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今井義行
千本桜の公園の、しなだれかかる
染井吉野をくぐり抜けながら…
僕は、時が、花を開かせたと想いを巡らせ
時の、降る。
仰ぎ、観る。
僕は……大手を広げながら、花びらの色彩を吸い込む。
時の、降る。
仰ぎ、観る。
千本桜の染井吉野が、花びら達のアーチに
成っている。
「桜まつり」の、午後。
グループホームの係の人達が、
テントを張って、浅利や昆布のおにぎりを
売っている。
前の晩から、事務所に泊まって
おにぎりを拵えたのだ。
「売れていますか?」と
僕は、何気なく声を掛けた。参加は、強制では
ないのだ。
「売れてますよ」と
グループホームのリーダーが微笑った。
参加している7、8人ほどの居住者たちも
微笑った。
「今井さん、折角ですから
おにぎり、食べていきませんか?」と
或る女性が、僕に言った。
彼女は、40歳くらいで、顔の右半分に
大きな血管の浮腫がある人だ。
彼女は、僕に2個入りの
浅利のおにぎりのパックを、手渡した。
彼女の話し方は、とても清潔で心地よく
クリスマス会の時から好きだった──。
時の、降る。
仰ぎ、観る。
咲き誇る染井吉野を背景に
彼女の姿が記念写真のように映る。
(2024/04/07 グループホームにて。)