電信柱も夢を見る

 

佐々木 眞

 

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谷戸の真ん中の電信柱のてっぺんには、
いつも大きな鳶がとまっていた。
ところが半年前から、その姿を見かけなくなった。

きゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅ
げんなじるふとべんすきいまるこーにぱっぱあーの
いったいこれはどうしたことだろうね。

どうしたことかと訝しんでいたのだが、せんだってその理由が分かった。
いつの間にやら、電信柱が激しく傾いていたの。
これでは鳶だって、おちついてあたりを睥睨できないでしょう。

ほかの電信柱はどうなんだろうね?
近くの電信柱を見上げると、大きく右に傾いているではないか。
その隣のコンクリートのやつも、その隣もやっぱり右に傾いている。

きゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅ
げんなじるふとべんすきいまるこーにぱっぱあーの
新事実だ! 新発見だ!

これは最近ますます右寄りに傾いている凶暴な政権党員の仕業ではないだろうか?
急いでわが在所の電信柱をきょろきょろ探したら、左に傾いているものも、ちゃんとまっすぐ立っている電信柱もあったので、ちょっとばかり安心したよ。

でも、それはもしかして、おらっちの目の錯覚ではないだろうか?
と少し心配になったものだから、県道204号の電信柱を、この眼で、まじまじ、「まあけっとりさーち」してみました。

すると、
右 32本
左 23本

まっすぐ 11本
合計 66本
という結果だった。

(ところでいま気がついたんだけど、
「右傾は逆から見れば左傾」なんだね。
これって、わりとあーたらしい物の見方ではないでしょうか?)

きゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅ
げんなじるふとべんすきいまるこーにぱっぱあーの
おどろきもものきさんしょのき

でも右顧左眄せず自立している電柱は、なんとなんとたったの6分の1だったんだ。
さあて、ここで問題です。
「どうしてあんなに多くの電信柱が傾いているのでしょう?」

「電信柱の荷物が、重すぎるから」
ブッ、ブ、ブ、ブ、ブウーッ!
おねえいちゃん、そんな生易しいことではニャアですぜ。

「フクイチで手いっぱいの東電が、電信柱どころではないから」
ブッ、ブ、ブ、ブ、ブウーッ!
おにいさん、世の中なめたら、いかんぜよ。

草木も眠る丑三つ時、電信柱は夢を見る。
毎晩まいばん、夢を見る。
頭に天が落ちてくる、怖いこわーい夢なんだ。

山河も眠る丑四つ時、電信柱は等伯が描いた「松林」になる。*
「おいらはたしか電信柱だったのに、どうして松になってるんだろう?」
芸者ワルツを歌いながら、電信柱はゆらゆら揺れる。

天井が落ちてくる恐怖に耐えられないおらっちが、
夜な夜な身体をくの字に折り曲げるように、
電信柱も、柱を曲げる。クックックッと、背骨を曲げる。

きゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅ
げんなじるふとべんすきいまるこーにぱっぱあーの
このせつ、電信柱も、大変なんだ。

 

*長谷川等伯(1539-1610)晩年の傑作「松林図屏風」

 

 

 

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海を
みてた

山を
みてた

休日には空を雲が流れるのをみていた

小さなころ
ことばをおぼえて

まだ
遊んでる

チチは死んだ
ハハも小さくなって死んだ

ヒトは生まれていきて
いつか死ぬ

あまり
語るべきことはない

小舟の底に寝て空をみていた