼で溺れ、子供が亡くなった。
以降蓮の花は咲かなくなった。

鯉祭りは行われなくなり、村の過疎化は進んだ。
お墓の草刈り鎌は抜き取られ、今は普通の墓地と変わらない。
村の人々が大事に守ってきた神さまのいる山は、誰かに売却された。

私は故郷を離れ、その村に帰ることもごくまれになった。
美しい里山の人々の営みや祭りを楽しむその声だけが私の心に残る

 


やまびこは答えた。
だが、言葉はバラバラと散らばっていった。
追いかける記憶は少し凍えていたが
優しく佇んでいた。
それでいいのだとわかった気がした。

 

 

 

天然無窮

 

長谷川哲士

 
 

思索は全て脳の泡もう考えるな
汁の流れに身を任せ
心臓と肋骨の隙間こじ開け
外を恐々覗き見してはほくそ笑み
極北の群青見る事願いながら
震えてそこに在る事だけが
人間に許された唯一の享楽

ぶるぶるぶるぶる震える音楽
泡は弾けて空へ溶けてゆく
もう考える必要も無い
深々と血液の真紅が
黒々と成りゆきて漆黒の夜
踊って睡る泣いて融けて
存在に謝れ

土に頭擦り付けて
土の中にまで潜り込んで
呼吸を忘れてやっと
謝った事にしてもらえるかは不明瞭
分からないから賭けてみる

からりと骰子を振った
後からずっと
静かな静かなここにいる
たまに周りで血の繋がった
他人が来ては泣いている
風は口笛吹いている

 

 

 

ANNA

 

工藤冬里

 
 

薙刀の
心配事
山を削いで薙ぎ
口がない顔に口を描き
何も変わらなくても
問題がなくならないとしても
情況が整わなくても
保たせて
一日一日
証明する
感情に彩りが戻って
聳える青髭城
運ぶ、背負う、救う
よろけても倒れることはない
笑ってる目なんてあるんだろうか
待つ間
誰も顔を作れない
どこの顔だろう
信州かな
瞬きする
ひたすら
ひたすら待つ。
夜勤明けの朝を待つ以上に
そう、夜勤明けの朝を待つ以上に
抱いて待つ
あふれる
待つ
信頼の筋肉をトレーナーに委ね
夜勤明けの朝を待つ以上に

https://youtu.be/EudR6pwEn1U?si=D-KqA3d6mI2ZgLJh

 

 

 

#poetry #rock musician

受ける

 

さとう三千魚

 
 

昨日
午後に

隣り駅に降りた

椅子と
手帳と

ちいさなプリンターをカバンに入れていた

北口広場で
ひとり

月の初めの
日曜日

ここで詩を書くことをしている
立ち止まる人に

名前と
好きな花と

詩のタイトルを

手帳に
書いてもらう

それから
その人の

詩を書いてみる

プリントして
渡す

昨日は
だれも

立ち止まってくれなかった

師走の風
寒かったな

過ぎていった
足早に過ぎていったな

地上で
空から降るものを見ていた

てのひらに受ける

無いものを
受ける

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

国道

 

塔島ひろみ

 
 

うしろに大きな川がある
大きなモノたちが流れている
町を貫いて 幅をきかして流れる ニンゲンがつくった川のふちに
取り囲んで あしげにして 
追いつめていく
なにも悪くない彼を 白いへびを
逃げ場のない場所に追い込んで
執拗にいじめる
巨大なモノらは猛烈なスピード 轟音をとどろかせ
耳がおかしくなってしまいそう
頭がこわれてしまいそう
胸がつぶれてしまいそう
おそろしくて くやしくてしょうがなくて
彼を打つのだ
抵抗しようのない 弱い(そうに見える)へびを
バシンバシン 打っても打っても川の音にかき消されるからより強く 激しく 大勢で打つ
血が出ている 舌を出している

ニンゲンの川に近付いちゃいけない
あのモノにはみんなニンゲンが入ってて
流れの先は海じゃない
ニンゲンがいっぱい集まって
殺してるんだ
ニンゲンがニンゲンを 殺してるんだ
巻き込まれたらうちら ひとたまりもない 

白へびは痛そうで かわいそうで みじめで
うごかなかったけど生きていた
目をとじていたけど 聞いていた
その小さな耳に口を近づけ
うちらには ニンゲンさまがついてんだい!
と私はわめいた
へびは少しピクピクとする
おれらには ニンゲンさまがついてんだぞい!
仲間も叫んだ

川ができるまえは 向こうに行けたよ
ちょっと行くと海があって空があって およいだり とんだり いろんなのがいる

2階のベランダでキツネが洗濯物を干している 
キツネは太陽を探していた

 
 

(篠崎2、京葉道路そばで)