終の棲家(Home,)

2023©Cloudberry corporation
 

今井義行

 
 

僕の、終の棲家は、何処だろう…。
僕は、いま、グループホームで暮らしています。
そこは、ほぼ新築マンションで、25人が、1DKの、個室を与えられています。
此処は、精神疾患者の集合体。光のような部屋で、僕は、いま、とても幸せです。
くるう、とは、くるいきれない、こと。
その日々に、生活支援を受けて、お買い物代行をして頂いたり、入浴支援を受けて、お風呂に入れて、頂いたり。
でも、このグループホームは「通過型」と言って、3年経ったら、出て行かなければならない、の…。
そうしたら、新しくアパートを、探さなければ、ならない、の…。
僕の、終の棲家は、何処だろう…。
グループホームに入居する前の、アパート暮らしは、苦々しかった。太陽が無かったし、畳は、ささくれだっていた…。
そんな中で、僕は、病んで、入退院を繰り返して、しまったのさ。
入院生活は、管理されていて、とても悲しかった、よ。
……生活保護法では、月限度額53,000円の住宅扶助が、支給されることに、なっております。
高いか、安いかは、当事者の感性に
よるのかも、しれない、ね。
でも、グループホームに比べたら、確実に、住環境は、落ちる、の。
僕は、自己破産しているから、審査に通りづらい、ブラックリストに、載ってしまって、いる、の…。
だから、僕は、自分で、住環境を、探し求めて、いかなかれば、ならない、の…。
北向きの部屋にも、光あれ!屋外洗濯機置き場にも、光あれ!そこが、フローリングでなくとも、光あれ!
…………………………。
時には、娼婦や男娼が出入りできるような、清らかな世界を創造できていくと、良いなあ!

 

(2024/03/17 グループホームにて。)

 

 

 

結婚(Life,)

2023©Cloudberry corporation
 

今井義行

 
 

わたしは、大谷翔平さんの、妻に成りました。
そして、わたしは、大谷真美子に成りました。
そして、わたしは、ぼく。ぼくは、明け方まで、翔平さんに、抱かれていたいのだ。
それは、時代錯誤、でなく、
ぼくは、翔平さんに幾度も幾度も射精されて、子どもを孕みたい。
一生を棒に振ったりなどしないで、
わたしは、翔平さんの肉体の為にも、人間のじんせいを終えて、
そうして、ぼくは、仏に、成りたいのだ。

 

(2024/03/16 グループホームにて。)

 

 

 

つぶやきのなかに、説明のなかに

 

ヒヨコブタ

 
 

しんと響く文章を書くひとがいる
それは重さを感じるときもある
このつぶやきの世界は断じて腐ってはならぬと願う
腐ったことばがならぶのは断じて
とひとりで熱くなりもする

とあるばしょで外国製の物の説明書きからその国のことやその歴史にひきこまれて夢中になった
その対象そのものももちろんだが、書き手の情熱が伝わってくる喜びがある
他者はさまざまに人生を重ねているのだ
考え方や身につけたものから教わることにわたしはどんどん向かっていく
それが趣味の世界であっても
物について興味深く思うより、さらにことばの世界にひきこまれるというのはわたしにとっては幸せだ
他者から教わるということはとても興味深く面白い
それは本のなかだけではなかったのだ
これからあとどのくらい探しめぐりあえるだろう
楽しみに思っている

 

 

 

また海を見にいく

 

さとう三千魚

 
 

今日も
見ていた

波は打ち寄せていた

小雨のなかを
しらす漁の船が出ていた

ふたつの船に
網を渡してしらすを掬いあげる

しらすは

生きているとき
透明な

鰯の子だ

帰りに
セリアで

空色の食器洗いのスポンジと
ピンクのマイクロファイバーの布巾を買ってきた

部屋では
リュビモフの弾く平均律を聴いている

広瀬さんから
メールが届いていた

今夜も飲むかもしれない

昨日も
駅ナカの店で

詩人たちと芋のお湯わりをのんだのだった

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

二足歩行のブルース

 

工藤冬里

 
 

俺は腹に何かを詰め込んで彷徨っているゆうれいにすぎない
見上げる一様にうすあかい夜空に月は見えず
単発の大喜利で歩を進めているだけだ
祈ればいいんだという声が聞こえ
未来の俺は祈っているが
それは遠い過去のようだ
分断がそこまで来ていて
本は最強決定戦のみとなった
嘘くさいだろ、嘘くさいだろ、という横風を受けながら
踵に集中している

 
シオン

とうとうふたりだけになってしまった
きみどりと茶色だから古生代ぽいのだろう
その木からシオンに線を引いて
心臓を経由させると
いくつかの電波は情を点滅させる
黄みどりと緑と茶の混じった全体は日没に向けて暗くなってゆく
親子の情を基本に据えた世界が今日も暮れようとしている
従順によって今では可能になった
シオン霞ヶ関で働いている
グローバリズムに植え付けた願望?
暮れていった 暮れていった
日本が最初に暮れていった

 

 

 

#poetry #rock musician

ひやっと7月

 

辻 和人

 
 

コミヤミヤの目探す
キュヨロキュヨロ
こかずとんの手伸びる
ゴゥウルゴゥウル
掴めない
でも、いる
通りすぎていく
体全体撫でていく
今は

暑さ真っ盛り7月半ば
赤ちゃんの体温高い
赤ちゃん汗っかき
暑くて暑くて
口歪んでふぃぇーっふぃぇってなっちゃいそう
そうだ、確か戸棚にあったはずの

商店街のお祭りでもらった団扇
あったあった
爆発しそうなコミヤミヤとこかずとんの上空から
ホゥオッホゥオッーーッ、ホゥオッホゥオッーーッ
力いっぱい扇げば

コミヤミヤこかずとん一瞬静止
見えない掴めない
けど汗で濡れた髪の毛
ひやっと蹴散らしていく
真っ赤になった頬っぺ
ひやっと引っぱたいていく
探した目ひやっとなぶられる
伸ばした腕ひやっとはたかれる
捕まえられないのに
圧力がある
ひやっと圧力
お腹からくる
腋からくる
腿からくる
ひやっとくる
何だかわからないけれど圧力ある奴が
コミヤミヤとこかずとんの肌から熱を奪い去っていく
これでもか
ひやっひやっと奪った先に

えふっえふっ
笑ってる
かずとんパパが手にしたうっすいひらひらしたモノが
宙をジグザグに踊る
圧力ある奴がひやっと飛んでくる
そいつ、誰?
探しても伸ばしても確かめられないけど
そいつ、いる
ひやっと遊んでくれる
こかずとんもコミヤミヤも口あんぐり開けて
確かめられないそいつの飛来、喜んでる
かずとんパパ、ちょっと腕が疲れてきたけど頑張るぞ
ホゥオッホゥオッーーッ、ホゥオッホゥオッーーッ
暑さ真っ盛りひやっと7月

 

 

 

役者の恋

 

長谷川哲士

 
 

紙で作った靴穿かされて
車に無理矢理乗せられて
ドライヴドライヴハイスピード
紙の靴なんて牛乳パック改造よ
臭くてぬるぬる
奴は此処で降りて歩いて行けと
言い腐った深夜のウォーキング
どこかで肉を焼いてる匂いがするよ
どうやって歩けと
行く先は何処なのだ苦しみはとこしえか
破れた靴で歩いて行く
ずるずる足の裏まですぐそこだ
底が消失した靴で荊道なんざ歩けませんよ
おい何とかしろよ
噛みつき不倫で悪いか俺名役者だぞ
あなたに恋をしただけだ
会社まで辞める必要はないよ
もう何年続いたのかな
お前熟女キャバクラで働くまでになり
俺は国宝役者のままフカッとした絨毯の上
ふらり六方踏むだけよンベンベンベンベンベンベンンッ
ぅよおおおおおっ
道ならぬ恋なんて有る筈も無くなんて勘違い
意識は飛ばされ未完の渦巻き星雲に
チューッと吸い取られ
僕俺儂と出世魚の如く一人称を変容させて
挙句の果てには儂から鷲への突発変容
遠くの空越え突き抜けて高速最高速最々高速
摩擦熱摩擦熱熱いよう
発火しながら飛行する鷲
入れ物の無い意識は笑いながら鷲と合一しようと
速く速く燃える飛ぶ追い越し合うふたつ
塵芥に成っても成りたくなってもどっちゃでもいい
とにかく行く
宇宙が見える
目ん玉の風景
両手の小指のみ震えているぷるぷる

 

 

 

拝啓大統領閣下

 

須賀章雅

 
 

拝啓閣下、親愛なる大統領殿
君と私は旧くからの友達だった
まだ頬も薔薇色の若造の頃から
大学でも任地でも一緒だったね
閣下、君は覚えているかい、ドレスデンの酒場での愉快な夜を
泥酔した私に君が肩を借してくれたあの夜を
あの頃の君はお喋りで冗談好きの目立たない諜報員
だが万事すぐに覚えて決して忘れない男
やがてベルリンの壁は壊され連邦は崩壊
一時はタクシーのドライバーで糊口を凌いでいた君は
やがて長官として腕を振るい始めた
その頃から閣下、親愛なる大統領殿
君の指令のままに私は一手に汚れ仕事を引き受けてきた
それから君は副首相から首相
そうしてついに昇りつめたのだ
この大国の王様に、大統領にね
私にしたって夢をみているようだった
度々起こる反乱も命の犠牲など微塵も省みず
「厠の中でも皆殺しにする」と
流血で制圧し強さのプロパガンダで君は民衆の支持を集めてきた
密命のままに私は活動家や女性記者、政敵や新興ブルジョワ等々
あまねく殺めつくし、容赦なく獄に投じてきた
そうして閣下、親愛なる大統領殿
この度の特別な軍事作戦開始以来
またまた君からの拝命のままに
君の秘密を知りすぎた人物達を次々亡き者にしてきた
しかしである、君の裏面を知り抜いている者といえば
この旧友の私に優る者はいないだろう
最近雇った家政婦も怪しいものだ
今夜のスープは毒入りだったのかもしれぬ
どうも先ほどから息苦しいのだよ、ところで
いま君に、友人はいるのか
いま君の、浮腫んだ微笑の下の心臓はシベリヤの監獄の壁より冷たいだろう
いま君の、蒼ざめた血液は冬の凍ったモスクワ川の水より冷たいだろう
家族と愛犬以外に隙をみせない君は
「人はいつか死ぬものだ」と
狩り集めた兵士の母親達に諭したという
閣下、親愛なる大統領殿、確かに
人は皆死ぬ、時が来れば必ず死ぬ
だが死と太陽は直視できないという
君は不死の霊薬を発明させる気なのか
瓜二つのAI人形を代役にする気なのか
どんな夢も永遠に続けば地獄と化すという
そろそろ私の終りの時が近づいてきたようだ
若くして逝った妻と逢えれば幸いだが
でもそれには悪いことをやり過ぎたようだ
さようなら閣下、親愛なる大統領殿
そろそろここらでお仕舞にすることとしよう

 

 

 

 

廿楽順治

 
 

声をだしながら
背後をあるいているひとはこわい

耳だけのものが
足下にいて

聞き取れなかった声を
(うまい、うまい)
と舐めているのかもしれない

声をだしているそのひとは
つまり
遠くにいるべつの「わたし」だ

(そうか)
会話だからこわいのか

「わたし」になれなかった
うしろの生きものが

舐めるように
かかとへ話しかけてくる

 

 

 

遠吠えするようになった猫

 

原田淳子

 
 

 

どっどど
と風が唸るとき

ふあんふあん
発作のように胸が疼く

きみと丸くなり
嵐が過ぎ去るのを待つ

ふあんふあん

あれは葉が揺れているだけ

ふあんふあん

かなしみが泣いてるように聴こえるのは

ふあんふあん

わたしの哀しみのファンが回っているのだろう

わたしのふあんが漏れたのか、
きみはさいきん、遠吠えをするようになった

あおーんあおーん

猫であることを忘れたように
あおーんあおーん

わたしがみえなくなると
難破船のように部屋を彷徨う

あおーんあおーん

あいごうあいごう
애호애호

猫の認知症があるという

きみをひとり哀号の船に乗せないように
わたしはいつもきみといよう

嵐のあと
窓をあける

風を残した
隣の畑にアラセイトウが揺れている

春だよ

18かいめの春だね

もうすこしで
地めんもあたたかくなる

きみはいつまでも
陽ざしのなかにいて