芦田みゆき
奇妙な体験をした。
あたしはハーフ判カメラ-OLYMPUS-PEN-を持って、電車に乗り、知らない土地に降り立った。
止むかと思っていた雨は、さらに激しくなり、濡れて黒光りした町は湿気に満ちていた。
あたしと
風景と
フィルムに映し出されるはずの光景
すべては取り乱したかのような雨に打ちつけられ、塗りつぶされ、やがて、溶けていった。
しかも溶けた町は魅惑的な姿で、あたしを手招きするのだ。
おいで、ひとつになろうよ。
あたしは駆け寄り、いったい何が映っているのか、いないのか、暗すぎるのか、明るすぎるのか、ぶれているのか、静止しているのか、何もわからないまま、夢中でシャッターを切った。
カメラは、壊れてしまった。
深夜、あたしは眠れない。
目をつむると、写真が次々と降りてくる。
まだ見ぬ無数の写真が、現れては消え、現れては消える。
シャッターのリズムに合わせて重ねられたり、散ったりを繰り返す平板な写真たち。
失われた界面。
波立つ町。
あたしは、溶けた町に溺れていった。