静かなる休火山

――目黒実氏に
 

佐々木 眞

 
 

小学生の頃、火山には、活火山と休火山と死火山がある、と聞かされていた。

それで僕は、山を人世に譬えて、山頂から激しく火をふいいて地下からのマグマを天に向かって吹き上げる活火山は、青少年期。

その勢いがだんだん収まって、
時々爆発するオヤジのように丸くなる休火山が成熟期。

そして思い出だけを懐かしむ老人期が、
死火山に似ていると思ったものだ。

それから半世紀の歳月が流れ流れて、
僕は今まで見たこともない秀麗な休火山と巡りあった。

花と嵐のこの世を渡り、酸いも甘いもかみ分けたお洒落な伯父さん、目黒実。
それはいつも静かなる頬笑みを湛えた休火山。

その山頂には、来る朝毎に昇る太陽にキラキラと輝く透明なカルデラ湖を湛え、その下にはいつでも爆発せんばかりの、ふつふつと情熱をみなぎらせたマグマが赤黒く滾っている。

この山は、もしかすると、この国でいちばん美しい休火山かも知れない。

しかしある朝、それが静かなる休火山であることをやめ、
その端正な面立ちを崩して、天空に向かって地下から激しくマグマをまき散らすだろう。

その時こそこの山は、世界でいちばん美しい山になるだろうことを、僕は確信している。

 

 

 

海から帰った

 

さとう三千魚

 
 

昨日も
行ってた

昨日も
海に行ってた

知り合いのおじさんが
マリーナ横で

竿を出していた
黒鯛をねらっていた

陽に焼けた
白髪の

あのおじさんはいた

ずいぶんと会ってなかったな

おじさんは
おとなしく話す

おじさんは
オレンジの軽トラに乗っている

膀胱と前立腺を手術でとったのだと言った
海浜公園の土手の坂はもう登れないから

ここで竿を出している
と言った

今日も

海に
行ってみた

おじさんはいた
おじさんに会えた

マリーナ横の海は

空を映して
青く

うねうねと揺れていた

風に吹かれていた
夕方に帰ってきた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

川岸で女たちは見つかる

 

工藤冬里

 
 

うっすらとはみ出してゆく
盤の外へ雪崩れて
水平の斜面を氷河のように

ガス抜きを見抜けても
本体に属していない党派性など
ボンベごと爆破された方がよい

不安は和らがない
サメに喰われるので街路は進めない
薬剤では治せない

はみ出た貝の中身のように絶望し
どこから始めてよいのか信号待ちして
探りながら
閉店だらけの街道の
雨に濡れた舗道をゆき
川岸で女たちは見つかる

晴れた日も雨の日も
はみ出たまま
碁盤の街を潰してゆく

 

 

 

#poetry #rock musician

わたしに足りないもの ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 108     yumiko さんへ

さとう三千魚

 
 

はじめての
花は

クリーム色の

バラの
花だよ

おおきな
バラだったよ

あれから会ってない

けれど
いつも

いっしょだよ
クリーム色のバラの花だよ

 
 

***memo.

2024年10月5日(土)、
京都 徳正寺 門前での”無一物野郎の詩、乃至 無詩!”第29回で作った108個めの即詩です。

タイトル ” わたしに足りないもの ”
好きな花 ” クリーム色の大輪のバラ ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

美というよりも罪の匂いし彼岸花

 

一条美由紀

 
 


不便な天国より便利な地獄

 


ハグする時のやわらかい髪が言葉を伝える
笑い合う瞳は生きていい許可のよう
幸せや愛は儚いからそっと手のひらに隠す

 


色々あるよね?
うん、休みなしに色々と事は起こる
疲れちゃって、もういいやと思うことある
うん、やめたいな、、と思ったりする
でもなんとかね、どうにかね、明日も行くんだよね
うん、仕方ないよね たまにいいこともあるしね