漆黒のスープ

 

正山千夏

 
 

雨の火曜日シナモントースト焼いて
ミルクティを淹れた
冷蔵庫のぶーんとうなる音ワンノート
今日は資源ゴミの日
つぶれたビール缶、スパイスの空き瓶段ボールの束
時間までに出しておけば青いトラックが運んでいくどこへ
灰色の雲で胃の中はいっぱいだ
選択は今日はできない乾かないから
わたしは重い足取りで運ぶどこへなにを

もしもあなたがそこにいるのなら
今ごろ漆黒の闇に浮かんで光を見ている頃かしら
そのスープにあなたもわたしたちもみんな溶けているのよね
世界は光と闇と、灰色の雲でできている
そこから先が思い出せない
光を見ていてたぶん自分もその光のうちのひとつで
それからどこをどうやって
気付いたら狭い参道だ

もしもあなたがそこにいなくても
わたしは漆黒の闇に浮かんで光を見ている
そのスープをあたためていると
光っていたのはさっくさくのクルトンだ肉体だ
だとしたらどんどん冷やしていけばいいのか
フリーズドライみたいにやがては粉々になって真空に
それからどこをどうやって
気付いたら呼吸していた

灰色の午後はアイロンがけをして
昨日の残りの煮物でお昼にした
冷蔵庫のぶーんとうなる音ワンノート
にぶら下がりながら夕食の献立を考えていると
郵便配達人がチャイムを鳴らした
見るとこないだ出した郵便物が宛先不明で戻されてきた
宛名のラベルがはがれてしまったのだという
迷子になっているのはあなたそれともわたし
漆黒のスープに浮かぶはがれたラベルを思うわたしどこへ