300分

 

爽生ハム

 

 

腹痛だ
記憶の雨にうたれて
また腹痛だ
凍るバイクにえぐられた
それに近い全滅なのか
雨が入ってくる
にゅうこ 気づく にゅうこ にゅうこ触りで
のけぞる 見えたままの記憶
君の時間が見える
暮らしが灯る
腹痛の底になにかいる
優しく愛でた私の露悪が
汚い言葉ではない
いつものお茶のように
煎れて出して
君が作った飲みものだ
君が作った人がいる
私のような私がいる
暮れて産科を学びだす
凍るバイクにまたがった君が去ってゆく じとじとと投げだされた
ミルクと実技
きっと放心した被害の立像で降ろされる
呂律が怪しいならピン留めして
その言葉だけを喋ればいい
言葉が必要なら本物の言葉を返せばいい
ここまでにしとくか
キツく締まった娯楽に殺されそう

 

 

 

@150410 音の羽  詩の余白に 3 

 

萩原健次郎

 

 

DSC04927

 

白梅が塵のように架かっている木のそばを通り過ぎました。いつだったか、父に手を引かれてこの道を歩いたことを思い出していました。きょうと、同じ季節。白い塵が、老木のぐにゃぐにゃした枝ぶりの輪郭を隠して、遠くから見ると木の全体に靄がからまっているみたいでした。
父が死んだのが、十年前だったか、五年前だったかはっきりとわからなくなるときがある。何年か前の春先の、できごと。
すこし日がたつと、ここからすぐ近くの椿の群生地が燃えたように炎に染まる。
私は、父の娘と思う。
白梅と真紅の椿と、引かれた手の温もりと。
ふたいろに、塵———-色彩の魔が吹かれる時間、
曼殊院から、まっすぐに伸びている道は、住宅地を貫いている。この道は、叡山から流れ落ちてくる雨水の束だろうと思う。きのうは、紅葉で、きょうは、白梅、あしたは、桜花が舞い、すぐにまた蝉しぐれにつつまれるみたいに、私の時間の感覚は、どうかしていると、記憶が頭の中で混在して、まるで眼前の塵と同じなんだと、感じている。
感じていながら、この光景に抱かれたり、あるいは、時にこの光景に裸体の私の身体のすみずみが見られているように錯覚している。
ああ、あの雪が横殴りに顏面を、ひゃひゃと叩いた日のことを思い出した。
それから、凍てついた池に落ちていく夢。鯉が全身を舐めていく。くすぐったい感じが濃くなってくると息苦しくなって、その苦しさに溺れる気がして、目が覚める。
助かったと覚醒したときには、同時に鳥の鳴き声が聞こえてくる。抱かれ、見つめられているこの光景も、命の犇めき合う、隙間のない器のようで、私はそうか、そこに密閉されているにすぎない。
ほんとうは、色彩や音楽に窒息しそうになっている時間が、生きていることで、音羽の川は、ただ喩えとして山から、宅地にまで貫いている。
私は、梅の木の下にいました。
死んだ父の手のぬくもりが、光景に線を描いて、天からの穴がここまで差してきて、ストローの管を伝わり私の口へ息を送ってくれる。胎盤で通じているなどと思うのが、可笑しい考えだとすぐにはわかるけど。
雑音とは、ほんとは、混じりっ気のない純音で、真空で、
その音を嫌な感じで聴いている。

 

 

 

雑巾の歌

渋谷ヒカリエで「I’m sorry please talk more slowly」展をみて

 

佐々木 眞

 

IMG_4686

 

寒い寒い冬の夜
目の前に雑巾を置いて、
そいつをじっくり眺めてみよう。

すると突然雑巾が、なにか、ぶつぶつ言い始める。
「I’m sorry please talk more slowly」
すると雑巾は、おのれについて、ゆるやかに語り始めるだろう。

「ホラホラ、これが俺の骨だ。これが俺の肉だ。
これが俺のはらわた。俺の脳髄。これが俺の肌の色。
これこそが俺の実在なんだ」

頭巾の奴は、次第に雑巾野郎としての本質を露わにしてくる。
雑巾は、雑巾としてのレエゾン・デートルを、
静かに、しかし、力強く主張しはじめる。

雑巾をじっと見つめると、それは美しい。
雑巾をじっと見つめると、それは侵しがたい。
雑巾をじっと見つめていると、それはひとつの宇宙だ。

雑巾は、もう誰にも「たかが雑巾」などとはいわせない。
なぜならそれは、吹けば呼ぶよな家政婦よりも、したたかに存在しているから。
いまや雑巾は、長らく人間どもに浸食された主権を、奪還しつつある。

寒い寒い冬の夜
キャンバスの前で画家に描かれている雑巾は、だんだん雑巾ではなくなってくる。
雑巾が、雑巾ではない何か、雑巾以上の何者か、になってくる。

画家は、それをありのままに、油絵で描いた。
すると雑巾は画家に感謝して、「健君ありがとう」と言ったので
画家は「どういたしまして」と答えてから、筆を置いた。

 

 

 

buy 買う

 

いちどだけ
買った

まだ
若いいころ

九州の
八代かな

街に美少年という看板がたくさん
掛かっていて

雨の夜の
街の片隅でばあさんが

手招きしていた

それで
女を買いました

あれは女なのかな

昨夜は
バッハのアダージョを聴いて

寝てしまいました

 

 

 

weekend 週末

 

週末は雨だった

海をみた

そして
still lifeという

映画をみた

主演のエディ・マーサンが演じる男が
孤独死した者たちを

丁重に
葬儀で送る

という
物語だった

こだまは
東京駅に着いた

5号車で

バッハのアダージョを
聴いてきた

 

 

 

なあんも要らへん

 

佐々木 眞

 

 

世を呪い、わが身を呪いながら
苦しい息の下で、老人は叫んだ

要らん、要らん、なあんも要らへん
金も、女も、ダイヤも要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
ごめんで済んだら、警察は要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
ムクさえおれば、犬は要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
羽田があれば、成田は要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
新幹線があるから、リニアは要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
中古があれば、新築は要らへん

要らん、要らん、なあんも要らん
田中がおるから、黒田は要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
谷風雷電甦るから、モンゴル横綱は要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
マルクスがあるから、ピケティは要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
九条があるから、軍隊は要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
戦はせんから、基地など要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
真昼を暗黒にするから、自民は要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
岸、佐藤で懲りたさか、安倍は要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
イランもシリアも「偽イスラム国」も要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
ロシアも、アメリカも、日本も、中国も要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
あんたも、あたしも、みーんな要らへん

要らん、要らん、なあんも要らへん
要らん、要らん、だーれも要らへん

世を呪い、わが身を呪いながら
一人の瘋癲老人が、いま息を引き取った

 

 

 

脱水しそう冒険しそう

 

爽生ハム

 

 

鎮魂がとっぴな組合の労働と等しくなった。
労働というのは時間がかかるもので、月光を待つまで働くこともできる。
私もそこに参加し、崇高な思い込みに辿りつく。
ひとつのプレイでふたつの鬱憤。
何億回のプレイで妊娠漬けが盛られる。
「勝手に流れましたね」詫びるために降りた駅で、私のみ、性欲に、うすら笑いを浮かべる。
時間の使い方が飾られている。
ふと、Hな気持ちが溢れそうでしたので、急いで凧をあげた。
遠方はるばる、凧をあげにきたのかと錯覚した。
空だった、いつのまにか、そこは空と呼ばれていた。
明るみの夕暮れを背に、遊覧ごっこしてしまう。
そこは、そのまま夜だったかもしれない。
商店街を歩く、風がそよいでる、魚拓を拾う。
なんだ、魚市場か。
凧もまだ空にある。
人が通り過ぎて愛撫ごと、その風が、私の魚拓の淵をさする。
聞く、私に似ているよ君は、「パレードについて知っていたら、教えてください」
私は詫びたくはなかった。
伝えたかった。
吐露で謝りたかった。
歩く人の道を照らす、パレードは中止だ。

 

 

 

光の疵  見る人

 

芦田みゆき

 

 

R0007373-1

 

20分待ちで乗り込んだエレベーターは混み合っていた。箱の中では聞きなれない国のことばが行き交い、笑い声が沸き起こる。ドアが開き、あたしは空中202mに放り出される。人人はあちこちへと散っていく。

雨上がりの空は不機嫌で、情感的なうねりをあげている。窓の外は一面、地図のように平たい街。8割方が外国人観光客で、彼らはみな、ガラス窓に張り付くようにして写真を撮っている。大きなカメラで、コンデジで、スマートフォンで、自撮り棒で、一人で、カップルで、団体で。
あたしは、その姿を見ている。

 

R0007424-2

 

R0007389-3

 

R0007403-4

 

R0007426-5

 

R0007448-6

 

夜が寄せてくる。

空が重く重く降りてきて、街は黒く染まり、夜光虫のように発光しはじめる。
ゆらゆら往来する光。
じっと滲んでいく光。

ここは海のようだ。

波が打ち寄せられる。地球の一部分である岸辺に。
見る人の瞳に拡がる無数のコラージュ。
シャッターを押すたびに、地図上に増殖していく印。
瞬きのたびに、滲み、消滅することばの破片。

 

R0006023-7

 

可能性の海の波間から、突如、物質の粒子が形を結び、あたしは高層ビル45階の喧騒に引き戻される。建物の中心には、色とりどりのおもちゃが売られているが、子供たちはみな、疲れて床に座りこんだり、ベビーカーで泣きつかれて寝てしまった。

あたしはふたたび小さな箱に乗り込む。そして、よく知った街の表皮へと降り立った。