家族の肖像~親子の対話 その45

 

佐々木 眞

 
 

 

お父さん、後ろの反対は前?
そうだね。

お母さん、役に立つって、なに?
人のお手伝いができるってことよ。

お母さん、息がつまるって、なに?
息ができなくなることよ。コウ君つまったの?
つまりませんよ。

お父さん、高校って3年まででしょう?
そうだね。

ちなみには?
ついでに、だよ。

タケナカさん、いなくなってしまいましたよ。
タケナカさんって誰?
「盤上の向日葵」の。

◯はゼロに似てるね?
そうね。

アオイケさん、南浦和でしょう?
そうだよ。

お母さん、ぼくチャーハン食べてから、セイユー行きますお。
わかりました。

お母さん、ぼくは「転校生」好きですお。
そう。お母さんも。

落語って、なに?
面白いお話をすることよ。

図書館行ってえ、藤沢で定期買ってえ、回数券買ってえ、トウキューでお弁当買ってえ、ケーキ買いますお。
分かりました。

洗濯物、乾いた?
乾きましたよ。

205系は、車両が古くなったんですお。
そうなんだ。

こんど相鉄線、埼京線に乗り入れるよ。
そうなんだ。

出ますか?
出ますよ。

ボク、落花生好きですよ。
そう。
落花生、落花生、落花生。

いとしいって、なに?
かわいいことよ。

ウエダさんが「汚れ取りましたよ」といったお。
そうなんだ。

トダエリカ、大人になってからですよ。
なに?
トダエリカ、大人になってからのお話ですよ。
そうか、「スカーレット」の話ね。

コバヤシカオルとタカハシアツコ、なんで離婚したの?
なんでかなあ? それなんのドラマの話?
「幸せになろうよ」だお。

謝るは感謝の謝だよね?
うん、確かに。

よし、血圧測るぞ!
測ってね。

お父さん、正直にいいますお。
そうだよ、正直にね。

ぼく北海道新幹線、好きだよ。
そうなんだ。

お父さん、メイサ、武子とかでしょ?
それってなんの話?
「八重の桜」ですお。

お母さん、「至金沢八景」ってなに?
この道をずーっと行くと、金沢八景へ行きますよということよ。

お父さん、お巡りさんの英語は?
ポリスだよ。
なに?
ポリス、ポリス、ポリス。

いけねえ、駄目よ、のことでしょ?
そうだね

どこで冠水したの、道路?
千葉だよ。コウ君、冠水なんてよく知ってるね?

「コードブルー」、どんなお仕事する人?
ヘリコプターに乗って、怪我とか病気の人を助けるのよ。

ぼく「ルパン3世」おもしろかったよ。
そうなんだ。

お母さん、知恵って、なに?
よく考えたことよ。

カキモトコウゾウさん、亡くなったの?
そうだよ。

ぼくは、独りで南浦和行きますお。
そう。行ってね。

えーとねえ、カミウラさん、立て替えてくれたんだよ。
そうなの。良かったねえ。

ぼく、ガチャピンですお。
こんにちは、ガチャピンさん。お父さんはムックだよ。
こんにちは、ムックさん。
こんにちはガチャピンさん。

高速、お金払うでしょ?
うん、払うよ。

施は、ほどこしでしょ?
そうだね。

きっと、絶対でしょ?
そうだね。

お母さん、体調悪いって、なに?
身体具合が悪いってことよ。コウ君、体調悪いの?
悪くないですお。

さぞ、って、なに?
きっと、よ。

デザイナーって、なに?
いろんなかたちをつくるひとよ。

商売って、なに?
お店のお仕事よ。

エレベーター、物を運ぶとかでしょう?
そうよ。

お母さん、前進って、なに?
前へ進むことよ。

お父さん、脳腫瘍、おできでしょ?
うん、まあそんなもんだね。

カズエちゃん、お母さん元気?
元気だよ。

南浦和、タクちゃんとリョウちゃん、住んでたよ。
住んでたねえ。

小児療育の看護婦さん、ちょっと怖かったですお。
そうねえ。ちょっと怖かったね。
小児療育の看護婦さん、いなくなりましたお。
そうねえ、新しい人に変わったよね。
変わりましたお。

連佛さん、七瀬だったでしょ?
そうだったね。

びちょびちょって、なに?
水に濡れたときだよ。
びちょびちょ、びちょびちょ、びちょびちょ。

ぼく、バイカモ好きですお。
お母さんもよ。
お父さんも。

転院先て、なに?
移った病院よ。

ぼく、責任持ちますお。
そうなんだ。

お母さん、受け止めるってなあに?
いう通りにしてあげることよ。
連佛さん、受け止めるっていったよ。
そうなんだ。

お母さん、意外にって、なに?
思っていたことと違って、よ。

ぼく、おばあちゃん好きですお。好きなんですよ。
そう。お母さんもよ。

お母さん、ぼく小田急。小田急ゴゴゴ、ゴオー。

お父さん、減るの反対、増えるでしょう?
そうだよ。

お父さん、臨海線、東京にあるでしょ?
うん、あるよ。

もともとって、なに?
最初から、よ。

お父さん、シカにエサやると?
なに?
シカにエサやると、よろこぶよねえ?
うん、よろこぶだろうね。

 

 

 

あきれて物も言えない 10

 

ピコ・大東洋ミランドラ

 


作画 ピコ・大東洋ミランドラ画伯

 

虹をみている

 

3月16日はわたしの母の命日だった。
わたしの母、絹は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気と10年ほど闘い、死んでいった。

ALSは手足、喉、舌、呼吸器などの筋肉が痩せて力がなくなり自分では動かせなくなる病気だった。
10万人に一人から二人という難病であり、
だんだんと全身の筋肉が痩せていき、自分で歩けなくなり喋れなくなり寝たきりになり、食べれなくなり呼吸ができなくなった。

それで姉の家の母の部屋は病院の病室のように介護用ベッドがあり、
人工呼吸器機があり吸引機器があり母の足には脈拍と血中酸素濃度を測るセンサーが取り付けられていて、
そのセンサーの音が間断なく鳴っていた。その音が母が生きている証だった。
食事は胃ろうといってお腹に穴を開けて胃に直接、流動栄養食やお茶を流し込んだ。
東日本の震災以後は人工呼吸器の電源確保ということが課題となった。
当時、自宅でALS患者を介護することは珍しかったようで見学にみえる医療・介護関係者の方もいた。

母との会話は当初はメモで行っていたが、手も指も動かなくなり、質問に瞼の開閉で答えるということをしていた。
最後には自分で眼も開けられなくなった。
わたしが帰省した時には母の瞼を指で開いてあげるとそこには母の眼球があり、わたしをみていた。
眼が泣いていた。笑っていた。

自分の身体のどこも動かせなくなった母が人工呼吸器で肺を上下させていた。
わたしの姉は働きながら母のベッドの脇に布団を敷いて夜中に何度も起きて喉から痰の吸引をしていた。
姉は最後まで自宅で母を介護した。
また長年の介護スタッフの皆さんはまるで母の家族のようになっていた。
母はだんだんと痩せて萎んでいったが、ピカピカの綺麗な顔と身体をしていた。

今朝の新聞の一面に、「やまゆり園事件 責任能力認定」という見出しがでていた。
相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で重度障害者19人を殺害し、職員2人を含む26人に重軽傷を負わせた植村聖という30歳の男の判決の記事だった。

死刑だという。

「判決は、被告が園で働く中で、激しい行動をとる障害者と接したことや、同僚が障害者を人間として扱っていないと感じたことから、重度障害者は家族や周囲を不幸にすると考えるようになったと指摘。過激な言動を重ねる海外の政治家を知り、「重度障害者を殺害すれば不幸が減る」「障害者に使われていた金が他に使えるようになり世界平和につながる」と考えたと動機を認定した。」 *

と新聞の一面には書かれている。

また、37面の詳細記事には、
「たしかに法廷では差別意識につながる断片的な事実が明かされた。小学校で「障害者はいらない」と作文に書き、大学では「子どもが障害者なら育てられない」と話した。やまゆり園では「障害者が人として扱われていない」と感じ、やがて「障害者は不幸を作る」と思うようになった。」 *
と、被告の差別意識について書かれている。

新聞には亡くなった19人のエピソードが法廷で読み上げられた供述調書、心情意見陳述から引用されていた。

「美帆さん(19歳、女性)音楽が好きで「いきものがかり」の曲などノリノリで踊った=母」 *

「甲Bさん(40歳、女性)家では大好きなコーヒーを飲むと、お気に入りのソファに座った=母」 *

「甲Cさん(26歳、女性)見聞きしながら、ひと針ひと針一生懸命作った刺繍も上手だった=母」 *

「甲Dさん(70歳、女性)園に着くとニコニコと私の手を取り、「散歩に連れて行って」と伝えた=兄」 *

「甲Eさん(60歳、女性)食パンが大好き。園ではスプーンを自分で使えるようになった=弟」 *

「甲Fさん(65歳、女性)買い物が好きで、お菓子や色鮮やかなレースやフリルのある服が好き=妹」 *

「甲Gさん(46歳、女性)職員にマニュキアを塗ってもらって、うれしそうに爪を差し出して見せた=母」 *

「甲Hさん(65歳、女性)電車やバスに乗る時は、高齢の人に席を譲る、心が純粋で優しい子=母、弟」 *

「甲Iさん(35歳、女性)手を握り話かけたり、散歩に連れて行ったりすると、笑顔で喜んだ=父」 *

「甲Jさん(35歳、女性)水をおいしそうに飲んだ。母が食事をさせるとくしゃくしゃに笑ったりした=弟」 *

「甲Kさん(41歳、男性)洗濯物を干していると、頼んでいないのに物干しざおを準備してくれた=母」 *

「甲Lさん(43歳、男性)相模湖駅前の食堂で一人で食べきれない量を注文し、全部食べて笑っていた=母」 *

「甲Mさん(66歳、男性)ラジオのチューニングが好きで、きれいな音になるとうれしそうにした=兄」 *

「甲Nさん(66歳、男性)面会に行くと、自分で車のドアを開けて乗り込み、笑顔を見せた=姉」 *

「甲Oさん(55歳、男性)家族の誕生日にはカレンダーの日付を指しておめでとうと表現した=妹」 *

「甲Pさん(65歳、男性)動物が大好きで、動物の絵本を持っていくとすごく喜んだ=兄」 *

「甲Qさん(49歳、男性)成人の時、本人の希望通りパンチパーマにスーツで写真を撮り、笑顔を見せた=母」 *

「甲Rさん(67歳、男性)「兄ちゃん帰るから、また来るからな」と言うと、右手をあげ「おう」と挨拶した=兄」 *

「甲Sさん(43歳、男性)車に乗るのが好きで毎年、家族で長野にドライブへ行った=母」 *

ここには亡くなった19人の被害者と家族との個別の経験と想いが述べられている。
施設では彼らはどのように扱われていたのだろうか?
わからない。
植松被告の”想い”は、重度障害者と家族との個別の経験と想いに届かなかったのだったろう。

障害者施設のことをわたしは詳しくは知らないが、
何度か義母を病院に入院させた経験から総合病院のことは少し知っている。
病院の5階のフロアーの全てのベッドに老人たちがいた。
わたしは毎日、義母の病室に見舞ったが、他の老人たちに見舞いにくる家族はとても少なかった。
老人たちも家族に迷惑をかけたくないと思っているのか静かにしていたのだったろう、なかには泣き叫ぶ老人もいて、その声に義母はおびえた。
病院の医師や看護師たちの仕事は過酷にも思えた、医師たちはいつ家に帰っているのだろうと思えた。
看護師たちは少ない人数で効率的に作業をすることを求められているようだった。
そこには決められたことをマニュアルに沿って施すという”作業”が見られた。
おそらく過酷な作業環境の中で患者である老人たちと人間的に接するという機会は制限されるだろう。

義母を病院に入院させておくのが可哀想に思え担当医に余命を聞いて退院させてもらったが、
自宅に老人たちを迎えられない事情を持った家族が大半なのだと思えた。
病院が姥捨山のようだったとは言わない。
なかには子供たちや孫たちを連れて見舞いにくる家族もいたのだ。

 

まど・みちおに「虹」という詩がある。

 

虹 **

 

ーーーー白秋先生を想う

お目を 病まれて
おひとり、
お目を つむって
いなさる。

心の とおくに
虹など、
いちんち 眺めて
いなさる。

虹が 出てます
先生、
障子の むこうで
呼ぶ子に、

見てるのだよ と
おひとり、
やさしく 笑って
いなさる。

 

まど・みちおの詩を読む時、
そこには、まど・みちおと白秋先生の個別の生があり、
個別の生を超えて、まど・みちおの想いが白秋先生の虹に届いているように思える。

そこに詩が生まれている。

 
あきれて物も言えません。
あきれて物も言えません。

 

作画解説 さとう三千魚

 

* 朝日新聞 2020年3月17日朝刊からの引用
** 岩波文庫「まど・みちお詩集」からの引用

 

 

 

マコとマコト

 

佐々木 眞

 
 

一人は男、一人は女
一字違いの名前だが、その他もろもろが随分違う。

男には姓も名もあるが、女にはなぜか姓がない。

男の名前は普段呼び捨てにされ、偶には「さん」が付くが、女には常に「様」とか「さま」が付く。

男はパンと家族のために額に汗して働いてきたが、女には、その必要はまるでなさそうだ。

男の稼ぎの一部(極ごく一部だが)は、女とその一族の暮らしのために提供されているが、
女からの見返りは全くない。

男はひどい猫背で、外に出ると蝶や地面の石ころなんかを見ているのに、女はピンと背筋を伸ばし、所謂「上から目線」で闊歩している。

この広い世の中で、男に頭を下げる人は誰一人いないが、女の前では、誰もが(あの慇懃無礼な独裁者でさえも)丁重に下げる。

これらの違いはずいぶん大きいのだが、何の因果でこのような差がついたのかについて縷々説明してくれる長屋のご隠居はいなくなり、今では学校の先生に訊ねても、ちゃんと答えてくれないようだ。

しかしながら、男と女の共通点もある。

男も女も現生人類=ホモ・サピエンスの対等な一員であり、万世一系か複雑系かはいざ知らず、どんどこ時代をさかのぼれば、先祖は縄文人か弥生人の山頭火のような風来坊に辿り着くはずである。

さて、ここで問題です。
もし男がパッタリ女に道端で出くわしたとしたら、男は女にどういう態度を取るでしょうか?
次の4つから選んでください。

1) シカトして、黙って通り過ぎる。

2) 恭しく低頭して、上目遣いにチラっと顔を見る。

3)「こんにちはマコさん、僕はマコトです。同じ漢字の名前なので、お見知りおきを! どうぞ宜しく!」
と元気よく挨拶して、さっと右手を差し出す。

4)その他。

 

 

 

反射

 

原田淳子

 
 

 

刻まれることない
墓のしづけさで
蕾を数える

薫る朝までのゆめ

/

石の光の反射に過ぎない星の位置に
人型を紡ぐのが翻訳だとしたら
温度のない無機物に
もしかしたらVirusにさえ人型を求めるのは
人は断絶を恐れているからでしょうか

翻訳が断絶の治療薬でしょうか

それとも
流れてゆく人型を忘れぬための.

/

横ではない縦の階層のオーロラ
滝を横滑りする
意味を翻して

遠近法は、距離
星々の摩擦
向きは光速の逆位置
意味を反射せよ

/

逆さまの滝に
彼方の横顔を描く

いないあなたは
いないわたしの反射

倒れているのは塔ではない

流れいる船
小動物たちが温めあう

声だけが
彼方に反射する

 

 

 

民家なのに自販機置いてる *

 

この町では

きのう
学校がひらかれた

子供たちが
道を歩いている

もうすぐ春休みになる

民家なのに自販機置いてる *

大人たちは
仕事にいく

今日も

ウィルスと
交わる

交わりはDNAに記録される
子孫に残す

能記所記の
所記に

男と女の幻影は佇つ
交わりは

マスクして戸は開ける *

マスクして *
戸は開ける *

松崎の
海の見える岩山の林の中の

林の中に

女がいる
風が渡っていく

 
 

* 工藤冬里の詩「あ、と@ー」からの引用

 

 

 

あ、と@ー

 

工藤冬里

 
 

@-
あなたなしで
@-
違いました
奇効 卓効 の 違い の ように
蓬でも摘み
あなたが居て
(絵画の季語を更新したからにはドイグは)
あ、場所がないってことは
ない場所で書けってことか
いよいよだな
すべての連結をばくてりあに代行してもらうさだめの時が到来しました
ぼくはその間泳いでいよう
頭を地球にして
運転なんぞはばくてりやに代行してもらおう
さいぜりあかさいぜりやかも決めてもらおう
そしてぼくは遠い外国に旅に出よう
あ、遠い外国なんてもうないんだった
じゃあ上池の土手を一周しよう
その間に何人死ぬるかな
あ、死ぬるはこっちの方言だったごめん
つい出ちゃってサア
ずっとろくに寝ないで働き続けている
空いた時間は自分の遺品を整理している
僕が死んでもうずいぶん経つので記憶が薄れてきている
人の名前をとうとう一親等くらいまでしか覚えられなかった
ほとんど味噌と納豆を食べていた
彼はオープンカフェが好きだった、という墓碑銘は、もっと行っておきたかった
たなぁというような意味に過ぎない
身体は歯を外に押し出そうとする
子らの歯が浮くのはこのためだ
裏を表に表を裏に
民家なのに自販機置いてる
眠いですさんたまりあ
と象は言って寝ました
自営やフリーターにも援助が出るっていうけど現金くれるんだろうかファミレスで寝てはいけません
横になれたら死んでもいい
あ、わかったストロングゼロ6缶pとか現物支給だと思う
そう理に手紙書いてその配達をいちおく円で請け負おう
音楽はいつも向こう側を流れている
音楽は川ではなく川の向こう側を逆流している
川に釣り糸を垂れても音楽は作れない
作りに行く音楽は川で海の魚を釣り海で死んだ川魚を掬うようなものだ
コロナのせいでしばらく図書館車を止めるという電話が入った
棚の隅で古井由吉か白石一文フェアを設えようと思っていたのに、
そういうことです
と言われた
昔、里見弴やゴーチェの文体について話していた時に角谷が言った、
彫琢のある
という山口弁の言葉の響きがまだ残っている
粋な看守の計らいで
朝マルシェで見たけど東温でもビーツ栽培してるひとが居(を)るんやね
バンドマンは腰にも木綿のバンダナや絹のスカーフを身に付け羅紗の云々
代車?
おれは代車だったのか
@-
あなたなしで
@-
爆睡フライデー
3.11
空白空0フゲロ phygelus
ええ、固めで
薄味にしてください
あとは普通で
(古井由吉遺作を読んでいる)
空白空0ヘルモゲネ hermogene
はーい
(デマスに)ネギイチカタウスです
空白空0デマス demas
はいよ
(フゲロに)薄めでも飲み干したら世界は同じことだ
糸井批判は贖いを薄めるため、
道連れのライブハウス最終兵器彼氏はポアと同じ発想
老人死
見渡すかぎり
サガミハラ
2°Cか
思えばテロは文明であった
文明は恐竜のように滅び
ウィルスは虹運動の果てとしてヒトとの婚姻届を出せるようになる
権利が認められたのだ
前に同じことがあった
労働者から少数民族に移行した後家畜に目を向け最後は単一プランテーション批判に行き着いたエコロジーの、
更にその果ての死後のアルシーブとしてのレピと似ているのだ
その爬虫類顔への流れは、エデンの命名の逆を行った。存在よりも翻訳の方が大事なのだ。逆行の獣姦としてのコロナの顔にこそ反逆者の王冠があった
言語より翻訳の方が上に来るので似姿の失敗はコロナの顔に転写されてゆくのだ
ヒトは瀬戸の花嫁
ウィルスからウィルスへ
翻訳していくの
幼い弟
コロナと泣いた
オトコロナだあったら
ないたありせえずうに
父さん母さん大事にしてね
やだコロナ目がない
美女と野獣と思えばいいのよ
もうじき国が目を描き入れるわ
じゃあ行きますと答えるリベカ
夫は立ちション(誤訳)黙想しても感染しない唯一の希望の星だった
希望は絶望
絶望は希望
ウィルスのように増えたので
人間のように増えたのだ
能記所記
肺炎初期
裴氏とカイジ
分断熱38度線維持
はいはhigh
いいえはyeah
ハイヤー理不尽川
李夫人と裴氏
奇天烈コロナリ
モータウン
それは牛の町
ベーブ・ルース
コロナイン南港
裴氏の色やね
一旦バキューン
丹波牛
脳林水産大尽
カフカ保護
株価変身
コロナイダー
カローラコロナソアラの三人
おころのみ焼
なろうなろうコロなろう
あすは肺炎の気になろう
おんころな人は肺を受け継ぐでしょう
おところんところんな
公論な
「殺な」糸井貫二
ころならまんせい
コンコンハクション
コロナロー
コロナあ、と@-
ヨーヨーマ
芙蓉蟹
厚労省
コーロー麺
(いや紅楼夢、かな)
オペラナブッコロナ
神戸のお菓子と言えばコロナンバン
餡ころくださいな
ナンコロ?
6個な
炭火?
コンロな
ころなずむ黄昏
こころなはずむビギン
二人でつつくコロ鍋
絶対出てくるコロナート
放射能:人命保護
テロ:文明保護
コロナ:人類保護
の三層のパイ生地
増えることは減ること
減ることは増えること
うれしいことはかなしいこと
かなしいことはうれしいこと
生きることは死ぬこと
死ぬことは生きること
見えないものは見えるもの
見えるものは見えないもの
昔はトリチウムがそうだった
今はコロナだ
トリチウムは生き物ではない
コロナはばくてりあでちゃんとした生き物だからきみとも結婚できる
セリーヌがまんまと医者になれた論文「ゼンメルヴァイスの生涯と業績」は
手を洗うという行為が見えないものと結びついているという布教に終始しているが
見えないものに対する感受性こそが作家の資質であり
それがフィリピンパブに拡散しに行くことにも繋がっていくのだという怖ろしさを
セリーヌ自身は免れているという仕掛けになっている
聖セリーヌ全集は真っ白な装丁にすべきであった
フィリピンパブに話を戻すが
崖っ淵の豚の群れ以来の道連れの自棄は
サガミハラを経て
拡散の自暴となって目に見えるようになった
何回も繰り返すがこれはポアであり
無意識の陰謀論的人口削減願望のユング的現われであると言える
芸術の優先順位はそのダークサイドに直面しつつも、ピラトの手の洗い方ではなく、セリーヌの白さを持たなければならない
管は避け弦かデジタルにする
マスクして戸は開ける
アルコールがないなら焼酎を噴霧し続ける
急に1℃になった
手にハンマーを持て
という歌がかかっているが
コロナの魂がひとつ
飢えた虎に身を差し出す
きみも死んジャイナ節
全米が死んだ
鎖国して触る鎖骨
骨粗鬆和尚
射殺せよと呼ぶ声が聞こえ
バグワンが沢庵をバクバク
唇にチック
目頭2:50
PayPayペンペン草
一遍遍上人
ふだんはさえない少年・石野あらし。だが、ひとたびゲーム機に向かうとき、その才能が目を覚ます!!
ホケキョと啼いて踵を返す死んだ女房の近視顔
風邪っぽい
栄光
軽んじる
くさみどり
000あるくまね
菜の花はリングの中
眠いのでダンスの軸足がふらつくが
アトリエの埃だと思って光を浴びる、
シーク教徒のターバン
ああ
あなたなしで
ああ

 

 

 

Sakura Sakura

 

長田典子

 
 

さくら、サク、ラ、
かすみかくもか
薄墨色、けぶる
花房、すずなりの、
み、わ、た、す、か、ぎ、り、
アバンギャルドな、不穏に響く変ホ長調、CDから流れる
スタンリー・クラークのSakura Sakura みわたすかぎ、……消音、空白の、り、
アバンギャルドな、不穏な、り、立ち現れたる我らの
妖怪「土蜘蛛」の、千筋、万筋、白い糸伸ばす、
Scatter 散りばめる、
り、はらはら垂れる り、り、…… ふいに消滅、
ウッドベースの低い重なる不協和音 破れ、去る、空白、その気配、

低い空から弾ける薄墨色の花火は
下降する、はらはら花びら Scatter まき散らす
五臓六腑に匂い発つ墨…、墨…、じわじわ薄紅色に染めあげ、
長机に向かって小さな手で書いた高音の「さくら」から遥か遠く
黒い土の上をけぶる薄紅色の気配
花房、
群れる 散る 這う 広がる 渦巻く その先の空白
空白 ヨコハマ、リビングから
てのひらの「土蜘蛛」の糸、千筋、伸ばし伸ばし、飛ばした
七年前のニューヨーク、ブルーノートへ
大嵐、
水没したロウアーマンハッタン
三日後には開店
ステージが終わると客は急ぎ足で外に消えていった
Scatter 散らす、
暗闇の中でライトが小さく灯る
何か記念のお土産をと二階に上がって行ったら
いつも人で賑わっているフロアには誰もいなくて
あなたにバッタリ出くわした
咄嗟に
二人で写真を、とお願いしたのだった
あなたの腰に腕を回し脇腹の贅肉をぎゅうっと摘んだ
写真よりもその手の感触がわたしのお土産
いざや いざや
七年後、
二〇二〇年
ブルーノート・トーキョー
ようやくあなたのウッドベースの音を聴いた
記念のお土産に買ったCDの
Sakura Sakura
不穏な変ホ長調、二オクターブ下の重なる隣合わせのドとシ、はらはら、煙る
けぶ、る
ヨコハマのリビングでSakuraは
いざや いざや
渦巻く不協和音、濁る、一月の床は冷たく広がる
のやまもさとも
攻撃、報復、くすぶ、る、る、疫病、る、る、り、花房めくるめく、
低く弾ける花火は黒い土の上を群れる、渦巻く、散らばる、くすぶ、るる、
花房はなびら るる、り、り、り、はらはら散らばる り、り、
立ち現れたる
我らの妖怪「土蜘蛛」の白い糸、千筋、万筋、伸ばす り、り、り……、
消音する、りりりりりり……、不穏な、り、り、り、
Scatter 散りばめる、
スタンリー・クラークのウッドベースがリビングの床に反響する
温かい消音、り、りりりりりりり……、五臓六腑に沁みわたる
あの日
あなたの脇腹の贅肉をぎゅうっと摘んだその指で
紐スイッチを引く
ライトを点ける
けぶる 春
薄墨色の花房
不穏な 温かい 燻る
はらはら るる、り、り、り、り、り、り……、
いざや いざや
春です

 

※童謡「さくら」より引用あり
※「Sakura Sakura」…『Jazz in The Garden』The Stanley Clark Trio with Hiromi &Lenny Whiteより引用

 

 

 

また旅だより 19

 

尾仲浩二

 
 

ほんとうならこの便りはニューヨークから送るはずだった。
だけれどコロナ騒動の煽りで東京で暗室に入っている。
まだこんな事が起るなんて誰も思ってもいなかった昨年10月の中国の写真をプリントしている。
この写真を中国の人たちに見せる日が早く来るといい。

2019年3月14日 東京中野にて 

 

*****
 
写真展情報
1月18日より4月5日まで
奈良市写真美術館にて個展「Faraway Boat」
http://www.irietaikichi.jp/