アラサー、「時間」と向き合う

 

みわ はるか

 
 

数ヵ月先に親族の結婚式に参加しなければならなくなった。
こんな書き方をすると怒られそうだが、女性にとってこれは頭を悩ます問題である。
友人であればある程度きれいめなワンピースでも持っていればたいていは無難にすむ。
しかし、親族となれば話が違う。
参加するというより迎えるという立場になってしまうのであまりにも華やかなものは好まれない。
着物を着る人が多いと聞くがこれがまた会場が遠方で、式が終わったらすぐに帰らなければいけない日程のため現実的ではない。
さらに、一昔前の人たちは着物の1着や2着自宅にあるというのが普通であったらしいが残念ながらわたしは1着も持っていない。
持っていたところで自分では着られない。
きれいめなワンピースを数着はクローゼットにしまってあることを思い出したが会場の雰囲気にはいまひとつといったところ。
物が増えることが好きではないわたしにとって今後使用するあてがない物を買うという選択肢は毛頭ないし・・・・。
うーんと声に出してしまいそうな勢いで眉間に皺を寄せているとふっと名案を思いついた。
華やかな会場でも気後れしないきちんとした洋装をレンタルすればいいんだ!
少し考えれば誰でも思いつくようなことなのだけれど、その時のわたしはこの上ない解決策を見つけたかのように顔がニヤニヤしていたと思う。
それからは早かった。
Google様に頼りながら自宅近辺の貸衣装屋さんを探した。
2つ程目星をつけて週末に来店する旨の予約をとりつけた。
これで準備は整ったとPCを閉じ、TVの前に座り煎餅をボリボリとかじっていたらいつのまにか安心したのか深い眠りについていた。

週末はすぐにやってきた。
朝が苦手なわたしは休日は昼頃まで寝ることが多いのだが、その日は眠い目をこすりながらカーテンを開け、洗面所で顔を洗った。
朝ごはんはパスして、急いで化粧を済ませると車に飛び乗った。
1件目のお店は小さな可愛らしいお店で、隣にはカフェを併設していた。
ちょっとしたアクセサリーも売られているスペースもあり、おとぎ話に出てくるような建物であった。
中に入ると先客がいたため少し待つこととなった。
普段、カフェとか可愛らしい小物が売っているようなお店にほとんど行く習慣がなかったため新鮮だった。
月ごとに違う石?をアクセサリーにして売っていたり、石?水晶?のようなものをそのまま陳列してあったり。
心の中で石がこんな値段するのかと驚いて、2、3回値札の0の数を数え直した。
しばらくするとわたしより若いと思われる化粧の濃い店員さんに案内され貸衣装が並べられた部屋に入った。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
確かにある。数十着のドレスがハンガーに所狭しと並んでいる。
それに合わせたパンプス、アクセサリー、鞄。
だけどそれはわたしの想像していたものとは違った。
どちらかというとパーティーとか、1.5次会で着ていくようなややカジュアル系のものでリカちゃん人形に着させるような可愛らしいものばかりだった。
わりとふりふり系のものが多かったのだ。
30才を目前にしたわたし、童顔で幼く見られがちなわたし、わーーーー着られない。
ものの数分でこの店のコンセプトを理解したわたしは「すいません、すいません」とひたすら謝って、逃げるようにその店を後にした。
簡単に見つかると思っていたわたしは一気に崖の下に落とされたような絶望感にひたった。
次の店もこんな感じだったらどうしよう。
心は半泣きでナビに次の行き先を入力した。
2件目は淡い水色の外壁に守られた3階建ての造りだった。
恐る恐る入口から入ると年配のあまり化粧っ気のない、それなのにどこか上品な感じの女性がにこにこと出迎えてくれた。
ドレスは膝下で、なるべく大人っぽく見えるものがいいんだと初めから要望を伝えると、慣れた様子で何着かわたしの前に並べてくれた。
それはまさにわたしが探しているものだった。
色々試着させてもらって黒のノースリーブのロングドレスでラメ入り薔薇の刺繍が入ったものにした。
ボレロはベージュのこれまたラメ入り。
鏡の中の自分が違う人に見えて目をぱちくりさせた。
あんなにもめんどくさいと思っていた自分の衣装選びの時間がなんだかとてもうきうきしたものだったなと感じた瞬間だった。
小学生のころ、遠足のお菓子は〇〇円までだと決められてスーパーで駄菓子エリアの前をうろうろしていた時間。
なんとなくいいなと思った同級生にどうしてもバレンタインでクッキーを渡したくて慣れないキッチンの前で何時間も奮闘していた時間。
数時間のセレモニーのために事前に袴を決め、当日は着付けやヘアアレンジのためにものすごく早起きをしなければならなかった大学の卒業式。
たった一瞬のために準備する長い長い時間。
諸手続きを済ませて店を後にするころにはすっかり日が暮れていた。

ウインドウショッピングが苦手なわたし。
休日は昼まで毛布にくるまっているのを好むわたし。
いつも終わるのをまだかまだかと願って参加する職場の飲み会。
まぁいいかと下処理を省いてしまう夕飯づくり。
自然な流れだけれど疎遠になっていく友人関係。
見て見ぬふりをしたくなる両親の老い。

もう少しだけ1つ1つを丁寧に扱っていったら、楽しんでみたら、何か変わりそうな気がしてきた。
頭の中で考えすぎて疲れる前に行動にうつして見るのもいいのかな。
そういえばこないだ職場の若い子が上司から「あなたは体当たりで仕事をするから困ります」
と言われていたけれど、なんだかわたしにはそういう所が欠けているのかもと思った。
まだきっと若いから。
若さだけは誰も後からは手にできないから。
まだまだやるぞーとなんだか不思議な力が湧いてきた。

そんなことを感じながら今年初めて梅が咲いているのを発見したアラサーの夕暮れ時の話。