また旅だより 26 番外編

 

尾仲浩二

 
 

あいかわらずどこへもいけない。
家で昔の日記を編集して本にしているので、そこから2004年の10月分を。

 

10月3日 雨
山の上ホテルに親族を集め結婚披露の食事会。そういえば森山さんの還暦祝いのパーティーを数年前のこの時期にここでやったのだ。

10月4日 雨
カラー暗室の途中で丹野さんより電話。カメラ付き携帯電話が欲しいとのことでヨドバシへ。僕と同機種を買ってもらい使い方の説明を三越デパート地下四階のファミリーレストラン「ランドマーク 」 で。迷路のような店内を抜け、隠し階段を降りると新宿のど真中に現れる別世界。

10月6日
こどじで森山さんと遭遇し、かえるで朝までカラオケ 。

10月8日 台風
朝までカラオケの所為か昨日より咽痛く、ついに発熱。台風のなか病院へ 。

10月10日 曇り
昨日の予定だった幼稚園の運動会の撮影が台風で今日に順延。まだ風邪具合はよくないので終わって早々に帰宅してすぐに蒲団へ。

10月13日 曇り
アサヒカメラの暗室紹介ページの取材で鳥原学さん来宅。これまで紹介されたのはどれも立派な暗室ばかりで、僕の極狭手作り暗室がどう紹介されるのか楽しみ。機材も自慢できるようなものはなにもないし、小道具も主婦のアイデア的なものばかり。あまりに狭くてカメラマンは撮影アングルに苦労していたようだ。

10月15日 晴れ
PGで吉永聡子展。風邪も治ったようなので調子を試しにゴールデン街。 もう大丈夫。

10月16日 曇り
昼からこどじを撮影。

10月17日 快晴
写真学校の撮影授業で早稲田から都電に乗り三ノ輪まで。鬼子母神の御会式には花園神社とは違う見せ物小屋が出ていた。庚申塚でファイト餃子。夕方に三ノ輪橋集合。荒木さんの生家跡を見てもんじゃ焼き。

10月21日 晴れ
デイズフォトギャラリーでモノクロプリントのワークショップ。新宿通りで広瀬くんと遭遇し、最近お気に入りの三越地下食堂でカツカレー。プレイスMでトリヤ展 。

10月22日 晴れ
ペンタックスのサービスセンターでMZ・Mを点検してもらう。このカメラは東京、上海、ラトビアとかなりの本数を撮っていても一度も故障していない。今度のスペインにも同行予定。ヨドバシでモノクロ印画紙80枚。

10月23日
モノクロ暗室。こどじ展示用。

10月25日 晴れ
三越地下食堂でラトビアの写真を担当の楠本さんに見せる。最近はここに人を連れて行くのが楽しみになっている。

10月27日
モノクロ暗室。橋本くん宅へ仔猫を譲り受けに。由布子さんがぐみと命名。母猫はロシアンブルーだけど、ぐみは黒いまだら模様。ちいさいけど元気はすこぶるいい。連れ帰ってすぐにきちんとトイレをしてくれたのでひと安心。

10月31日
図書館の帰りに猫ジャラシを買う。おとなしいと思っていたぐみは、とんでもないおてんばだった。噛むわ引っ掻くわ飛び回るわで、カーテンはボロボロ。 そして叱ってもケロッとしている。

 

 

 

あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る

 

工藤冬里

 
 

宝塚の阪急のユーハイムのブースで土産を選んだ
親が死にそうなけろひちゃん、母、親のいないかかはさん、猫を頼んださなえさん、猫を殺されたせおなさん、親が死んだふもはさん
それから宝塚ホテルが改装されたというのでレストランの階に行ってみたが満杯で宿泊客でさえ予約できない状態でして
とみっしつの入り口でギャルソンが言うので帰ることにする
ケーキがキャットタワーみたいに立体駐車したアフタヌーンの
紅茶の急須が見える
標野という和菓子が綺麗で写真を撮る
(標野はopen fieldと訳すべき事)
額田王の体温は三六・四度です
と三脚の機械が標示する

 

 

 

#poetry #rock musician

家族の肖像~親子の対話 その49

 

佐々木 眞

 
 

 

「イトウさん、怒るな!」そう言いましたお。
言ったんだあ。

以下同文って、なに?
以下おなじ、よ。

方々って、なに?
みなさん、よ。

連佛さん、菊池桃子と喧嘩したの?
話し合ったのよ。

お待ち願います、って、なに?
待ってね、のことよ。

お父さん、ボク小田急。ゴゴゴゴゴー!
ドッシーン。
ぶつかっちゃった。

ひとすじ、ってなに?
一直線よ。

お父さん、強敵って、なに?
強い敵だよ。
ボク、モナカ好きですお。
お母さんも好きですよ。。
お父さんも。

お母さん、公平って、なに?
みんなおんなじに、よ。
コウヘイ、コウヘイ。

トイレでお湯をいっぱい流すな使うな、と注意されたんですお。
誰に?
お父さんに。

ぼく、浮輪よ。すきだよ。
そう。浮輪使ってね。

お母さん、見事って、なに?
素晴らしいことよ。

ぼくはシューシューしましたお。
よし。お父さんも玄関でシューシュー消毒しますよ。

紫、赤と青混ぜるの?
そうだね。

バンバンジー、好きですお。
お父さんも。

タケナカさん、石原さとみと一緒でしたよ。
そうなんだ。

お母さん、ガキって、なに?
子どものことよ。
ガキ、ガキ、ガキ。

お母さん、「こころ」面白かったんですお。
面白かったですねえ。

巡り合うって、なに?
まあいろいろあって、会うことだよ。

マコトさん、浦和、南浦和の次でしょう?
そうだね。

お父さん、あした、石原さとみのドラマ録画してね。
わかりましたあ。

お母さん、停電したためって、なに?
電気が止まったから、よ。

コウ君、お母さんが年取ったら面倒見てくれる?
ぼく、面倒みますお。

ハスはジュンサイに似てるよねえ。ぼく、ジュンサイ好きですお。
お母さんも。
お父さんも。

お父さん、今日石原さとみと寝ます。
なぬ? コウ君、それは問題だよ。石原さとみの写真を枕元に置くんでしょ?
ぼく、石原さとみの写真を置いて寝ますよ。
それならいいよ。

ぼく、リョウちゃんです。
こんにちは、リョウちゃん。

経験て、なに?
いろいろやったことだよ。

お父さん、アオイケさんの名前をいっぱい書いてあげますよ。
誰に?
アオイケさんに。
アオイケサンにあげようね。
分かりましたあ。

ミエコさん、耳鼻科ある?
ありますよ。芋川耳鼻科。行きたいの?
行きたくないお。

マコトさん、聞くは門に耳でよ?
え、そう? 確かに門に耳だね

横浜線って「特急はまかいじ」なんかでしょう?
そうなの?
そうですお。

忘れはしない、って、なに?
忘れない、のことよ。

表情って、なに?
顔の様子よ。

サッカー、蹴ることでしょ?
なに?
サッカーは蹴るんでしょ?
そうだね。

抱きしめちゃ、ダメでしょう?
いや、お父さんなら抱きしめても構わないよ。
いやですお。

お母さん、魂ってなあに?
心のことですよ。

お母さん、シュウカイドーありますか?
お庭にありますよ。
ぼく、シューカイドー好きですお。
お母さんも。
お父さんもだよ。

我が君って、なに?
私の大事な人だよ。
そ、そうですよ。

お父さん、疑がっちゃ駄目でしょう?
たまに疑ってもいいよ。
そ、そうなんですか。

新玉川線、なくなりましたよ。
そうなんだ。それで何線になったの?
田園都市線だお。
いつ?
平成12年だお。
そうなんだあ。

マコトさーん、ふきのとう舎、桜ケ丘でしょ?
そうだね。

この際って、なに?
この機会に、だよ。

カミナリ鳴ってますお。ぼく、カミナリ嫌いですお。
お父さんも。

お母さんは?
お出かけしてるよ。です。さて問題です。お母さんはどこへ行ったでしょう?
なにがつくもの?
ビがつきます。
ビビビビビビ。ビの次は?
ヨだよ。
ビヨ、ビヨ、ビヨ、ビヨ、ビ、
コウ君、お母さんは美容院へ行ってます。
分かりましたあ。

 

 

 

千本ノック

 

道 ケージ

 
 

やるというから
付き合う
何のため誰のため
関門クォーレイ
オーライオーライ

右、左、ホラ前、後ろ
ネットに投げろ こっちじゃない

打つも大変 何しろ千本
だからといって
うどん投げんな
お玉はあぶい

乱れ打ちでかわす
ワンバンは辛い
体で止めろ
足が止まり かかしか
背中に当たる ジャマ

捕らないと捕らないと
打たないと打たないと
逃げてもいい逃げていい
豆つぶれ 狙う
殺意あるでしょ
ネットから屋根へ跳ぶ
おでんがはねる 
こんにゃく投げやすい

飯粒に唾攻撃
ベランダに逃げる

鳥のフン 風にやられて
河原飛ばされ
石のさみだれ のびきって
凧みたい 空から光線攻め
全員攻撃か
なんだっちゃやるよ

あざがいとしい
バット折りやがった

 

 

 

今日も火星が大きい

 

工藤冬里

 
 

足りないものは何もない
あるとしたら未来だ
未来に足りなくなることを見越して
今埋葬を準備しているのだ
Hey 僕は眠くないよ
でもいつか眠くなるだろう
眠くなるまで眠っていよう
眠くなった時起きてないといけないから
準備とは友のための準備だ
僕のためではない
僕は眠くないのに寝て
眠いのに起きているだけだ
僕は生まれた時に死に
死んだ思い出を生きているのだ
死は眠りに似ているが
眠りは生に似ている

 

 

 

#poetry #rock musician

ポ の 国 の ポ

 

南 椌椌

 
 


© kuukuu

 

今日は2020年9月16日
「私」を「ポ」と言い換えてみる
とくに理由はありません
ポはポの国の言葉で
私、あたい、僕、俺、小生、余か朕
これからポが徘徊酩酊するのは
70年を経た9月16日という日のこと

ポが武蔵野の秋を歩く 
独歩か かさこそさやけの音
テラコッタのポは 
リモートで浜辺を歩く
砂の音 きしむ きゅうそ 
クシュ クシャ クシャーラ

浜風しおざい ゆりかごの音
月から落ちてくる 無数の林檎
すさまじく割れる 死の擬音
水蜜は恋情か恨(ハン)か 
ほのかに好ましい思い出か 

イヌが吠えて オーボエが鳴って
遠くで潮ふく 鯨のため息
鳳仙花がはじけて 
ギターがひび割れる 子守唄
爪に血がにじむ 鳳仙花 ららばい 
庭のハナモモや トネリコに
降りしきる雨 ザクースカ!
猫が二匹低い姿勢で消えてゆく
その音の夢幻、無限、の生命秩序
みんな ポの耳に親しい

雨の中 手紙がポストに落ちる 
指で封をはがす音
2枚の紙に目をこらす

雲の上のソンソンムから 
暗号のような二行

空0コダーイはシュタルケルのチェロで
空0ショパンはリパッティのピアノで

それならいつも聴いてるよ 大好きだ
ハンガリー、ポーランド、ルーマニア
古びた写真がいちまい なぜだろう
ソンソンムが笑ってる12歳の頃

返事を書こう
ざら紙にペンを走らす 
太い鉛筆を走らす
その音のさいわい 
シュタルケルのチェロの音
シュタルケルは1923年
ハンガリーのブダペストで生まれた
1882年に同じハンガリーで生まれた
コダーイの曲を演奏するとき
シュタルケルは静かに躍動する
ハンガリーの森を大地を吹いてゆく

ポはペンを走らすことが好き
紙を走るペンは 紙の幾層を走る音
ポは半眼破顔半島の 笑みをこぼす

今日は2020年9月16日
そしてここから ポに聴こえてくるのは
ディヌ・リパッティ 最後のリサイタル
70年前の きょうの今日
1950年9月16日フランス・ブザンソン
リパッティは悪性リンパ腫の末期
主治医の懸念を押しとどめ
みずから最後と知ってピアノの前に立った
満員の聴衆もそれを知っていただろう

1917年ルーマニアのブカレストで生まれ
少年の頃からパリに出て
巨匠アルフレッド・コルトーに愛され
はばからず例えれば
天使の囀りのようなピアニズム
夭折悲劇の、ポはそういうのに弱い
フランス・ブザンソンでリパッティが
聴衆の祈りのなかで
最後のショパンのワルツを弾いた日から70年
その音源は ポにとって最愛の音楽

そして再び同じ70年前の今日
1950年9月15日から17日にかけて
ポの半分の祖国
戦火の朝鮮半島では
怒涛、破竹の進撃で半島最南部のプサンまで
占領していた北朝鮮軍を分断し
戦局の劇的な転換を期した奇襲作戦が
マッカーサー率いる米軍によって
成功裡に果たされようとしていた
ソウル西方の仁川(インチョン)上陸
占領されていたソウルは劇的に奪還された
だが、これは国を別けた戦乱の終わりではなかった

空0朝鮮戦争の死亡者の数は、韓国約240万人、北朝鮮290万人、中国90万人、
空0国連軍15万人。第二次世界大戦の日本の死亡者は約310万人と言われる。

母国に家族を残して
日本に渡ってきたオヤジは
生まれたばかりの ポを膝に抱きながら
刻々と変わる戦況を短波放送で聞いていただろう
ポの叔父 オヤジの弟は徴兵され
いまの休戦地帯 場所も時期も定かならず
戦死したことは 休戦後のずっと後に
知らされたらしい
もちろん遺骨は帰って来なかった
南北朝鮮530万人の死者のひとりだった叔父 
慟哭しただろう オヤジ
膝を叩いて哀号を連呼しただろう

1950年9月16日
米軍仁川上陸と同じ日にリパッティは
生命の灯心を燃やして
最後のピアノを弾き
同じ日に極東の半島では
戦火で多くの死者が生まれた
特別のことなのか
並べ立てることなのか

このコロナの時代に
こんなあてどない徘徊が詩になるか
コダーイのチェロソナタを聴きながら
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ことのは

 

サフジカサク

 
 

黒と白という言葉が消えました
フランソワは詩を書けなくなりました

男と女という言葉が消えました
アーネストは物語を書けなくなりました

大人と子供という言葉が消えました
カートは歌を書けなくなりました

人間の意識は高まっていきました
言葉は刈られていきました

やがて進歩した意識を持つ人間たちは言葉を持たない動物になりました