michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

幼馴染

 

みわ はるか

 
 

同じ繰り返しの毎日の中で、ふとしたとき人は何を考えるのだろう。
これからの明るい、しかし、それ以上に不安で満たされた未来なのか、もう二度とは戻れない楽しくもあり苦い思い出もたくさんした過去なのだろうか。
わたしは後者のほうが実は多いのではないかと思う。
予期せぬ事態に遭遇するよりは、たとえ苦しかったことであろうとも、一度コンプリートしたものを思い返すほうがずっと安心感が得られるから。
それはまるで結果がわかった対戦型のスポーツを録画したDVDで見るのとなんだか似ているようなきがする。
自分の中にある何かをそっと思い出してその時間に浸る。
そしてまたそっと蓋をする。
丁寧に丁寧に蓋をする。

そんな時間の中で思い出したある友人の話。

うっそうと茂った山々や、どこまでも果てしなく続く田んぼばかりが広がる町。
町と言うよりは村といったほうが適しているかもしれないが・・・。
人口は当時で約6300人。
人口密度の値はとても小さく、子供の人数も少ない。
会う人会う人がどこの誰かがわかるような地域。

小学校は4つあったがどこも1クラスが当り前だった。
それでも教室はすかすかだった。
男子も女子も性別という垣根を越えて一緒に遊ぶのが当然でそれが普通だった。
田んぼに水が張れば、バケツを抱えてオタマジャクシ採りに夢中になり、夏休みになれば朝早くからクヌギの木に蜜を塗りクワガタやカブトムシが来るのを今か今かと待ち望んだ。
水泳の授業では誰か泳げない人がいればみんなで励まし練習に付き添った。
その子が25m泳げるようになったときはクラス中で飛び上がって喜んだ。
そのとき担任の先生がこっそりみんなの分買ってきてくれたオレンジジュースは格別においしかった。
秋の大運動会は「大」がつくのが今ではなんだか恥ずかしいようなこじんまりしたものだった。
人数が少ないのだから仕方がない。
それでも時間をかけて創り上げた組み体操は達成感があったし、みんなが選手のリレーは盛り上がった。
赤と白の2色にわかれて競い合った応援合戦はどちらが勝ってもすがすがしい気持ちになれた。
冬はこれでもかという量の雪が降った。
朝まだ日が出ていないころから起こされ、スキーに行く人みたいな格好を強いられ、手には雪かき用のシャベルを持ち、寒い寒い外に出る。
家の敷地や道路の雪かきをするというのはものすごく体力がいる。
しんしんと降り続ける雪に心の中で舌打ちをした。
今までウインタースポーツにまるで興味がないのもこんな経験があるからなのだろう。
教室の中央におかれたストーブは360度どこにいても温まれるようなつくりになっていた。
そのストーブの周りの床に赤いサージカルテープを貼った。
正方形になるように貼って、ここから中には危ないから入らないようにという印にした。
みんなでストーブに手を近付けて暖まった。
なんだかほっこりした気分になれた。
こんな1年間を当然だけれど6回も過ごした。
その中で彼とはうまが合うというか、わりと仲が良かった。
当時小学生の同級生だった彼は豆みたいなかんじの人だった。
本人に言ったらきっと怒るだろうけど、顔の輪郭というかなんというか、ころんとした感じのかわいらしいタイプ。
かわいいと言われるとあんまり嬉しくないという男子がいるというけれど、きっと彼もそう言うようなちょっとクールな性格の人。
算数がよくできて、バスケットボールが大好きで、通っていたそろばん塾が同じだった。
初めてバレンタインのチョコレートをあげたのも彼だった。
今よく考えるとそれがわたしの初恋だった。
なんとなくいいなと感じる淡いものだった。
ただ、これから先の話になるけれど、この感情はそんなに長くは続かず、中学校にあがったあたりからはいい友人という印象に変わった。
何かあったわけではないけれど、人の感情というのは勝手きままな部分がある。
もちろん今も。
そしてこれから先もきっと。

中学校は4つの小学校の生徒が一緒になった。
初めて経験したクラス分けというものに当時はものすごく感動した。
こんなどきどきという感情を味わったのは初めてだった。
彼とは3年間同じクラスだった。
相も変わらずなクールな性格だった。
成績は優秀で、大好きなバスケットボールを本格的に始めなんだか輝いて見えた。
わたしも負けずに頑張れた時期だった。
何か特別に会話を交わしたことはないけれど、お互いがお互いを認め合って過ごした3年間だった気がする。
ある時、同じ高校を目指していることを知り、相手のテストの点数を少し気にしながら、同じ関門を突破できるようにただただ黙々と勉強した。
わたしたちは無事2人とも希望の高校に進学することが決まった。
一緒に合格できたことが心の底から嬉しかった。
卒業アルバムの彼からのメッセージはたった一言。
わたしを鼓舞する内容だった。
今でもその言葉はわたしにとって大切な一言として心の奥に眠っている。

高校からは別々のクラスになった。
彼がいない教室を初めて味わった。
そして、このころから自然な流れで彼とはそんなに顔を合わせなくなり関係も希薄になっていった。
2年に進級するときには、理系のわたしと文系の彼とで進む方向が全く反対のこともあってもっと疎遠になっていった。
ただ、彼は意外にもアクティブで彼の名前は色々なところから聞こえてきた。
大好きなバスケットボールはキャプテンとして最後まで続けていたし、成績優秀者だけ名前を貼り出される紙には彼は常連だった。
そんな中で彼と出会う機会があった。
それは駅のホームや電車の中だった。
わたしたちの町からその高校に通うには電車は必須で、本数も限られていたためたまに顔を合わせることがあった。
挨拶のあとの会話がなんだかそんなにはずまなかった。
だからといってきまずかったわけではなかったけれど、彼には彼の人生があるんだなと少し悲しくもなった。
そんなとき、学部こそ違うものの同じ大学を目指していることがわかった。
あー本当に腐れ縁なんだなと感じた。
こうやってまた同じ目標にむかっていけることが嬉しかった。
推薦入試の合格を知った次の日、たまたま、また駅のホームで彼に会った。
そのことを報告すると彼は微笑して喜んでくれた。
次は自分の番だと、必ず合格すると意気込んでいた。
わたしも深くうなずいて微笑み返した。
この次に彼に会うことになった場所は喜ばしいことに大学の入学式となったのだ。

大学生になると学部の異なる彼と会うのは奇跡に近かった。
学食で一緒になるとか、道ですれちがうとか、図書館で会うとか、その程度。
けれども、今わたしがいるこの大学に彼もいるんだと思うだけで心強かったし不思議とパワーが出てきた。
3年生の前期の試験が終わって夏休みがやってきた。
図書館で会った彼とどれくらいぶりだろう、夜ごはんを食べに行く約束をした。
わりと都会の大学に通っていたので、界隈にはお洒落なお店がたくさんあった。
その中でもTHEお洒落なお店を選択した。
お酒の種類が多かったのもそこを選んだ理由だった。
そう、わたしたちはお酒を酌み交わせる年にもなっていたのだ。
わたしたちはそれぞれ好きなアルコールを注文してお互いの近況を報告した。
そのあとに口から出てくるのは昔の思い出話ばかりだった。
ひざ小僧に傷口をつくりながら田んぼや運動場を駆け回っていたわたしたちが、今こうしてここにいられることを誰が想像しただろう。
2人そろってあんな小さな町からこんな都会の大学に通えるように成長できたことが不思議で不思議でたまらなかった。
世間のことなんてこれっぽっちも知らなかった。
井の中の蛙だって驚くほど無知だったのではないかと思う。
わたしたちは少しだけ自分たちを褒めた。
お酒がこんなにも人を饒舌にしてくれることを知ったのはこのころだ。

その後、わたしは地元の近くに戻って社会人となった。
彼は日本ではない別の国で邁進している。

 

 

 

光の疵 屋上庭園

 

芦田みゆき

 

 

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ひりひりと疵が痛むとき、夜のデパートの屋上へとむかう。
エレベーターの扉があき、
過剰な光が流れる廊下を渡り、
重いガラスの扉を押すと、
まだらな闇が降りてくる。
あたしは闇をまとって、植物が売られているコーナーに行く。
工事が始まっている。
たくさんの植木鉢や、あいだに置かれた石像たちは端に片づけられてしまった。
代わりに白い布を被った何かがあちこちに置かれている。
あたしは自販機でコーンスープを買って、建物に沿って並べられたベンチに腰掛ける。

目を閉じると夏の喧騒がよみがえる。

 

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あたしは生まれてはじめてデモに行った。とけて消えてしまいそうな暑い夜。国会の脇にある木では蝉が鳴き、子どもたちは小さなライトを持ってカブトムシをつかまえていた。みせて?と声をかけると、あの木にいたの、と後ろの木を指さす。この、子どもたちの未来を守るために、あたしは来た。前に進んでいくと、赤ちゃんを背負い、荷物とプラカードを持った若いお母さんがコールを叫んでいる。あたしは人人の手ばかりを見ていた。どの手も白く美しかった。

目を開けると、闇が濃くなっている

 

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さぁ、帰ろうか、と隣のベンチをみると、一冊の本が置き忘れられている。手に取って開いてみると、とても古いロシア語の参考書だった。あたしは本を元のベンチに立てかけて、エレベーターへ向かった。

 

 

 

past 過去の

 

どう
なんだろう

だれにも過去はある

むかし
信濃町に住んでいて

妻も
子どもも

いた

かわいい
とも

思ってた

いまは
別の女と

犬と

暮らして
いる

いま
海がひろがり

空がある
いつか

新潟の記念館で
菩薩という書をみたことがある

 

 

 

hot 暑い 熱い

 

このところ
寒い日が続いた

雪も
降った

風が吹いて
背中がぞくぞくした

コートを三つ
持ってる

田村隆一みたいなやつ

灰色と
黒と

紺色の厚手のコート
紺色は一月と二月しか着ない

電車の中で
汗をかく

ダンディーにはなれない
神田で飲んでる

 

 

 

bell 鐘

 

お昼ごろなの
かな

鐘の音を
聴く

四谷の路地や

三栄町の
公園で聴いた

長崎の西坂の途中でも
聴いた

教会の鐘なんだね

鐘の
音は

振動だ

詩も振動みたいだね

詩人が震える
のでなく

世界が震える

世界は

停止して
激しく振動している