夢は第2の人生である 第27回 

 

佐々木 眞

 

 

西暦2015年如月蝶人酔生夢死幾百夜

 

IMG_5082

IMG_6677

 

「をが句愛もラテジナび詩ごで安画ずづレナベデグアジも短匹ら、具女駄ぺ土地うぞ殿鴈てれぴとだんき独輪階じ上舌で、聴わ人選鬱欒きららぺち雲虫郎舎が電畜以欄たですうぬ。だち、あり典膣、具みざて」2/1

(承前)私が自分のパソコンで打って印刷したパンフレットの文章は、私以外の人間には解読できないという不可解な理由で、私は長年勤務していた茂原印刷を解雇されました。さて、この文章、読めるかな。2/1

外付けHDDが壊れてしまったので困っていたら、誰か親切な男が、「大丈夫だよ、ほら、内蔵されていたソフトを全部取り出してあげたからね」と云いつつ、長い天秤棒を振り回しながら、茶色をしたそれらを地べたに丁寧に並べた。2/2

「今日は2月3日の節分なので、神様が天からマナを降らして下さいました」と言いながら、耕君たちにケーキをあげた。2/3

ブリザード吹きすさぶ団結小屋で一晩中ガタガタ震えながら、私は改めて冬山登山は危険だと痛感していた。しかしそれでもなぜ多くの中高年の人々は、冬山に登ろうとするのか?と考え続けていた私に、天啓がひらめいた。人は死ぬために冬山にやってくるのだ。2/2

「緑が必要だ。5月の青空に強烈に映える若草のような緑が! だから私は、そのまだ見ぬ緑を求めて、全国津々浦々の山野をロケハンしているのだ!」と、その監督は叫んだ。2/3

私たち親子がその温泉場に素っ裸で入っていくと、真っ白な大蛇の親子が待ち構えていて、真っ赤な舌をチラチラさせるので、恐怖のあまり私と耕君は、ひしと抱き合った。2/4

或る人が、「○○と人質の命のどちらかを選べと迫られたら、必ず○○を選べ」と云い切ったのは、どんなに人質の体がバラバラにされていても、後から必ず修復できる自信があったからだろうが、首のない人間をどうやって元に戻すことができるのだろう、と私は訝った。2/4

僕らはお国のために役立つ善いことをしたご褒美に、全国を遊覧する無軌道不定期臨時列車を1カ月自由に乗り回す許しを得たのだが、どこへ行こうとしても定期運行の列車が間断なく走り回っているので、危なくてなかなかその隙間を走れないのだった。2/5

フマ君が呉れたペットボトルの水を飲むと、その中に入っていた虫が口の中に入ったのでペッペと吐きだしたが、これは単なる虫ではなく吸血蛭で、彼の家にはたくさん繁殖しているというのであった。2/6

三越の岡田が、自家の銘菓栗饅頭を抛り投げたので、ドタマにきた私が、彼奴に摑みかかろうとしたら、神戸のモロゾフおじさんが、梶川与惣兵衛のように懸命に阻止するのだった。2/6

土地測量の結果、3人の土地所有者のうちの一人である切通氏の所有スペースが無くなってしまったので、氏は残る2人を激しく怨んだ。2/7

バルリン映画祭の初日にメイン会場で上映を待っていたのだが、待てど暮らせど始まらない。そのうちに超満員だったはずの会場がガラガラになり、私はたった一人で取り残されてしまった。2/8

撮影が終わって草原でランチをしていると、北欧生まれの透きとおった肌をした若い女優が、どういう風の吹きまわしか艶然と微笑みながら、その柔らかいからだを押しつけてきた。こういうことは人世では稀有なことなので、絶対に機を逃してはならない。

私が彼女の手を引きながら、鬱蒼と茂った大樹の黒い木陰に身を隠し、大急ぎで抱擁し、接吻し、乳房を愛撫しているうちに、彼女は急速にその気になってきたというのに、私のはまたしても我関せず焉で、物の役に立ちそうもない。嗚呼!2/9

もうすぐ芝居の本番が始まるので、私はさっきから何回も自分の台詞を大声でしゃべったり、全身を屈伸させたりして、一瞬もじっとしていなかったが、そうすれば緊張がほぐれると思っていたからだ。2/10

急激に没落しつつあるユニットMASOPのために起死回生の新作を書けと依頼された私は、七日八夜七転八倒した挙句、四畳半の押し入れの中から出てきた旧曲「みんな、みんな、ありがとう」を恐る恐る発表した。2/10

私がひそかに盗み出したカタログを彼女に渡すと、彼女はとても気に入って5日間貸してほしいとねだる。1日、2日ならともかく、それ以上はとても無理だと断ったのだが、どうしても貸してほしいと、彼女はあくまでもねばるのだった。2/11

朝誰かから電話が来て「飛行機は今日成田から出るやつに乗るんだよ」と云われたが、何時のどこ行きの便かも分からず、チケットはおろかパスポートもないしので、いったいどうしていいのか分からない。2/12

旅行に行く学生には、学校からその費用が全額支給されるのだが、国内外各地の行き先によって値段が違う。だから僕たちは北極や南極などできるだけ遠方の海外旅行を選ぶことにしていた。2/12

旅行に持って行くBGMに何を選ぼうかとさんざん迷った挙句、「バナナボート」か「ビデBIO」のどちらかにしようと思ってヨーコに尋ねたら、即座に「ビデBIO」にしなさいと言うので、どうしていつも彼女のいいなりになってしまうのかと思いつつ、私は喜んで彼女に従った。2/12

中国の有名デパートに台湾の友人と一緒に買い物に出かけたら、その友人がどんどん値切り始めた。いつまでたっても値切るばかりでなにも買わないので、業を煮やした店長がやってきて、「いい加減にしてくれ」と怒鳴って、僕らはとうとう追い出されてしまった。2/13

敵のサロチュウ軍とわれらハクコ軍が一蝕即発の事態を迎えていたので、某国が仲介に立って国連監視団の派遣を要請したのだが、その間情勢はますます緊迫し、ふと外を見回すと、私と吉田が乗った戦車を両軍がずらりと取り囲んでいた。2/14

錦織の私は、テニスの試合を前にしていろいろ慣れないことをして疲労困憊していたので、肝心の本番では実力を発揮できず、無様な姿で敗北してしまった。2/15

ふと気付くと、何匹ものカツオが三艙の船の上に降り注いでいたので、私は網を海に入れる作業をただちに中止して、空から落ちてくるカツオを捕まえることに全力を集中するように指示した。2/15

ここアンデスの山奥深くに埋められていた茶色い金属の板が偶然発見され、これが地球各地の古代世界で共通して使われていた「カロン」という単位の重量原器であることが分かった。1カロンはだいたい1キロに相当する。2/16

商標課からこの営業部へ配転になった男は、わが社の製品につけられているすべての商標がもぐりであるから、1日も早く販売を中止してほしい、と会議のたびに訴えたが、誰も耳を傾ける者はいなかった。2/16

私が働いている外資系企業には、政治的チョンボで首になった渡辺氏や英語やフランス語はペラペラだが日本語が全然出来ない帰国子女などのユニークな社員が大勢いたが、なぜかうちの耕君もそのメンツに加わっていて、3時になると好物のキャラメルアイスを美味しそうに舐めるのだった。2/17

お隣のМサンちに、いつの間にこんな可愛い子供が生まれていたのだろう。大きなかまぼこ板に乗せられたその子の首には、目も歯も口もちゃんとついているのだった。2/18

ある企業の新任ADとして招かれた私は、先輩ADと事あるごとに対立競合していたが、企業CMの製作では2人とも社長にギャフンと言わされた。彼は私たちの案の「小異を乗り越えて大同につく」という手法で、大成功したのだ。2/19

先輩はその企業製品の機能性を、私はデザイン性を強調するプランを提示したのだが、したたかな社長は、「会社は機能やデザインより、やっぱり人だね」と云って、創業を共にした90代の3人のOGを引っ張り出して福知山音頭を踊らせたのだった。2/19

今世紀最大の天才と天才少年が一堂に会したので、大きな話題になった。まず天才が「お前は誰だ」と聞いたら、天才少年は「糞ったれ」と応じたので、世界中のメディアが「糞とは何か?」「誰とはたれか?」と大騒ぎになった。2/20

まず前菜を喰い、次いでカレーライスを喰い、最後にコーヒーを飲みほしてから外野の守備についていると、突如大空の高みからボールが落ちて来たので、思わず両手を伸ばすとグローブにすっぽり収まったので観客席は「ナイスキャッチ!」と大騒ぎだった。2/21

対立する両勢力が泥沼の戦いを繰り広げているので、とうとう本邦最大のヤクザの大親分が仲裁に乗り出してケジメをつけることになったのだが、裏世界でケジメをつけることが出来るのはやくざしかいないからこそ彼らは廃れないと改めて知った。2/22

そこで私はこの際新たにケジメカメラマンになって、世界中で対立抗争する勢力がケジメをつける現場へ駆けつけ、その証拠写真を撮ろうと思いついたのだった。ケジメカメラマン!どうだ、新しいだろう。2/22

すると山口百恵や桜田淳子、西田佐知子、ちあきなおみなどもう2度と歌わないと思われていた歌手たちの一期一会のコンサートが開催されるというので、日比谷公会堂へ駆けつけると、長嶋茂雄という人が悪くない方の足で私の突進を阻止したのである。2/22

私は腰と辞をうんと低くして「長嶋さん、申し訳ありませんが、あなたの長くのびたこの足を引っこめてくれませんか」と頼んだのだが、世紀の打撃の天才児は知らん顔して、あろうことか今度は悪いほうの足まで投げ出す。2/22

頭にきた私が、「長嶋さん、いやさ長嶋。なんてことをするんだ。これでは百恵の写真が撮れないじゃないか。おいらはこれまであんたの大ファンだったけど、今日限り生涯敵に回るぜ」と凄んでいると、王や金田選手が出てきて「シゲさん、ええ加減にしろや」と云うてくれたので、長嶋茂雄はやっと両脚を引っこめた。2/22

折悪しく春一番が吹いて一睡も出来なかったので、私は夢と眠り、眠りと夢の間を区切る鉄板を大量生産し、その2つの間に建ち上げるのに大わらわだった。2/23

開演5分前になったのに、誰ひとり聴衆がいないので、私はだんだん不安になった。このT先生の大講演会は私が企画し入場券を売りだしたから、このままでは経済的に破滅してしまう。

開演時間がやってくると先生は無人の会場に向かって「ザウルスというてもフジザウルス、ウツボザウルス、エレクトロザウルスなどなどいろいろな種類のが別々の山で美味しい水を飲みながら楽しく暮らしているんだ」と云ってワハハハと豪快に笑った。2/23

M社に投稿した短歌が入選したので喜んでいたら、似たような短歌をA社にも投稿していたことに気がついて大慌てしているうちに朝になった。2/24

ガス屋さんがやってきて配管工事をしてくれたのだが、待てよ、昨日大工さんは、「ガスの配管はとっくに終わっているから何もしなくても大丈夫ですよ」といっていたことを思い出した。はて、どっちが本当なのだろう?2/24

悪ガキどもがうちの耕君をいじめていたので、私は彼とワルツを踊る振りをしながら様子を見ていた。するとそのうちの一人が突然襲いかかろうとしたので、私は耕君を巨大な振り子ブのようにいったん遠くに飛ばしておいて、ガツンと彼奴にぶつけた。2/25

すると、私の手を離れた耕君は、その悪ガキもろとも物凄い勢いで、よもつひら坂を転がり落ちていった。周章狼狽した私は、急いで真っ暗な坂道を駆け下りて愛する息子を探そうとしたのだが、坂下から広がる黄泉の国は真っ暗で何も見えなかった。2/25

彼女はラテン、ギリシア、英独仏露語を自在に操るカリストと聞いていたので、もしかすると日本語もできるのではないかと思って、私は学食でコーヒーを飲んでいる彼女に「やあ、こんにちは」と話しかけたのだが、女のキリストのように微かに頬笑んだだけだった。2/27

はじめはいつもと同じ坂道と見えたのに、登れども登れども、いっこうに行程がはかどらない。それでも我慢して急峻な坂を登攀しているうちに、翻然と悟った。いつの間にか私の体がいつもの三分の一くらいに縮んでしまっているのである。2/28

「世界何でもギフト本舗」の高橋という人からメールが舞い込んできて、全世界の恵まれない人々のために貴殿の短歌を寄付してくれないか、という申し出があったのだが、それはいったいどういう意味なのか分からず、私は途方に暮れていた。2/28

 

 

 

flower 花

 

姉の
庭にも

雨は降って
るんだろうか

ベランダから

姉の庭の花は見えて

風に
揺れていた

母に送ったバラの

花も
揺れていた

もう
あじさいも

咲いたろうか

そのヒトの庭にも
あじさいの花は咲いたろうか

静かに
笑っていたね

母はね

 

 

家族の肖像~「親子の対話」その2

 

佐々木 眞

 

 

「お母さん、オオヨワリってなに?」
「オオヨワリ?」
「オオヨワリだお」
「大弱りか。とても困ること、だよ」
「オオヨワリ、オオヨワリ、オオヨワリ」

「お父さん、サクラ、サクラ、サクラ好きですお」
「サクラ、お父さんも好きですよ」
「お父さん、桜は木にツに女ですお」

「さわむらさん、莫迦笑いしてたよ」
「サワムラさん?」
「ブラックプレジデントの」
「ああTVドラマの社長役の沢村一樹かあ」
「莫迦笑い、莫迦笑い」

「ヘーツト、ヘーツト」
「誰がヘーツトって言ったの?」
「綾部の精三郎さんですお」
(二人で)「ヘーツト、ヘーツト」

「お母さん、複雑ってなに?」
「物事がいろいろ混ざっていることよ」
「複雑複雑複雑複雑」

「皇太子さんはキシモト先生によく似ていますよ」
「誰に似てるって?」
「横須賀の歯医者のキシモト先生だお」

「お母さん、原因ってなに?」
「それが起きた理由」
「ゲ、ゲ、ゲンイン、ゲンイン」

「お父さん、赤羽線から埼京線に変わったの?」
「どうもそうらしいね」
「京浜東北線の6扉は6号車だけですよ」
「へええ、そうなの」

「お母さん、ぼく南浦和に泊ります」
「分かりました。いつ泊りますか?」
「分かりませんお、分かりませんお」

「♪もう一度、もう一度 なんの歌ですか?」
「うーーん、聞いたことのある歌だなあ」
「♪もう一度、もう一度 なんの歌ですか?」
「分かったぞ、小柳ルミ子の歌だ」
(二人で)「「♪もう一度、もう一度 なんちゃらかんちゃらもう一度」