あきれて物も言えない 01

 

ピコ・大東洋ミランドラ

 
 


作画 ピコ・大東洋ミランドラ画伯

 
 

いい男は信用できない

 

このまえの夜、
高円寺のバー鳥渡で飲んでいたら、
離れた席からピコ・大東洋ミランドラ画伯が隣の席に座って、
わたしの似顔絵を描いてくれた。

なんだか下ぶくれしたメガネをかけたおじさんが描かれている。
わたしなのである。

あきれた。

似顔絵なのにこんなに正直に現在のわたしを描くのであるか!
この画伯には礼儀というものがないのか!
もうちょっとロマンスグレーの素敵おじさんに描いてよと内心では思った。

だが、もう生涯ない。
否、しょうがない。

安い東名高速バスで港町から出かけて来て、
深夜に高円寺の飲み屋でクダを巻いて新宿のカプセルホテルに泊まろうとしている、
ダメダメなおじさんなのだ。
酒を嫌と言うほど飲んで安い焼き鳥を食って知らず知らずに下ぶくれのおじさんになったのだ。

さて、隣に座った画伯は、
なんだかにんまりとしてチャーミングである。

可愛いというのかな、憎めないというのか、
バカな奴というのか、
どこか少年のままというのかな、
そんな画伯なのだとわたしは睨んだのだった。

それでなにか一緒にやろうよとわたし、言った。
セクスとかじゃなくて、
も少し、疲れない、楽しい、なにかを画伯とやろうと思った。

で、
画伯に「あきれて物も言えない」というタイトルで絵を連載で頂戴して、
わたしが絵の解説を書いて、
浜風文庫に連載かなと思いました。

「あきれて物も言えない」という状態にはわたしは日頃あまりならず、
だいたい「ふ〜ん、そう」と思ってしまうタチですが、
「あきれて物も言えない」苦手意識を克服しようと思いました。

ですので、
意外と、
当たり前の当然について「あきれてしまう」ことになってしまうのではないかと心配しています。

最近では、
福島の除染で集めた汚染土を農地造成に再利用するとか、
廃炉に外国人を使うとか、
厚労省の年金運用が昨年の10月、11月、12月の三ヶ月で14.8兆円の運用損を出したとか、
この国の副総理・金融相が都合が悪い審議会指針を受け取らないとか、
その本人が自分の年金の受け取りがどうなっているか知らないとか、
米国の大統領は根拠ないがタンカーを攻撃したのはイランだと決めつけたとか、
普通にあきれてしまうこともたくさん聞こえて来てしまいます。

世の中、狂ってる、と、思います。

狂った大人たちがやってることを子どもたちは見ていると思います。
それで子どもたちも、あきれていると思います。

さて、話をもとに戻します。

昨日の深夜、
荒井くんと長電話したのでした。
荒井くんは、三十年来の、わたしの数少ない友人の一人です。

世間のこととか、美術のこととか、友だちのこと、などを話したのでした。
で、作家の話になり、
小川国夫さんのことに話が至ったときに、
いい男は信用できないと、荒井くんは言いだしました。

静岡だったら小川国夫じゃなくてブ男の藤枝静男だろう!と荒井くんはわたしに言いました。

ほう!
と思いました。

荒井くんは固く信じて言っているのです。
小川国夫ではなく藤枝静男なのだ!
ブ男の藤枝静男を激しく推挙する根拠がどこにあるのだろうか?

わたしは、ほう!と、
絶句し、
あきれたまま別れの言葉もおぼつかなく電話を切ったのでした。

 

作画解説 さとう三千魚

 

 

 

人とそのお椀 04

 

山岡さ希子

 
 

 

横座り 椀が手から離れて背後にある 左手をひねって掴もうとしている あるいは掴んでいたが 離れてしまったのかも 
椀の方を見ようと 頭を傾げて 俯いている
右手足は不明 右手はたぶん床につき 体を支えている 右足は投げ出されているだろう 苦しい体勢

 
 
 

人とそのお椀 03

 

山岡さ希子

 
 

 

膝まづいている 少しだけ中腰 腹筋に力が入る 左手で左足首を掴みバランスをとっている 
椀を右手で持つ 肘を腰に当て 親指を椀の内側に入れ 手の平で掴むような持ち方 右膝にのせている 
両乳首はツンと立ってる
俯き加減 首が太く見える なで肩である

 
 
 

人とそのお椀 02

 

山岡さ希子

 
 

 

足は揃えている 転ばないのが不思議なバランス 倒れかかる 風に揺れる あるいは浮いている 飛んでいる 落ちるところ 
椀を口にしている 飲むため それともハーモニカ 両手でしっかり支えている 音が漏れている ズルル 水 お茶 酒 お汁粉 吹く プワー ポーワー

 
 
 

人とそのお椀 01

 

山岡さ希子

 
 

 

立っている 少し背伸び 足は揃えている 転ばないのが不思議なバランス スエットのようなものを穿いているかもしれない 足が小さい
片手で椀を持つ 親指でしっかり支える 手は大きい
椀を見ている 水が入っているかもしれない 水に映った顔を見ている