michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

6時間で復活せよ

 

工藤冬里

 
 

死こそが最高のメンテであるような眠りを眠れ
眠りが最高のメンテであるような死を死ね
石膏はその力を失い混ぜても混ぜても反応を起こさない。学校で教わったような熱はでない。あれはただの体温だったのだ。いつまでもしんじつでげんじつでどろどろのままだ。A級は.73、特級は.64、正確に測ってもとろとろうたいだしてしまう。
ひしゃげた未來の天氣がいつも雹の混ざったst.ivesの強風
鉛筆を削るように亜墨利加人を削り
使えるようになった三味の糸巻
孔を穿つべく掘り進み
遂には裏側に至る乎
あゝ服の外は零度
零度のヴィジョンの温さ
終バスは南口を出
居ない妻君は出版し
モノクロのカモメはマナティの夫を見る
ナースコールのように波は来る
いつかのいつかの防波堤で
差別を溶かした葛湯の中に
せろせろと入れてみせた希望
出勤まであと6時間
6時間で復活せよ

 

 

 

#poetry #rock musician

座売り

 

廿楽順治

 
 

三越の少年音楽隊なんかに
入っちゃだめだよ

(死んぢゃうよ)

きみの眼の奥の
きいろい膿のたまったところ

おじさんはもうだめ あるけません
腰から下が地面なんだ

(売りてし止まん)

結局みんな
じぶんの夢が
なつかしいだけでなんですよ

(どいつもこいつも赤札だ)

だから三越の音楽隊だけには
ぜったい入っちゃだめ

しゃがんだ
戦争に
声を売られちゃうよ

 

 

 

水仙の花の、咲いてる

 

さとう三千魚

 
 

家の
まえの

道ばたの
隅の

水仙の


咲いている

雨の
朝の

咲いてる
濡れている

透明で
黄色い

一昨日か


曽根さんの

アパートの近くの
馬込の

地下鉄ホームのレールの

傍の地下水の滲みでたコンクリートの水溜りに
緑のものの発芽をみた

竹橋では
画家の日々の生の花ひらくのをみた

画家がいた
人がいた

うれしかった
うれしかった

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

『佐々木眞映画シナリオ選集』より

 

佐々木 眞

 
 

 

その1 映画『朝比奈三郎義秀』シナリオ大略

勇猛を以て鳴る鎌倉武士、朝比奈三郎義秀は、幕府の初代侍所別当、和田義盛の3男であった。

建暦3(1213)年、父義盛が「和田の乱」を仕掛けた時、彼は、父がもう少し時を稼げば、地方から大勢の味方が駆けつけ、北条一族を圧倒的に駆逐出来るのに、と思いはしたが、目の前のたった130騎でそれができればなお結構だ、と思い直して、群がる敵を次々に切って落とす快感に酔いしれた。

だが奸佞邪智な義時が将軍実朝を唆し、和田一族は鎌倉殿の敵と名指しされたために、敵の応援部隊が倍増し、形勢は逆転した。父義盛が、長男義直の戦死に落胆して、戦意を喪失する無様な姿に衝撃を受けた義秀は、そのまま鎌倉七口のひとつ朝夷奈峠を目指した。

峠の先には、彼の故郷六浦の漁港があったのである。和田義盛の祖先は漁師であったから、その末裔である義秀にとって、海と魚と船は故郷の幼馴染のようなものであった。

北条一族の捜索から逃れながら、故郷六浦で海と魚と船に親しむこと幾星霜、義秀は鎌倉を追われた僧、日蓮の逃走を何度も助け、自ら舵を取って安房まで送り届けていたが、とある日、ひとり小舟に乗って西国を目指した。

熊野灘で嵐に遭遇した義秀が、命からがら打ち上げられたのは、紀州太地の砂浜だった。故郷の六浦と似たこの漁港で、義秀はむらおさの娘と結ばれ、娘婿の座衛門と協力して、勇壮無比な鯨漁に挑むことになるのだった。

 

その2 映画『上総介広常の最期』シナリオ大略

朝夷奈峠の基点である三郎の滝。そのすぐ近くの小さな丘の上に、小体な別邸があり、上総介平広常は、少数の供の者たちとそこに住んでいた。

広常は本領地の上総に広大な敷地を持ち、数多くの武士と領民を従えていたが、頼朝の指示に従って鎌倉にやって来るときには、この瀟洒な山荘で寝起きしていたのである。

頼朝の広常暗殺命令を実行した梶原景時は、その手薄を衝いた。

広常邸の近所に、やはり小さな別業を持っていた景時は、いつものように将棋を楽しみ、茶を啜ると見せかけて、いきなり小刀を抜き放ち、広常の心臓を一突きしたのである。

一声も発することなく倒れ伏した政敵のとどめも刺さず、景時は玄関ではなく、書斎の縁側から外に出て、向かいの小山の崖下から滝の流れに注いでいる清冽な湧き水で、血のついた脇差の刃を洗ってから、両手で掬った冷たい水を飲んだ。何杯も、何杯も。

後に“太刀洗の水”と呼ばれるようになるこの名水は、2か所の湧き水が微妙に溶け合って、絶妙な味わいを醸していることを、彼は、いつも広常から供される茶をつうじて、喉で知っていたのである。

 

その3 映画『シン・白日夢』シナリオ大略 

突然泉下から蘇った武智鉄二監督は、名作『白日夢』の舞台を、歯医者から眼医者に移して、続編を製作した。

ところがその『白眼夢』を試写会でみたおらっちは、その晩、途轍もない悪夢をみて、1週間後に迫っていた左目の手術を、以下のような手紙を書いてキャンセルせざるを得なかった。

 大目玉眼科 院長先生足下 「白内障手術中止のお願い」

小生、今月の20日に左目の白内障手術を受ける運びとなりました。
しかしながら、小生、師走より新年早々『時計仕掛けのオレンジ』の主人公、アレックス、それに目玉の松ちゃんや「ザ・レジレンツ」と一緒に、麻酔なしで目を手術される!という連日連夜の悪夢に襲われ、手術を受ける、と考えただけで精神的に不安を覚え、夜も眠れないほどのプレッシャーを感じるようになってしまいました。

「手術はあっという間に終わり、皆さんニコニコして帰られますよ」という先生のお話を伺い、意を決して手術を受ける決意を固めたはずでしたが、手術日が迫るにつれて心身の状態が不安定となり、現状では普通の状態で手術を受けられそうにありません。

つきましては、いったん今月の手術をキャンセルさせて頂き、小生の体調が回復したらお伺いするつもりですので、その際に改めて手術の段取りを設定して頂けないでしょうか?
ここまで日程が進行して来て、種々ご迷惑をお掛けするのは大変心苦しいのですが、何卒この度の小生の希望を叶えて頂きたく、伏してお願い申し上げる次第です。云々

 

その4 映画『ゴダールと話せば』シナリオ大略

はじめまして、ムシュー・ゴダール、私の名前はササキ・マコトです。
マコトは、漢字で書くと「眞」。「眞実」、「眞理」の眞、一字であります。
ちなみに私の弟の名前は「善二」、妹は「美和」。祖父の小太郎がつけてくれた名前ですが、3人揃うと「眞・善・美」となります。

おお、素晴らしい!

メルシボク! これはあなたもご存知のように古代ギリシアの哲学者プラトンが唱えた3つのイデアで、後にカントが具体的に展開しますが、ゴダールさん、私はあなたに、「世界一美しく、世界一真実と善に満ちたテレビCM」を作って頂きたいのです。

ダコー。お安い御用だ。「眞・善・美」は、映像表現はもちろん、全ての芸術に当てはまる普遍的なコンセプトだね。んで、肝心要のギャラはいくらかね?

日本円で、ぴったし1000万。

ブラボー! ブラボー! では大至急、いま貴君が提案されたCMコンセプトを体現したビデオを送りましょう。

驚くなかれ数日後、それはスイスのロールにある彼のオフィスから、本当に送られてきた。
再生してみると、「赤・青・緑の3原色」を横に並べたカラーバーが、無音で延々と映し出され、時折クールベ等の泰西名画がインサートされている、世にも不可思議な代物である。

が、それを見た東大の美学でピカソを研究した私の上司は、「ふむふむ、なかなか面白いじゃないか」、と、高く評価したのだった。

 

その5 映画「21世紀ウーマン」大略

 仏に逢うては、仏を殺し
 男に逢うては、男を殺し
 戦に逢ては、戦を殺し
 死に逢うては、死を殺す

強く、激しく、美しい女性が、この困難な時代の、最先端を切り開くのである。

キーウの女、リュドミラ。
母国ウクライナに攻め込んで来たプーチンの軍隊に家族を皆殺しにされた少女は、固く唇を結んで、目には目を、歯には歯を」じゃない復讐をすることを誓うのだった。

福一の女、ヒドラ
福島第一原発から太平洋に垂れ流された汚染水から誕生した新未来人類、ヒドラ。
別名は「女ゴジラ」。現代に蘇えったお岩が、最終的な世直しに挑む。

死都鎌倉の女、讃岐局
北条一族によって惨殺された、比企家の女の復讐の物語だ。大蛇となった比企能員の娘、讃岐局は、北条政村の娘にとりつき、比企谷の土中に引きずり込んで、いたぶる。

イランの国民的女優、タラネ・アリドゥスティ
反体制デモを支援したために逮捕されたイランのアカデミー主演賞女優。「女性・生活・自由」のスローガンで立ち上がった民草と共に、不撓不屈の反権力の戦いに挑もうとしている。

原宿の女、岡田茉莉子。
偉大な映画監督である吉田喜重に先立たれた日、女優は、毎晩夫と連れだって散歩した原宿の千駄ヶ谷交差点にしばらく佇んでいると、晴れた夜空に月が昇った。
赫奕たる満月だった。

 

 

 

妹よ

 

佐々木 眞

 
 

妹よ
お前は 私の懸命の追跡を あざ笑うように
北白川学園の 黄色い菜の花畑の 向こうを
手に手をとって 逃げて 行ったね

妹よ
お前は 希望を喪って 若狭の海辺を彷徨したが
まるで天佑のように 立ち直って
第2の人世を 歩みはじめたね

妹よ、
お前を 助けてくれたのは 運命のひと
限りなく優しい 寛恕の男が
限りなく弱い 迷える羊を 救ったね

妹よ
お前を 助けてくれたのは 聖マリア
限りなく優しい 慈愛のひとが
限りなく弱い 一人の女を 強くしたね

妹よ
お前は 死に至る病に 侵され
想像を絶する 苦痛に耐えながら 毅然として 逝ったね
その顔は まるで聖テレーズのように 気高く 美しかったね

妹よ
お前に また会う日まで さようなら
いつか どこかで
また会う日まで

 

 

 

冬河夜船

 

原田淳子

 
 

 

冬のうえのオーロラ
冬のしたに眠る春

吹く風は、銀色
冬は水の高さで横たわる
春が眠るあいだ
船は渡る

堕ちてきた氷はやがて
木々の芽に宿る露となる

降りしきる極小の光を潜り抜けて
髪は種子の白、
骨は灰と燃え、
船は最果ての地へむかう

眩しいほどに
冬は白に至る

 

 

 

詩人になりたい!?

 

佐々木 眞

 
 

久しぶりに、息子のケン君が、遠方の下宿から帰宅した。

晩御飯を一緒にした後で、グレープフルーツを食べながら、四方山話をしていると、とつぜん妻君が、「あなた死んだら、何になりたいの?」と尋ねたので、おらっちが即座に、
「生まれ変わって、詩人になりたい」と答えたら、彼女は眼を丸くして私をみた。

まるで、わたしという人物を、生まれて初めて見たような、驚きのまなこで、まじまじとみつめたのである。

「へえー、それで朝から晩までパソコンに向かっているんだあ。なるほど、詩人ねえ。詩人かあ」

息子は、「お父さんみたいな、ちゃらんぽらんな人間が、詩人になれるわけないじゃん。詩は、命がけで書くもんだよ」と嘲笑った。

そうか、命懸けかあ。なら、やっぱし詩人は無理かあ。
そんなら、今度生まれかわったら、蝶になろう。ギフチョウになろう。

春浅い郷里の里山で、食草のカンアオイを求めて、夢のように浮遊する超希少種を脳裏に想い浮かべながら、おらっちは、両の腕を、ゆるやかに羽ばたかせた。