蛇道

 

道 ケージ

 
 

蛇の抜け殻のような道
その果てまで両側は
灰色の竹
竹並木というのか
こんな処があったとは

何やら苔のような
おびただしい
びらびらを
はためかせている

かなり急だから
もう登れそうにない
ウロコの跡は
あぁ、キャタピラの跡か

何やら息苦しい
肺か心臓がやられている
カジイかよ
坂に耐えられない

あぁ、オレは人殺しだったのだな
はなから許されてない
なら呼ぶなよ
この道行きが罰?

靴はもう泥だらけだ
土産の水羊羹はどうする
詫びじゃない
礼儀にすぎない

先輩が言ってたな
相撲辞めちまいな
川沿いの堤の道である
自転車が捨てられ
錆に雫

野望はどうする
張り手で殺した
茅の輪くぐっても
もう遅い

 

注「カジイ」は梶井基次郎のこと。

 

 

 

たった1日で、世界は変わる!?

 

佐々木 眞

 
 

よ、大統領!
や、大統領!
トランプはんとジョンウンはん
超多忙なお二人さん。

「やあキムはん、おらっち近所までやって来たのよ。5分でええから会いまへんか?」
「え、ほんまかいな、そうかいな、明日はぼくちゃん暇でんねん」
ツイ、ツイ、ツイッターで呼びかけて、
ふたりは翌日、板門店。

あれに見ゆるは境界線。
「キムはん、あの一線を越えまひょか?」
「そりゃあもお、そおして頂ければ超ウレピー」
やった、やった、トランプがやった。

ヒップ、ポップ、ジャンプ。
ヒップ、ポップ、ジャンプ。
2人並んで跳び越えた。
境界線を突破した。

世界のキャメラが見つめるなかで、
それから2人は、むにゃむにゃむにゃ。
ムンちゃんなんかも加わって、
3人揃って、むにゃむにゃむにゃ。

よ、大統領!
や、大統領!
トランプはんとジョンウンはん
ムンちゃんだって月下氷人よ。

やった、やった、世界を動かす大統領
ビッグなディールが、これから始まる。
うまくいくかは分からんけれど、
これで再選間違いなし。

やった、やった、トランプがやった。
ヒップだ、ポップだ、エレキバン。
ざまあみろ! 指先三寸で政治は変わる。
たった1日で、世界は変わる。

 

 

 

韻を踏むんだ、麦を踏まずに

 

佐々木 眞

 
 

高田の馬ん場は、アオとアカがヒヒンと嘶く、広大な麦畑だった。

革マルのフランケンシュタインのゲバルトに警戒しながら、半世紀振りで文学部のスロープを粛々とさかのぼり、おもむろに右手を眺めると、とっくに亡くなったはずのヒラオカ教授の英姿があった。

ところがヒラオカ教授ときたら、相も変わらず、
「こ、こ、ここはトキオではありましぇん。パ、パ、パリのソルボンヌざんす。ヌ、ヌ、ヌーボーロマンが、どうした、こうしたあ」
などと、都々逸を唸っているので、
「いったい何のための年金100年バリストだったのか!?」
と呆れ果てながら、余は「狭き門」の翻訳でつとに知られるシンジョウ教授の教室に入っていった。

すると満座の学友諸君の只中で、余はいきなり教授からジッドの日記の2019年6月21日の項の和訳を命じられたので、目を白黒させて脂汗を流していると、
「あれほど言うたのに、キミは予習をしてこなかったんだな。そおゆう不届きな者は、私の授業に出る資格はない。とっとと出てゆけ!」
と激怒せられた。

これはどじった、しくじった。有名教授の虎の尾を踏んじまったよお。

今日の教訓。詩も人世も、すべからく韻を踏むんだ、麦を踏まずに。

 

 

 

人とそのお椀 05

 

山岡さ希子

 
 

 

さてどうしたものか 正座している 少し腰を浮かせている 踵を尻の下に敷き 踵を尻に立てる 両膝に体重がかかる
両腕を組み 目の下に置かれた 器の中の水面を見ている 
いや見ていないかもしれない どちらにせよ 考えごと あるいは 何かを待っているよう

 
 
 

塀 180907,180908,180915,180916,180928.

 

広瀬 勉

 
 


17:180907 東京・足立千住旭町

 


18:180908 東京・中野中央

 


19:180908 東京・中野本町

 


20:180915 東京・渋谷恵比寿

 


21:180915 東京・渋谷恵比寿

 


22:180916 東京・港 西麻布

 


23:180916 東京・港 西麻布

 


24:180928 東京・杉並高円寺北

 

 

 

大好き

 

佐々木 眞

 
 

我が家の長男が、ときどき「お母さん大好き」という。
だいぶ容量が少ないけれど、稀に「お父さん、大好き」というてくれることもある。

私はこの世の中のありとあらゆる言葉の中で、
コウ君の、その「大好き」という言葉が、いちばん好きなのだ。

ところが最近テレビから、ガラガラ蛇のように数珠繋ぎになってしゃしゃり出てくるのは、「ハズキルーペ大好き!」というCM。
いかにもギャラの高そうな売れっ子タレントたちが、
どいつもこいつも年甲斐もなく「大好き!」を連発しているのを見ているうちに、
だんだん私の大好きな大好きに、けたくそ悪い手垢がついてくるような気がしてきた。

毒には毒を以て制すべし。

天の邪鬼の私は、試しにそっと呟いてみる。
「ミヤネ屋大好き!」「坂上忍大好き!」「中野信子大好き!」

「トランプさん大好き!」「安倍さん大好き!」「麻生さん大好き!」
ふむ。ちょっと吐き気がしてきた。

意を決して声を大にして叫んでみる。
「オリンピック大好き!」「自民党大好き!」「日本会議大好き!」
「ネトウヨ大好き!」「嫌中嫌韓大好き!」「ファシスト大好き!」

ふむ。やっぱり違うな。
つか、全然違うな。
言葉はおなじ「大好き」でも、やっぱりコウ君の「お母さん大好き!」には、てんで敵わないな。

 

 

 

最後なのにないがしろにしたこと

 

工藤冬里

 
 

アジサイが暗い紫になる土壌だった
力は林道に流出した
口が裂けても言えないこと
材木ですじゃろ、に変換してみせた
剥き出しが曝け出しではなく脱ぎ捨てなら
蛞蝓は蝸牛の割礼だった
愉悦の土砂の流出した浦で
私が流木のように近づいてきた
避難勧告の浜辺で
私たちは私たちの肝臓を探した

 

 

 

庭に埋めた

 

小関千恵

 
 

 

庭に 埋めた わたしの なにか

庭に 埋めた わたしの なにか

もう いまは 見えない 処へ ながれた

いつかの 西陽に 照らされてる

わたしの ながれた なにかは なにか

庭に埋めた

庭に埋めた

 

Something of mine buried in the garden

Something of mine buried in the garden

Now it has already flowed away to an invisible place

It is illuminated by the setting sun of the past

What has flowed away from me

Buried in the garden

Buried in the garden

 

 

 

そういう時節が来た……

 

駿河昌樹

 
 

(どのような個人のものであれ個人の生活も情報も重要ではない…
(そんな時節がある…
(個人主義や民主主義や自由主義という迷妄に甘えた
(20世紀以降の人間には理解できなくなってしまったことだね…

2019年7月1日からの一週間は、
たとえば私が、
ロベルト・シュヴェンケ監督の『ちいさな独裁者』(2017)や
パブロ・ソラルス監督の『家に帰ろう』(2017)を
見たことや
今さらながらに
ニコラス・ジャレッキー監督の『キング・オブ・マンハッタン』(2013)を見終えたり
カフカ『城』と堀辰雄『菜穂子』の再読を始めたり
エックハルト・トールの自我の不在性についての説明法に感心させられたり
ペトラルカのRerum vulgarium fragmentaの
ルネ・ド・スカッティによる2018年のフランス語訳や
フランソワ・ラヴィエの編んだアンナ・ド・ノアーユ詩集(リーヴル・ド・ポッシュ版)をいたく感心しながら読みはじめたり
したことにはなんの重要性もなく、

アメリカとロシアの潜水艦がアラスカ沖で戦闘状態に入り、
アメリカの潜水艦は沈没、放射性物質の海洋への流出が発生し、
ロシアの潜水艦も重大な損害を受けて14人が死亡した
らしい、
という、
事件、
のほうにこそ、
世界的な
重大性はあった

アメリカ側の死傷者については情報がない

ペンス副大統領はホワイトハウスに呼び戻され、
予定されていたニューハンプシャー行きはキャンセルされた
プーチン大統領のイベントもキャンセルされ、
大統領、国防相、ロシア軍参謀長らの緊急会議が開かれた
ブリュッセルの欧州連合本部はEU国家安全保障理事会の緊急会議を招集、
イギリス政府は国家緊急事態対策委員会(COBRA会議)を招集

ベルシャ湾と
湾岸諸国におけるアメリカと西側の軍事基地では
不自然な動員
が発生
他方、金地金はその日の取引の最後の数時間で
1オンスあたり40ドル急上昇

機密情報に抵触するものばかりで
どれひとつ
正確に公表はされない

どれも確認しようがなく
どれも嘘かもしれない
どれかはそこそこ正しいかもしれない
どれもそこそこ正しいかもしれない

怖いのは
怖すぎるのは
まったく
メディアにそれらが載らないこと
ダネ
ダネ
あんなのはインチキ情報さ、
とさえ、載らない
こと、
ダネ
ダネ

なにかに向けての
フェイクニュースの
思わせぶりな
小出しの数々かもしれない
しかし
確実になにかに向けて

韓国への半導体材料の輸出管理強化は
表面的な理由や
その下に推測される別の理由をはるかに凌ぐ
あくまで公表され得ない長中期的な国防上の理由がある
という情報も届いてきている

7月に入って確実に始まったことがかなりあり
これから
大小のかたちで露呈してくるが
危険な時節に本当に入った

(そう、もはや、
(個人の重要性など、見向きもされなくなる
(そういう時節が来た
(これからの個の生、個の興味、個の価値観、
(とは、
(なにか……
(答えは出ているよ、
(無、
(だよ、
(無、
(生きのびて、
(おいきよ、
(ただ、野良犬のように、
(これからの、
(10年
(ほどは、ね、……