佐々木 眞
チンチンモガモガ
Winding Sheet は死体を包む白い布という意味
窓の外を雪がひっきりなしに降る30丁目の教室で知った
小説の中で黒人の妻は黒人の夫に向かって笑顔で言う
白い布に巻かれたハックルベリーの果実みたいだわ、と夜勤明けの午後
授業が終わり外に出る乾いた雪が吹き上げ巻きつく擦れ違う
一晩中重い荷物を運び続ける夜勤に向かう男とたぶん
ホワイトアウトした坂の上のスノウドームの中には
お城のように大きなデパートが浮かび上がる
黒人の店員にエクレアひとつおまけしてもらうカタジケのうゴザイマス
たくさんの人が行き交うグランドセントラルターミナルを通り抜けるアパートに帰る
甘すぎるエクレアを頬張りながらコメディドラマを見て大声で笑う
本日の為替レートをチェックする今日も円高 ※3
アリガタキ幸セな日々は早や刻限なりて
飛行機で海を越え深く西に落ちていく帰国する
ニホンへ生まれた国へ
沈んでいく
ニホンhitoはいつも大勢で集まっている座っている立っている
ハグしてコンニチハ アクシュ、アクシュ、
ハグしてサヨウナラ アクシュ、アクシュ、
コンニチハもサヨウナラもニホン語なのに疎外される
アメリカjinと言われてしまうアッシはニホンjinでゴザイママスdesu
すぐ触りたがるとか男好きだとか女好きだとか罵られるただの挨拶でゴザイマスdesu
ハグって親愛の証なのでゴザイマスdesu
すごくあたたかくて安心するのでゴザriマスdesuデス
ひどくみじめになってニホンhitoがたくさん詰まっている乗り物が怖くなって
足を引き摺りながら駅までの道をバス停6つぶん歩いた夕方
大きな自動車工場の横を通り過ぎる擦れ違うたぶんここでも
小説の中の男は並んでいたのにコーヒーを買えなかった売り切れたと言われて
足を痛めている足を痛めている足を痛めているのに
仕事を休めない一晩中重い荷物を運び続ける夜勤に向かう痩せたガイコクjinとすれ違う
お気をつけナサッテクダセェYo!
晴れのちセシウムときどき曇りストロンチウムのちセシウムのニホンの空
助けてくださいわたしばかka?
ごめんなさいka?
わたしばかka?
助けてください
このヘルプ傲慢でゴザルぞ傲慢でゴザルぞ
初の黒人大統領はその肌の色ゆえ苦戦が強いられている
決死の覚悟でゴブレイセンバン小田急線に乗り込むニホンhitoの渦に巻き込まれる
このわたしのみじめさなんてヤクタイもない誤解なのか
ユーチューブで理由もなく殺された黒人少年を悼む大統領の演説を聞く
地下鉄の入口で並んでいたのにコーヒーを買えなかった黒人の男は
妻を殴り続けながら白く絡み付くWinding Sheetの罠に落ちていく
電車を降りる歩くWinding Sheetの裾を引き摺りながら帰宅する
思考がぐるぐるする空回りするから思い切って
逆回りに回って回って
Winding Sheetを引き剥がす
ふいにグランドセントラルターミナルを行き交うたくさんの人々を思い出す
絡まる解れる絡まる解れる広がる広がる
空にはスーパームーン輝け広がれ
すべてすべてを暴き出せ
Yo!……おヌシ、
書け、わたし輝け
※1 Ann Petry著 小説“Like a Winding Sheet”からの引用あり
※2 初出・同人詩誌「モーアシビ」30号
※3 わたしがニューヨークに滞在した2011年1月~2013年1月の2年間は1ドル=80円前後をずっとキープしていた。
タウナギ「ん、なるほど、あの西本町の四つ角の下駄屋の当主の孫で、いま鎌倉は尊氏一族の菩提寺、浄妙寺の近くに住んでおると聞くケンちゃん、そのケンちゃんに助けを求めよとアポロンの神託が下ったのじゃな」
Q太郎「さよう、さよう。その通りじゃ。それゆえ拙者早速一計を案じ、雨宮健氏に面会してわれら全由良川淡水魚同盟の前代未聞の危機を救ってくだされと、わが一族のうちもっとも機敏にして細身、修験道と立川流免許皆伝の持主たる愚息、豚児たるオタクのQ太郎を急遽鎌倉浄明寺の谷戸に派遣したのが、ざっと3週間前。はてさてその首尾はいかにと。よき便りを待ち暮らしておるのじゃ」
タウナギ「そうか、そうか、そうだったのか。いや、そうじゃった、そうじゃった。わしも寄る年並みで忘れるとこじゃった。さあ、みなの衆、ケンちゃんの無事到着を祈念して、みなで声を合せて、我らがテーマソングたる由良川音頭を歌い、踊ろうではないか!」
得たりや応、とみなの衆が立ち上がると、手拍子をとりながら、まずタウナギが野太いバスで歌い始めました。
おもしろや、京にはくるま
丹波に舟、ドウジャイナ
丹波に舟、由良の川にむかい舟
ドウジャイナ
鶴の子の、そだちはどこじゃ
四つ尾山、ドウジャイナ
早少女衆は 苗を呼ぶ声、山越えて
ソヨノ、まだ山越えて、
ほととぎすの声、ソヨノ
続いてQ太郎が、伸びやかなバリトンで、喉を震わせました。
井戸堀そめて 水がわかずに金がわく
面白や。
こまた榎の、榎の実やならいで金がなる
面白や。
みょうがとふきと、みょうが目出たや、
富貴繁盛。
今日はめでたや。日がらもようて、日もようて。
餅もつかずに石をつく。
面白や。
今度は、最長老のオオウナギの番です。
丹波で名所は、由良の川
水が半分、魚半分
これは綾部か 福知山
ぐると回れば 由良の海
ボーイソプラノのドンコが、続きます。
降らずとも 蓑笠持ちやれ 篠原に
篠原の 根笹の露は 蓑笠に
京から下るような 白い菅の 笠をば
わいらあにも たもろまいかの 白い菅の笠
ソロが終わると、一同声を揃えての大合唱になりました。
めでたためでたの 若松様は
枝も栄ゆる葉も茂る おめでたや
鶴は千年 亀は万年
由良川歴史は 一億年
われらの歴史は 二億年
苔むし神あがりましし白栲の
うつのうつろなる生き神さまに
われら魚どもせちにささげん
このはららごを
由良川の水より清く 由良川の底より深き
ことほぎの 心も死ぬにありがたき
その佳き日 その佳き人のおとずれを
せちに待ち待ちて 今宵ぞわれら
君に捧げん このいやさかの歌 このいやさかの歌
ア ソレ、ア、ソレ、ア、ソレソレソレ
いやさかケンちゃん、いやさかケンちゃん、いやさかケンちゃん……
次号へつづく
麻理母さんちの庭に
水を撒いたら
百合の花が笑った
お母さんと同じ名前の花
坂道を自転車で
すーいすーい
気持ちいい
わたしは重力
世界史って戦争ばかり
日本の平和を七十年を生きた
女の人を
漫画で描きたいわ
お姫様
目に涙を描くと
キューンと
こころが痛む
わたしが
絵を描くと
みんなが褒めてくれる
どんどん描いちゃう
自転車の後輪は
前輪にいつも素直に従ってる
二人の仲は
本当なの
大雨や
夜遅くまで
語り合う
運動会
思いっきり
走りたい
運動会
不意の地震に
皆走る
大雪や
登校の朝
すってんころりん
ばあちゃんは
老病介護で
じいちゃんを
分数は
分子と分母
なぜ親子
日本国
菊の御紋が
恐ろしい
コスモスや
漢字で書かれて
はずかしい
組みダンス
大空の下
皆すてき
菜種粒
水吸って芽出す
力 何
私は貧乏人だったのにもっと貧乏そうな人に車とお金を上げてしまった。その車の中には「探せば車内に50万円あります」という置手紙をしておいたので、彼は今頃大捜索をしているに違いない。5/1
「お客様、まずはこのモデルさんのお顔をよくご覧ください。そしてこう、このようにお顔のお手入れをなさってください」と、その化粧品メーカーのマヌカンは熱弁をふるった。5/2
突然編集部に闖入してきたその男は、私らの作っている雑誌の値段が高すぎるのは、私らの月給が高すぎるからだ。その分を価格値下げに回せと叫んで、その場に座り込み、いっかな動こうとしなかった。5/3
「自然界にはさまざまな情熱と無邪気が存在しています。それでは只今からその不可思議をこの手に取り出してみましょう」と、その女性は言うのであった。5/4
大阪湾付近で右側の島を削って左側に持ってくるという大工事が行われていたことを、私はケート台風がやって来るまで、ちっとも知らなかった。5/5
晴の結婚式の当日、婚約者に逃げられてしまった私がガックリしていると、婚約者の父親が恐縮して平身低頭した後で、「うちのあんなバカ娘より、こっちの方が遥かにいいですよ」と、同席していた親戚の妙齢の美女を薦められたので、「ま、いいか」と思って式を挙げた。5/6
グラグラになった奥歯が、なにかの拍子にポロリと取れてしまった。驚いて驚きついでに隣の歯に力を入れると、これもポロッと取れる。その隣も、そのまたまた隣も次々に取れて、私はあっという間に歯抜け爺になってしまった。5/6
突然歯が痛くなって、会社を休む。今日あたり今期の宣伝費が決まっているから、早く営業と打ち合わせをしないとヤバイのだが、と思いながら、今日も会社を休んでいる。5/7
エレベーターは、阪神百貨店のある5階に到着したが、5人の女たちは誰一人降りようとせず、8階の阪急百貨店を目指していた。5/8
その蓆の上では、50年代から現代までの各種の雑誌が叩き売られていたが、それでも雑誌の値段は、古いものほど値が高かったので、いたく感心したことだった。5/10
私は、猛烈な歯の痛みを鎮静剤が押さえている間に、消化を促進しようと、自分の胃をトクホの巨大な胃腸に取り替えようと提案したのだが、上層部では、てんで評価してくれなかった。5/11
僕の座席の列をまっすぐにしようと、「えいやっ!」と動かしたのだが、右側の座席に激突してしまった。どうやらこの劇場では、対立する2つの流れが存在しているようだ。5/12
私が乗り組んだ国内初の原潜の内部では、熾烈な権力闘争が起こり、多数の死傷者が出たが、けっきょく艦長派が副長派を制圧して、母港のある横須賀湾に帰着した。5/13
講習会が終ったあとで、テキストと答案を回収する必要があったので、出口での受け取り方を考えていると、コバヤシ君が「ああそれはねえ、こおこうこうすればいいんだよ」と親切に要領よく教えてくれたので助かったが、彼はもうだいぶ前に死んでいる人なのだ。5/14
デモやテロが激発したために大学入試が中止になったために、我々学生の他に一般人も大勢押し寄せて、職員や機動隊と乱闘になったために、「凶暴罪」が発動されて、大勢の民衆が逮捕された。5/15
「そんなにいうなら投げてみろ」と私が挑発したら、彼奴は時速200キロ相当の猛スピードボールを投げたので、私はそいつを右方向に打ち返して、ランニングホーマーにしてやったら、彼奴はガックリうなだれていた。5/16
この仕舞屋では、冬だというのに使用人たちは、店の土間の藁の上で、ガタガタ震えていたので、その家の息子たる私は、畳の上で安眠できる特権と贅沢を、身に沁みて感じた。5/17
どういう風の吹きまわしか、出張先で女性の上司とホテルの同室に泊まる羽目に陥った私は、これから朝までどういう風にふるまっていいのか、おおいに悩んでいた。5/19
我らが決起集会の出席者は、300名だった。私は一刻も早く決起せねばと焦ったが、出席者の大半は落ち着き払って、いつまでも地面に腰を下ろしたままだった。5/20
コンサート会場では、3種類の座布団が販売されていて、その売り上げが財団に報告されていなかった。おそらく事務局の誰かがくすねているのだろうが、まだ誰もそのことを言いだそうとはしない。5/21
私たちの羊を彼らに送ると、彼らはその見返りに、よく肥えた牛を送ってくれたので、私らは非常な好感を抱いた。5/22
その漫才師は、2つの青い風船のエピソードなどをうまく即興で取り込みながら、異常に長い噺を物語った。5/23
私は稀代の女殺しになって、並みいる美女たちを片っ端からナンパしてはナニしていったが、誰からも文句は言われなかった。5/24
「電車に乗って、微動だにしなければ無料、ちょっとでも前後左右に揺れ動いたら、有料になるのよ」と、ヤスナガさんいわれた。
イケダノブオの評判が悪いので、ベビー子供部隊では、担当MDとデザイナー、営業のなり手がなくなり、マネージャーの私は、往生していた。5/24
ナベショーが、ゴルフのできない私を勝手にゴルフコンペに招待したので、こいつなにを考えているのか、と不審に思って出かけてみると、ナベショーは、自分が開発したゴルフグッズを、だれかれなしに売りつけようとしているのだった。5/25
カナカ人のおばさんを、子供たちの算数の先生として雇ったのだが、彼女は3ケタの引き算すら出来ないことがすぐに判明したので、首にせざるを得なかった。5/26
この国では、突然小文字の使用が許されなくなったので、あらゆる出版物の小文字を大文字に換えることになった。すると、つぶれかかっていた印刷屋に大量の仕事が舞い込んだので、大喜びしているそうだ。5/27
「やすらぎの郷」という死にかけ老人ドラマがヒットしたので、立木義浩カメラマン撮影の浅丘ルリ子さんのヘアヌード写真集が発売されたが、ほとんど売れなかったそうだ。半世紀前ならベストセラーになっただろうに。5/27
「上野駅マラソン大会」のゴールに、大勢の選手たちが飛び込んでくるが、タイム判定員はたった一人しかおらず、その時計はちょっと遅れているので、現地は大混乱だった。5/28
オグロ氏は、おらっちの書いた拙い脚本を映画にしてやると公言し、有名監督やトップスターを世界中から召集して、製作発表記者会見とパーティを開いたので、私はとうとう彼を裏切れない舎弟となってしまった。5/29
せっかく景勝地にやって来たというのに、岩の上の親たちは、幼い子供が岩から落ちて渓流に流されていることも知らずに、釣りに夢中になっている。5/30
夜の演奏会を前に、港までクルーザーで乗り付けたアンタル・ドラティ一家だったが、ドラティ老夫婦は、会場付近を悠然と散策していた。5/30
天上から「お前が死んだら迎えに来てやる」と言う声がした。じつはその前に、天の声が別の人に「百歳になったら迎えに来てやる」と言うのが聞こえていたのだが、私に対しては「百歳」という言葉は遣われなかった。いつ迎えが来るのか、楽しいようでもあり、怖いようでもある。5/31