使える
ものがありません
利用する
ことができません
服を
ぬいで
素手と
なって
裸足で
歩いて
風にふかれて
飛ぶ燕たちをみあげていた
使われるものであることのうちに
息をはき
息をすい
息をはきました
使える
ものがありません
利用する
ことができません
服を
ぬいで
素手と
なって
裸足で
歩いて
風にふかれて
飛ぶ燕たちをみあげていた
使われるものであることのうちに
息をはき
息をすい
息をはきました
雲がたって
燕たちがきれいな線をひいて飛ぶとき
あなたはそこにいて
みていた
すでに
あることのすべてをみていた
生きることがわたしのすべてですが
あなたの使命は
そこにいてささえること
そこにいて
あなたの妻と妻のすべてをささえること
山の
斜面の
小道を歩いていました
目覚めると
山の斜面の
暗い小道を歩いていました
ヤマユリが咲いていました
ヤマユリが匂っていました
わたしにはわかりませんでした
わたしにはわかるということがわかりませんでした
明け方に
雨はあがりました
ツバメたちは飛んでいます
昨日
薄い文字で書かれた手紙を添えて
白いタオルが届きました
わたしは電話しました
わたしはあなたの奥さんに電話をしました
奇麗な線をひいて
綺麗な線をひいてツバメたちは飛びます
悲しみに堪えられないならば
夕暮れに
浜辺にたってみてはどうでしょうか
悲しみは人称を失いました
人称は
失いました
だから
マリア・ユーディナを聴いています
だからマリア・ユーディナの平均律クラヴィーア曲集 第1巻22番を聴いています
西の
山に
日は沈みましたか
青緑の西の山に日は沈みましたか
夕暮れに
燕は
空を
飛んでいますか
悲しみは何処にいきますか
失った悲しみは何処にいきますか
浜辺に佇ち尽くすばかりです
わたしは浜辺に佇ち尽くすばかりです
燕は首をひねりながら鳴きます
燕は電線にとまって首をひねりながら鳴きます
燕たちは夕暮れに子どもたちのために忙しく空を飛んでいます
あまり
勉強しなかったな
いま残っているのは
帰りの道草の
梢の先の空を見たこと
なすびと
しょうちゃんと
ぷあぷあさんにあったこと
たこちゃんと田中さんにあったこと
あまり勉強しなかったな
大切なことは
大切なことは
風が吹いていること
窓のむこうに
いぜん
タコ八郎さんと
お会いしたことがありました
こどものころ
牛を飼っていたことや
道ばたの雑草を食べたことなどを
話されました
かざりのないヒトでした
しばらくして
海で亡くなりました
ヒトを支えられるヒトだと思いました
もう
話すこともできない
もう
食べることも
着ることも
歩くことも
自分で息をすることも
できない
そんな母の目蓋を指でひらくと瞳が見ている
瞳がわたしの顔をみまわして
うるんでくる
母の伝言はない
ただ瞳がうるんでくる
ただ瞳がうるんでくる