夢は第2の人生である 第3回

佐々木 眞

 

西暦2013年弥生蝶人酔生夢死幾百夜

 

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コンスタンツエ (2)

 

中国の戦地で孤立した私たちは、手榴弾を投げ尽くしてしまった。しかたなく地の果てまで逃亡すると、雪が激しく降って来た。その場にうずくまって雪がやむのを待ったが、しばらくして、私はとうとう梶上等兵になった。

「さっきまでお前が見ていた夢を、全部思い出すんだ。吐き出すんだ」と、どこかで誰かが怒鳴っていたので、私は目が覚めた。

いつか行ったことがある懐かしい場所。その遠い思い出の場所に限りなく近づきながらも、私はいつまでたっても、そこにたどり着くことができないのだった。

おいらは、あいつが憎らしくて殺したんだけど、牢屋に入ったら、国はロシアン・ルーレットで、おいらたちを殺すんだ。たまったもんじゃあないぜ。と死刑囚の私は呟いた。

返品してくれよ、こんな欠陥商品を作りやがって。しかもせっかく修理したのに、また故障しやがって。なにが「日本を代表する世界のトップ・メーカー」だ。社長を出せ、社長を!

いくたびも、またいくたびも快楽の絶頂に達した吉行和子と藤竜也の絶叫で、わたしは朝まで寝られなかった。

私たちは、しばらく東シナ海をさまよっていたが、やがて同乗していた2人の若者は、言葉も上達したので大陸に残り、私は母国に帰還することにした。

私が乗り組んでいる潜水艦の艦長は、ちょっと変わった人物で、いつもなにやらブツブツ繰り返し言っている。注意して耳を傾けると、「大好きだお、真理ちゃん」と呟いているのだった。

訓練の時にも「敵艦見ゆ、大好きだおお、真理ちゃん」、「魚雷発射、大好きだお、お真理ちゃん」と号令をかけるので、部下から馬鹿にされながらも愛されていた。

艦長は、「水兵は体を鍛えておかねばならぬ」という信念のもと、狭い艦内を、陸上競技場にみたて、私たちを全力で疾走させるのだった。

さてその日は、母港の地元民を艦に招待する日だったが、艦長は、いきなり若くてきれいな女性の手をつかんで艦内に連れ込み、みずからあちこち案内して回った。

艦長は、魚雷の格納庫の傍に彼女を引っ張り込んで、「ほらほら、これが水雷だ。こいつで敵さんのどてツぱらに、風穴を開けるのだ」と言いながら、いきなりチュウしてしまった。

もうこれで何年になるのだろう。私は教団の責任者として、毎日新幹線で東京と大阪を往復しているのだが、精も根も尽き果てた。「教祖」などとあがめられ、奉られても、その実態は一個のでくのぼうに過ぎなかったのである。

学校の卒業旅行は、英国風のグランクルーズだったが、中東だかアフリカあたりで、私は集団から脱落してしまった。ここはいったいどこなんだ。チュニジア? それともアルジェリア? 見たこともない風景が広がり、やたら暑い。

暑い砂の上に横たわっていると、奇妙な形をしたこれまでに見たこともない大中小のリスがやってきて、食べ残しのパンをむさぼり食っている。と、その時、黄色くて巨大な、そして異様に美しい網目ニシキヘビが、リスたちの背後でとぐろを巻いた。

私はある地方都市で、市の広報誌の編集をまかされていたが、その仕事を、ロスの私立探偵フィリップ・マーロウの捜査と意識的に勘違いし、紫のキャデラックに乗っていたので、さまざまなトラブルを引き起こすことになった。

私が下宿していたのは、ちょっと色っぽい元美人の姥桜だったが、これが、事あるごとに私に首を突っ込んでくるのだった。

ローマの皇帝が、その教戒師である私にこう語った。「6人の男女をとらまえて牢屋に入れて、「男は全員明日ライオンと闘え」と命じると、その前夜までには、3つのカップルが誕生している」、と。

私が王国から略奪した3つの玉手箱は、セピア色に塗り替えられた。私はジェットコースターの先頭に第一の玉手箱を置いてこれに跨り、「さあ発車するのだ!」と号令をかけたが、玉手箱には車輪がないことと、私の2人の美貌の部下が、第2、第3の玉手箱に無事に跨っているかどうかを、始終気に掛けていた。

しかし幸いなことに、その不安は杞憂であった。私は安心してジェットコースターの突進に身を任せていたが、それがあまりにも天空高く登りすぎたためか、突如玉手箱もろとも地上めがけて真っ逆さまに転落した。

そして猛烈なスピードで地表に激突するまさにその瞬間に、私はもはや玉手箱の中身になんの関心もなく、2人の美少女にも全く欲望を覚えていないことがわかった。

私は神保町の金ペン堂主人の薫陶を受け、長年の研鑽の末に、ずば抜けた性能を誇る万年筆を1本2千円で製造することに成功した。それから私は、腐女子2名の支援よろしくこれを1本2万円でネット販売したので、ほんのいっときだけは大儲けしたのだった。

私は、喉の奥に生えているジャックの豆の木にぶらさがりながら、どこまでも、どこまでも降りていった。

「26歳の美人秘書付きのオフィスを、無料で貸してあげるけど、使いませんか?」とある親切な方が申し出てくださったので、私は大川のほうに向かった。オフィスの近くに、見慣れない2人の男が待ち受けていて、私を無理矢理銀座に連れて行こうとする。

仕方なくいいなりになって見知らぬバアに入り、飲めないジャックダニエルを一口だけ舐めていたが、トイレに行く振りをして、7うまく脱出することに成功した。

銀座の地下は、ものすごく深いところに地下鉄を含めた何層もの広大な地下通路が走っていて、それが大川の向こうまで走っていることを、私は初めて知った。恐らく東京の地下には、地上を上回る交通網がすでに敷かれているのだろう。

やっとこさっとこ前のオフィスに入っていくと、26歳の美人秘書の代わりに、62歳くらいのおばさんが一人ぽつねんと座っていた。

私の嫁入り先は、古い封建的な約束事が根強く息づいている地方だった。はじめは大人しくしていた私だったが、歳月の経過とともにだんだん本領を発揮して、ある日、思い切って謎めいた埃だらけの部屋を開けた。

まるで江戸時代のような畳の奥座敷には、虫に食われた帳簿が何冊も並べられていて、数人の男が会計の実務に従事していた。彼らは私を見ると驚いたが、帳簿を見た私が、たちまちこの家の危機的な収支状況を把握したのを知ると、さらに驚きを新たにしたようだった。

第2の部屋、第3の部屋と次々に私が秘密の部屋を開けはなっていくと、誰かの注進でそれを聴きつけた夫が、まるで青髭公よろしく目をギョロリと大きく見開いた。