michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

アイスクリーム

 

塔島ひろみ

 
 

のどかに走る京成電車の コトンコトンという音に揺られて
私は下車駅で降りそびれ うたた寝をしている
そのうえには
間違った青空が延々と広がり
陽当たりのよい川面の一角で
味のしみたカモたちが泳ぐ
気持ち悪い風が吹く
屋上にはアイスクリームの男がいる
見晴らしのいい屋上で
アイスクリームの男は 気持ち悪い風に吹かれながら
アイス(メロン味)を食べる
いろいろあったけど結局ふつうの 立派な大人になった男
成功した男 一人前でもう孫もいた
アイス(メロン味)を食べる
雲が垂れ下がり 落ちてきそうだ
このあたりで一番高かった屋上は 少し前5階建てのマンションに抜かれた
気持ち悪い風に吹かれながらマンションに抜かれ
気持ち悪い風に吹かれながらアイスを食べる
電車は武器を運んでいた
川は一旦火を止め カモに蓋をして再び強火に
男はそれを見ていない 見晴らしのいい屋上にいるのに川も空も電車も橋も人も鳥も見ていない
土手の斜面で麦わら帽子が花をむしりとり 雑巾のように並べている
バニラのにおい
アイスはもうすっかり溶けている
溶けたアイスを食べている
どうしてアイスを食べるのか
気持ち悪い風に吹かれながら
なぜマンションに抜かれた屋上でわざわざアイスを食べるのか
私はどこかで誰かを殺すために 京成電車に揺られて 眠っていた
屋上が段々遠くなる
いくつかの不快な出来事も今思えば必ずしもマイナスではなく
少しだけ憧れたお笑い芸人(お笑いの素質があった)にはなれなくても
家を建て替えて屋上付きにするぐらいの大人になった
アイスクリームの男 誰も知らないここだけの男 間違った空の下で気持ち悪い風に吹かれる男
さようなら
電車は単調な音を立てて武器を運ぶ
コトンコトンコトンコトン どこまでもどこまでも運んでいった

 
 

(5月某日、高砂1丁目中川近くで)

 

 

 

異空間

 

たいい りょう

 
 

ノルアドレナリンの夢
砂時計の中庭
どこから来たの?
あなたは 魔女?
窓際に 放たれた 石膏像
鏡に のっとられた クローゼット
黒い滲み
白いこころに こぼされた
無意識
異空間
マヌカンの踊り
声なき無機質
ふるえる 地面
わたしは
夢から覚めた

 

 

 

366日 ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 72     misaki さんへ

さとう三千魚

 
 

花の
後に

さくら

葉を
伸ばす

薄緑の葉を
伸ばす

365日
生きて

366日目を生きる

花の
後に

葉を伸ばす

やがて
紅い実をつける

 
 

***memo.

2024年5月25日(土)、
静岡一箱古本市の日に水曜文庫での即興詩イベント、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」第二十五回で作った72個めの詩です。

タイトル ”366日”
好きな花 ”桜”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

色 ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 71     ayako さんへ

さとう三千魚

 
 

ラナン
キュラス

きいろ
うすみどり

オレンジ
ももいろ

咲いていたね
わたしの花

抱き
捧げる

 
 

***memo.

2024年5月25日(土)、
静岡一箱古本市の日に水曜文庫での即興詩イベント、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」第二十五回で作った71個めの詩です。

タイトル ”色”
好きな花 ”ラナンキュラス”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

サワガニ ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 70     miyuki さんへ

さとう三千魚

 
 

山と山の
あいだに

沢が
流れている

沢は
川になる

沢は
海になる

沢には
サワガニがいる

虹色の泡を
吹いている

山紫陽花も咲いている

 
 

***memo.

2024年5月25日(土)、
静岡一箱古本市の日に水曜文庫での即興詩イベント、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」第二十五回で作った70個めの詩です。

タイトル ”サワガニ”
好きな花 ”あじさい”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

桜譜の風に

 

藤生すゆ葉

 
 

氷と氷が触れ合うと
木枝が波をうつ
空と地面が触れ合うとき
人はそれを雨と呼んだ
ただひたすらに降り注ぐ透明は
一つの線となり
一枚の五線譜のように

丸みを帯びた淡いピンクは
音符になって流れていく

交わり離れて この一瞬をよろこぶように

遠くの傘は風に形をうつして
いつか羽化するのだろうか

青にピンクが重なる昨日は
今日を知っているのだろうか

 

いつもの景色は記憶を好んだ

雨音が記憶の ため息 にかわるとき
その透明は 寂しさを纏わせる
誰にも気づかれない色
そっとそばに寄り添う色

手に触れる散りゆく花びら

 

記憶の片鱗を呼び起こし
やさしい もの を 
あたらしい旋律を

繋がれた色玉の反射は
今も続いている
今も

知らぬ間にできた歪みの記憶すら
愛せるように

そう口ずさみながら
かろやかに風は吹いていた

 

 

 

雨の夜、
子鹿のいるところ ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 69     utano さんへ

さとう三千魚

 
 

子鹿がいる

子鹿のいる
ところに

ハルジオンも
いる

咲いてる

雨のよるに
咲いて

いる

会いに
いく

 
 

***memo.

2024年5月25日(土)、
静岡一箱古本市の日に水曜文庫での即興詩イベント、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」第二十五回で作った69個めの詩です。

タイトル ”雨の夜、子鹿のいるところ”
好きな花 ”ハルジオン”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life