baby 赤ちゃん

ロシアの大地が見えてくると
以前に書きました

リヒテルが弾く
遺作の第2楽章を聴いていると

ロシアの大地が見えてくるのです

悲しいのではないんです

赤ちゃんが
いるんです

概念ではなく

赤ちゃんなんです
わたしの赤ちゃんがそこにいるんです

 

 

bridge 橋

美しいもののそばを
神は通り過ぎた

美しいヒトのそばを神は通過した

磯ヒヨドリが
鳴いていた

カモメが空に浮かんでいた

橋を架けなさい
橋を架けなさい

ものの消えた場所に橋を架けなさい
ヒトの消えた場所に橋を架けなさい

無い橋を架けなさい

 

 

pond 池

マリア・ユーディナの
平均律クラビーア曲集第22番を聴いている

繰り返し聴いている

与えられたのだった
与えられたいのちを受ける者の歌だった

池に
波紋がひろがっていた

純粋身体の声にならない叫びだった

波紋がひろがっていた
池に波紋がひろがっていった

 

 

point 指さす

昨日は
浅草のしぶやで飲んだ

荒井くんは
白子ポン酢をうまいなといって食べた

それから荒井くんの
駒形の新しいアパートまで歩いた

荒井くんの部屋では
ボーズのスピーカーで戸川純を聴いた

また恋したのよと歌っていた
生きてる意味なんてないのよと歌っていた

 

 

trust 信じる 信用する

磯ヒヨドリは
なにも持たないだろう

カモメも
なにも持たず翼をひらくだろう

流転のなかで
そのヒトは逝った

そのヒトは流転そのものとなった

御影石に
薔薇と秋桜の花を刻ませた

田圃の向こうに生家がみえた
青空にぽかんと白い雲が浮かんでいた

 

 

 

supper 夕食 晩餐

昨日は
加藤さんと会食しました

加藤さんは
美しい

加藤さんには男の汚れがみえない

能を愛する
クラシックを愛する

たぶん奥さんも愛する

加藤さんと
ぼたるさんのことを話しました

最後に神田の改札で見送りました
片手をあげて加藤さんは帰っていきました

 

 

arrive 着く

今朝
夢から醒めて夢のなかに目覚めた

シロツメクサが咲いていた

花の名を呼んだ
花の名を呼んで泣いていた

美しい少女だった

それさえ幻影なのか
少女は相対的には美しかったと

雲雀が鳴いていた
空高く雲雀が鳴いていた

雲雀は見えない声で鳴いていた

 

 

stay とどまる 滞在する

名を呼ぶ

花の名を呼ぶ
流転のただなかで花の名を呼ぶ

タマスダレの
白い花が咲いていた

片隅に咲いていた

その花をとどめなさい
その花をとどめなさい

花の名を呼びその花をとどめなさい

胸を裂き花の名を呼びなさい
胸を裂き花の名を呼びなさい